ドリスとリアノン、2人の中の優先順位
今回は視点が「サブロー」→「ドリス」→「サブロー」と変わります。
※本作ではサブロー視点の場合は1人称、それ以外の人物の視点では3人称の描写となっています。
――「聖セルロドス皇国の騎士であるエメール様へ、あたしから、お願いがあります」
ドリスからの問いかけを受けて、エメールさんは一瞬、ビクッとなった。わずかだが、警戒心が湧いたっぽい。
エメールさんの気持ちも分かる。
ドリスの声量は決して大きくは無いものの、その語気には妙な迫力があり、適当に聞き流しするのは許さない……そんな剣呑な雰囲気が、彼女から伝わってくるのだ。
「……ドリスが、私に頼み事? なんだろう? 私に叶えられる内容だと良いのだが。ともかく、言ってみてくれ」
「ハイ。たった今、サブローはアンジェリーナ様たちと話をしました。それをエメール様は側で、お聞きになりました。それで、エメール様が本日に入手された情報も含めて、ご存じの事柄を、ボンザック村に居るアレクへ知らせて欲しいのです。出来るだけ早く」
「アレク様……いえ、アレクへ?」
「ええ。エメール様は、あたし達のパーティー《暁の一天》のサブリーダーであるソフィーと懇意な関係であるのですよね? アレクもソフィーも、このナルドットで現在進行形で起こっている騒動の中身について、詳しく知りたいはずです。まして、パーティーメンバーであるサブローとあたしは、これからトレカピ河を越えて、タンジェロの地へ向かうことになります。侯爵家のフィコマシー様のもとにパーティーの仲間であるキアラが残っていますが、彼女は目下、フィコマシー様を護衛するという任務についています。侯爵邸から離れるわけにはいきません」
「ふむ。だから、私を伝令役として便利に使おうと、ドリスは思ったのか?」
エメールさんが皮肉めいた調子の言葉を返しても、ドリスは全く怯まなかった。
「そのような考えがあるのは否定しませんが……どのみち、エメール様はボンザック村へ足を運ばれるつもりだったのでは? ナルドットで、これほど重大な事件が立て続けに起こっているのです。ボンザック村で動きが取れない状態のアレクとソフィーは、このままでは情勢の変化へ対応するのが遅れてしまう。その結果、下手をしたら将来、取り返しがつかなくなる可能性もある」
「それは……」
「まさしく、憂慮すべき事態ですよね。エメール様は、急いでソフィーと連絡を取りたいはず。違いますか? なので実のところ、あたしとしては頼みごと……というよりも、念押ししているだけとも言えますね」
ドリスが、うっすらと笑う。それは親しみを込めた笑顔では無く、明らかに相手と駆け引きをしている表情だった。
エメールさんは少しばかり迷ったようだが、やがて、ゆっくりと頷いた。
「……承知した。仲間に使いを頼んで、変に間違った話が伝わったり、ソフィー達を無駄に混乱させたりするのは本意では無い。彼女達のケガの治療具合も気になるしね。直接、私がボンザック村へ行くことにするよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
ドリスが頭を下げた。彼女の金色のツインテールが、どちらも揃って軽く揺れた。
♢
ドリスは思う。
(これで、アレク様たちはナルドットで起こっている緊急事態の内容を確実に知ることが出来る。身体の回復次第だけど、可能な限り早くにボンザック村を発って、ナルドットに来るようになる)
アレクとソフィー、それからレトキンが、ナルドットに到着したら。
そのあと、必然的な成り行きで、アレクはフィコマシーと対面することになるだろう。
アレクは、冒険者パーティー《暁の一天》のリーダー。表向きは男性。周囲の人間も、おそらくアレク本人も、その性別に疑いの念を持ってはいない。
フィコマシーは、ナルドット侯爵家の長女。表向きは容姿に問題があり、周囲から嘲笑の対象となっている。
けれど、魔族ターナダクとのやり取りで、その裏側に隠されている真相をドリスは理解した。
アレクは、女神セルロドシアの聖女である。
そして、フィコマシーは女神ベスナレシアの聖女だ。
2人の聖女は、魔の女神レハザーシアの企み、その邪悪な魔の神力によって、現世における有りようを大きく歪められてしまった。
聖女たちが真の姿を取り戻すために必要な鍵が何であるのかは、今のドリスには分からない。
