ピンクのガーベラ そして、継承
「ヒッウグッ ヒック おがあだまぁ 」
シオン様に抱かれて娘が泣いている。可愛い顔がぐちゃぐちゃだ。
「マリア、どうしたの? 」
「おばな、がれぢゃっだぁ こでぇ」
そう言って、マリアが差し出したガーベラは、既に乾燥しかかっていた。
「このお花はどうしたの?」
「わがんない、おがあだまにあげようっでおぼって、ぼっでぎだの でも、がれじゃっだぁ」
もしかして、この子………
「マリア、なかないで? お花を持って来るとき、何かお願いしなかった?」
娘の顔をきれいにしてあげながら、聞いてみる。
「したぁ おかあさまがみるまで、きれいでいてって」
「やはりそうか」
シオン様も、もしかしてと思っていたようで、笑ってマリアを宥めている。
「ねぇ、マリア? お母様が、いいにおいのするお水を作っているのを知っているでしょう?」
「うん、マリアあのおみず好き」
「そう。お母様はね、魔法を使ってあのお水を作っているの。わかる?」
「うん、よくみてるよ」
言い付けを破って作業を覗いているのを白状したようなものだが、それは置いておく。
「あのね、マリアのお花が枯れたのは、お母様と同じ魔法をマリアが持っているからなのよ」
「でもマリア、おみずつくれない」
「大丈夫。もう少し大きくなって練習すれば、マリアもお水が作れるようになるわ」
「おとうさま、ほんとう?」
「ああ、本当だよ。お前の魔法はとても素敵な魔法なんだ。いいにおいのお水も作れるし、ご本を大事にすることだって出来る。まだ今は難しいけど、もう少し大きくなれば出来るようになるよ」
「わかった!」
マリアが笑って腕を伸ばしてくる。シオン様がそれに合わせて、マリアを渡してくれた。
「じゃぁ大きくなったら、おかあさまのおてつだいしてあげるね」
「ねぇ、まぁーだー?」
祖母のお墓に先に向かったはずの長男ジェリスが、ピンクのガーベラの花束を抱えて、焦れったそうに足踏みしている。
なかなか追い付いて来ない妹と両親を、迎えに戻って来たらしい。
ジェリスも『気化』と『保存』の魔法を持っている。
それを聞いたジェスキア公爵が、嬉しそうに『次期館長候補が2人も』と笑っていた。
お義父様、これで候補は3人ですわ
だが、ジェリスと同い年の次期ジェスキア公爵は、書物の管理よりも、大伯母のテレジア様の秘書になりたいと言っているらしく、いつまで働かせる気だ?と彼女を困らせているらしい。
「早くおばあ様にお花をあげに行こう?」
「マリアもいくー!」
腕から抜け出そうとする娘を下ろすと、妹は兄のところに駆けていく。自分もお花を持つんだと、兄の花束からガーベラを引き抜き始めた。
そのせいで弛んでしまった花束から、ポトリポトリとガーベラが落ちてしまっている。
ガーベラを落としていることに気づいていない2人は、おばあ様に何を話すんだと、忙しなく喋り続けて両親をおいていった。
そのあとを、ゆっくり笑いながらシオン様と歩いていく。
「テレジア様がいらっしゃれなくて残念ね」
「ここのところ、陛下が仕事を抜け出すみたいなんだ。そのせいで、仕事が回ってきて忙しいらしい」
「親子ねぇ。無理をされなければいいのだけど」
「大丈夫。このあいだ、母の代わりに玄孫の顔を見るんだと言ってたから平気だろう」
ジェリスが落としたガーベラを拾ったシオン様が、私を振り返った。
「フレデリカ。母が愛したこの花は、俺と祖母や叔父にとって、ずっと不吉な呪われた花だった。でも君のおかげで、またこの花を愛せるようになれたんだ。母の愛した花を愛させてくれてありがとう。フレデリカ、愛してるよ」
そう言って、シオン様がピンクのガーベラを差し出した。
fin
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どうにか、完結まで辿りつけたのも、読んでくださっている皆様のおかげです。
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