表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/8

はにかむ男の子

 迷惑な客はまた乗ってくるのだろうかと思いながら、廣瀬は周りを見た。スマートフォンを操作している人、本を読んでいる人、寝ている人など様々だ。


 しばらくぼーっとしていると、東京駅から何人か乗ってきた。廣瀬の前には若い女性が吊革につかまっている。すると、南浦和駅からずっと廣瀬の隣に座っていた大学生くらいの男の子がいきなり立ち上がり、「ここどうぞ。僕立ちますので」と、廣瀬の前に立っている女性に声をかけた。優しい口調から、男の子の人柄を想像することができる。女性は、恐縮しながらも、「すみません。ありがとうございます」とお礼を言い、廣瀬の隣に座った。


 今までの乗客が迷惑な客ばかりだったために、この男の子の行動に心が温かくなった。廣瀬だけでなく、周りの乗客も一部始終を見ていたようだ。女性に「よかったね」と言う人や、男の子に対して軽く拍手している人もいる。


 まるで車内に空気清浄機が取り付けられたのかと思う程、空気は爽やかになっていた。


 そんな中、廣瀬は、疑問に思ったことがあった。この男の子はなぜ席を譲ったのだろう。女性の年齢は、廣瀬の直感が正しければ、二十代後半から三十代前半くらいに見えた。女性のお腹は膨らんでいないし、けがをしているようにも見えない。女性の好感度を上げるために、譲ったのだろうかという卑屈な考えが浮かんでしまった。


 何気なく女性が膝に抱えているかばんが目に入った。そこで廣瀬は気づいた。かばんには、お母さんと赤ちゃんが描かれたマタニティマークが付けられていたのだ。お腹がまだ膨らんでいなかったとしても、妊婦であることには変わりない。男の子の観察力に驚くとともに、見て見ぬふりをせずに席を譲った行動力にも拍手を送りたくなった。


 そうしているうちに、新橋に着いた。廣瀬は鞄を持ち、席を立った。どうやら男の子も降りるようだ。降りるときに、女性が男の子に改めて「ありがとうございました」と礼を言った。男の子は、「いえいえ」と、はにかみながら手を顔の前で軽く振った。そして、ホームに降りると、階段を一つ飛ばしで下りて行った。廣瀬が階段を下りたころには、男の子の姿は見えなくなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