しかし、2人の聖女――アレクとフィコマシーの対面は、その鍵を見つける重要な第一歩になるに違いない。
更に言うなら、聖女が立ち直るには、その腹心の支えが不可欠だ。
腹心は、聖女が心の底から信頼できて、全てを委ねられる相手なのだから。
2人の聖女の、2人の腹心――
アレクの側には、ソフィーが居る。
けれど、フィコマシーの側に今、シエナは居ない。
(フィコマシー様のためにも、誓ってシエナを助け出さなくちゃ)
むろん、聖女の腹心であるかどうかは置いておいても、ドリスはシエナに好意を持っている。
シエナのフィコマシーへの献身を、サブローは過去に何度かドリスに語っていた。ドリスはシエナを尊敬している。
シエナがサブローに深い感情を抱いている――恋愛的な意味で――に関しては、ドリスも少なからず思うところがある。
ただし、その点について現在のドリスは、頭の中でいろいろなモノを明滅させた末に「まぁ、男の趣味は悪くないわね。褒めてあげても良いかも」という謎の上から目線に落ち着いていた。
その当のサブローであるが……。
サブローは、物事への――特に人に対しての――優先順位をつけられない人物だ。それは優柔不断とは、ちょっと違う。サブローは、けっして意志が弱いわけでは無い。ただ〝人を助けたい気持ち〟が強すぎる。
他者を軽く扱えず、切り捨てる決断が出来ないことを「意気地が無い」とは言えないはずだ。
結局、長所は短所の裏返しだ。逆もまた然り。
サブローは優しいから、めったに人を突き放さない。そのため、追い詰められることもあるだろう。でも、だからこそ、多くの人を救う結果も出せている。
サブローは今、ミーアとシエナを救おうと動いている。あとに残されるフィコマシーのことも気に懸けている。向かった先にオリネロッテが居れば、きっと彼女をも助けようとするに違いない。
そんなサブローを〝気が多い男性〟として、断じるべきだろうか? 女性として、忌避すべきだろうか?
(それは……違う……)
ドリスは内心で、首を横に振る。
(あたしは、そうは思わない)
自分にとっての唯一人に固執し、それ以外の人を安易に見放す。そういったタイプは、愛されている本人にとっては最高の人物なのかもしれない。しかしながら「他の者はどうでも良い」という考え方は本質的には冷酷で、その性格の向かう先が変化した場合……〝愛されている本人〟が、あっという間に〝見放す対象〟に入れられてしまう可能性も否めない。
「貴方だけが大切だ」は「貴方以外は大切では無い」と同義で、その割り切りは〝情の薄さ〟の表れでもある。
〝情に厚い〟からこそ、その人は迷い、悩み、躊躇いながらも、複数の相手へ救いの手を伸ばす。
だから『サブローが優先順位をつけられないこと』を、ドリスは軽侮しないし、かえって逆に、良いもの、温かいものとして感じている。
(――だって、あたしは違うから。あたしは目的を達するためなら、優先順位をつけられる。人を切り捨てることが出来る)
どのような理由があったにせよ、ドリスは結局、大事なお師匠――今では〝お母さん〟と思っている――をタンジェロの地に置いてきた。
そもそもサブローに会うまで、ドリスは『何があっても、アレク様が第一』という思考だった。
そのアレクは……現在の聖セルロドス皇国の皇帝の姉だ。皇国の皇帝は代々、女性であった。〝聖女が興した国〟との意識が、ベスナーク王国より強かったためだ。
先代が崩御した際、皇位を継いだのはアレクでは無く、その妹だった。周囲の認識では、アレクは疑う余地なく男性だったが故に。
それ以降、獣人への迫害やセルロド教への信仰の強制など、皇国内の政策は負の側面を大きくしていった。アレクは、それに反対したに違いない。
アレクの立場は危うくなり、おそらくは生命を脅かされる事態にもなった。
ソフィーはアレクを連れて皇国を出奔し、ベスナーク王国で冒険者パーティー《暁の一天》を結成した。
《暁の一天》以外にも、多くの人との緊密な繋がりをソフィーは持っている。
エメールは多分、ソフィーの昔からの同僚か、部下だ。そしてソフィーはエメール達を通じて、いまだに皇国の内側への連絡手段を持っているらしい。
アレクが女性であること。本来はアレクこそが聖セルロドス皇国の皇帝になるべき人であることを、ソフィーはどこまでハッキリと認識し、行動しているのだろうか?
(いずれソフィーは皇国へ戻り、アレク様を皇帝にしようとしている?)
少なくとも皇国が誤った方向へ進むのを正そうと、ソフィーが考えているのは間違いない。アレクも、ソフィーと志を共にしているはず。
聖セルロドス皇国への帰還。皇国の体制の変換。セルロド教の教えの改善。人間・エルフ・ドワーフ・獣人――ヒューマンの平等。
そんな理想の実現の同志に、セルロド教会のシスター・アンジェリーナとブラザー・ガイラックが加わっていないとするのは、むしろ不自然な推測だ。『セルロド教の真の教えを広めたい』というのが、アンジェリーナ達の宿願なのだから。
つまり、アンジェリーナ達も、アレクとソフィーの仲間だ。
他にも協力する勢力として、ナルドットの冒険者ギルドが考えられる。あのギルドのトップの名前はゴノチョーで、彼は獣人のブタ族だ。当然ながら、聖セルロドス皇国で行われている獣人への迫害には、胸を痛め、許せないと思っているはず。
(それから……ナルドットで、アレク様やソフィーと親しい仲にあるのは……)
ネポカゴ商会の会長であるツァイゼモと、トレカピ河の物流関係の要人であるリラーゴ親方が居る。
アンジェリーナ達は、セルロド教の教会へ影響力を持っている。
冒険者ギルドは、人員と武力を有している。
大商人であるツァイゼモは、豊かな資金を提供できる。
リラーゴ親方は皇国への進入や、そこからの脱出など、トレカピ河を使った経路を確保する際に、その助けとなってくれるに違いない。
全てはアレクのために。
そこまで深く思案して、ソフィーは人脈を形成しているのだろうか?
ドリスはギクリとする。
(サブローが《暁の一天》の見習いとなった翌日、観光と称してソフィーが連れ回したのは、彼ら――その協力者たちが居る場所だった)
サブローも、皇国帰還のための同志にする――それが、ソフィーの目的だった?
たかが1人、手間をかけて仲間に加えたところで何が変わる? ――とは、ドリスも考えない。サブローの実力を、ドリスは既に知っている。強力なモンスターであるサイクロプス4匹を瞬殺し、恐るべき魔族をも見事に倒してみせた。その戦闘力のみならず、彼は頭も切れる。
ソフィーとしては、絶対に欲しい人材だろう。
ソフィーはドリス以上に、胸の中にある優先順位がハッキリしている人物だ。
ソフィーは、アレクのためなら何でもする。誰でも利用する。たとえ《暁の一天》のメンバーであっても、その対象から外すことはない。
(アレク様は、誰かを利用しようとは夢にも思っていないはず)
けれど、ソフィーは――
(あたしを利用する分には構わない。アレク様のために利用されるのなら、むしろ、それは本望だから)
キアラやレトキンだって、少なくとも冒険者としての活動の範囲内だったら、利用されても承服するに違いない。彼らはプロの冒険者なのだ。契約もあり、納得もあり、覚悟もある。
(でも、サブローは――)
サブローは、まだ冒険者の見習いだ。サブローが自分の意志で、アレクとソフィーに協力するのなら、敢えて反対する理由は無い。
しかし、もしもソフィーが、サブローの人の良さにつけこんで、巧みに彼を利用しようとしたら。
計画の泥沼に引きずり込み、帰れない地点まで連れて行こうとしたら。
それを目の前で、やられたとしたら。
(あたしは、黙って見ていることが出来るだろうか?)
ドリスは心の中で、自分へ尋ねる。
(あたしは、ホムンクルスで――)
でも確かに心があって、身体の中には赤い血が流れている。心は冷たいのかもしれないが、血は熱い。
(サブローは、あたしに言ってくれた。「君は人形なんかじゃ無い。ちゃんとした女の子だ」――って)
ドリスは、己の心臓の鼓動と血管の脈拍を強く感じた。
(あたしは、アレク様がとても大事で。ずっと大事で)
けれど。
(今は、サブローもフィコマシー様も大事だ)
ドリスの中の優先順位――
(あたしにとって、アレク様は1番だ。それは揺らがない)
今は、まだ。
(これから、あたしはアレク様と離れて、サブローと共に旅をすることになる)
未来は、分からない。
自分の心がどうなるのかさえ、分からない。
(アレク様とサブロー、そのどちらかを選ばなければならない日が来たとしたら)
そんな日は、来て欲しくない。
でも、来てしまったら。
(あたしは決断できるだろうか?)
一方を選び取り、一方を切り捨てるなんて真似が、出来るだろうか?
♢
ドリスやガイラックさんと一緒に、トレカピ河の岸に着いた。場所は、ハギウズが所有していた船が泊まっている埠頭だ。
そこには新たにスループ(小型帆船)が用意され、水面に浮かんでいた。
リラーゴ親方とスケネーコマピさん、リアノンの3人が出迎えてくれる。
僕は彼らに、現在の侯爵家で起こっている状況も含めて、知っている情報を手短に話した。
「ウホ、なるほど。ずいぶんと大変な事になっている……。サブロー達は急いでいるのだな? ウホホ、承知した。あの帆船に乗せて、今日のうちに、向こう岸まで連れて行ってやる」
「親方が操船してくださるんですか?」
「そうだ。残念だが、俺はタンジェロ大地の奥まで行くことは出来ない。しかし河を渡るのは、俺が引き受ける。サブロー達の河での安全を他人に任せるわけにはいかん。ウホ」
親方がドンと自分の胸を叩いた。
「ありがとうございます! 親方」
僕が礼を述べていると……。
エルフのコマピさんが「僕も共に、タンジェロへ向かいます! ミーア様を助けます! それが、女神ミーア様の敬虔たる信徒である僕の義務です!」と騒いだ。
で、リラーゴ親方から「コマピ殿にはギルドでの仕事もあるだろう。誘拐されて被害に遭ったのは、ミーアちゃんだけでは無い。ウホ。子供らへの丁寧なケアや、事件の詳細な報告など、これからやるべき事も多い。それを放り出してミーアちゃんのみを追いかけるのは、無責任だ。ウホホ」と叱られていた。
長寿種族のエルフが、実年齢は多分それより下のゴリラに説教されている。
《森の賢者》と地球で呼ばれていることもあって、ウェステニラにおいてもゴリラはとっても賢いようだ。リラーゴ親方は人間であって、ゴリラじゃ無いけどね!
「けれど!」
「コマピ殿。ミーアちゃんだって、一緒に誘拐された子供たちのことを心配しているはずウホ。彼らが助け出されたあとも、大人にキチンと世話されるのを願っていることだろう。ミーアちゃんの真の信徒なら、コマピ殿もミーアちゃんの本当の望みを叶えるべきだ、ウホホ」
リラーゴ親方の理路整然とした忠告に、コマピさんは頷かざるを得ない。
「確かに、そうですね。僕が、浅はかでした……」
と、無念そうに呟いたあと、コマピさんはクルリと僕のほうを向いた。
「サブロー同志! 君は……いえ、貴方は、女神ミーア様の従者の筆頭! くれぐれも、ミーア様のことを頼みます。必ずやミーア様を救い出してください! 僕のこの切なる想いを、貴方に託します。ミーア様のご無事な姿を見るまでは、わが心中に流れ続ける血涙が止むことはありません。どうか、どうか、ミーア様を!」
「わ、分かりました! コマピ同志!」
あ、僕も『同志』って、言っちゃった。だって、あまりにもコマピさんの表情が鬼気迫るものだったから。その迫力に押され、勢いに巻き込まれてしまった。
大至急、ミーアを助け出さないと、コマピ同志が精神的な出血多量で亡くなってしまう危険性がある。
コマピ同志が殉教するのを、阻止しなくては! それが、ミーアの従者・同志の筆頭たる僕の責務であるに違いない。……多分。
「せめてもの助力として、サブロー同志とドリスさんのタンジェロ入りを、冒険者ギルドからの正式な任務とするよう手配しましょう」
コマピ同志が熱心な口調で、僕へ告げた。
「そのような事が出来るのですか? コマピ同志」
「任せてください。ちょいちょいと書類を改竄してしまえば、何の問題も無くなります」
問題だらけだと思うが……。
ま、いいか。いざとなったら、僕とコマピ同志の2人で連帯責任を負えば済む話だ。2人で並んで、ギルド長のゴノチョー様に土下座しよう。〝同志の絆〟は強いのだ。女神ミーア万歳!
「サブロー同志!」
「コマピ同志!」
僕とコマピさんが、ガッシリと誓いの握手を交わす。
それを横目で見ながら、ドリスは「今更、ウェステニラに新興宗教が誕生しても……。でも崇める神様がミーアなら、変な女神が祭神となるより、よっぽど健康的な宗教になるかも」とブツブツ言っていた。
時間が惜しい。今は昼なので、すぐに河を渡り始めれば、日暮れ前にタンジェロに着ける。
小型帆船に、僕らは乗り込む。
操舵の係として、リラーゴ親方。
僕。
ドリス。
ガイラックさん。
リアノン。
…………え!? リアノン?
「ち、ちょっと、リアノン!」
「ん? どうした? サブロー。この船の大きさなら、私が乗っても大丈夫なはずだが?」
「乗船の人数的には大丈夫だけど、それよりも、リアノンが船の中に居る理由を教えてよ! まさか、僕らと一緒にタンジェロ大地へ行くつもりなの?」
「そうだ」
〝当たり前のことなのに、なんでサブローは質問をしてくるんだ?〟という顔を、リアノンはする。
いや、リアノンの思考回路はどうなってんの!? 確かにリアノンは強い戦士だし、今度の旅に同行してくれたら頼もしいけれど。
でも。
「リアノンは、バイドグルド家に仕える騎士でしょう!? 侯爵家に何の断りも無く、いきなりナルドットを離れたら処罰されちゃうよ。せめて、騎士団の上層部から許しを得てから行動しなくちゃ――」
「そんな暇は無い」
僕の警告を、リアノンは問答無用で撥ね返した。
「私は、ミーアちゃんを救いたい。シエナのことも助けたい。ましてサブローの話すところでは、オリネロッテ様の身もタンジェロにあるとのこと。私はオリネロッテ様の騎士として、あの方のもとへ、一刻も早く駆けつけるべきなのだ」
「オリネロッテ様の所在について『タンジェロでは?』というのは、あくまで僕が推測したことであって、違うケースも大いに考えられるんだよ?」
「構わん。少しでも可能性があるのなら、それに賭ける価値はある」
相変わらず、リアノンは判断が早い。即断即決のスピードが凄すぎて、こちら側が抱く不安が振り落とされる。
でもやっぱり、再度、注意をしよう。僕はリアノンが騎士であることに、どれだけ誇りを持っているのかを知っている。無謀な行いによって、侯爵家やその騎士団を怒らせたら、リアノンは騎士の身分を失ってしまうかもしれないのだ。
「あのね、リアノン」
僕は説明する。
が、アレコレを案じる僕の言葉を耳に入れつつ、リアノンはフッと笑った。
「サブローよ。お前は『考えてから、歩き出す者』と『歩きながら、考える者』とでは、そのどちらが賢い者だと思う?」
え~と……前者は慎重タイプで、後者は積極タイプということかな? どちらも一長一短だと思うけど。
僕が迷っていると、リアノンは答えを言った。
「正解は『まずは、直ちに歩き出す者』だ。歩いて、歩いて……考えるのは、歩き疲れた後で良い」
なんだよ! 最初の質問の、どちらも正解じゃないじゃないか! だいたい、リアノンが口にした答えは内容がヤバいぞ。それって、単なる〝考え無し〟だよね?
「リアノン。君は、少しは考えた方が――」
「いちいち休んでいては、物事は前へ進まない。あげくの果て、失敗して後悔するハメになる」
「ん? 『休んでいては』……? 僕は『考えた方が』と言ったんだよ」
「サブローは『馬鹿の考え、休むに似たり』という格言を知らないのか?」
……『馬鹿の考え、休むに似たり』……『下手の考え、休むに似たり』をもとに生まれた語句だよね。
地球と同じ慣用句が、ウェステニラにもあるんだ。
でも、リアノン。その言い方だと、君が自分を『馬鹿』だと認めているようにしか聞こえないんだけど。
「リアノンは、馬鹿じゃないよ!」
「……サブローは私に喧嘩を売っているのか?」
「売ってない」
「だよな。もちろん、私は馬鹿じゃ無いぞ」
本当に?
「休むにしろ、考えるにしろ、どっちみち賢い私の結論は変わらん。ミーアちゃんは可愛い。守らねばならん。オリネロッテ様は、わが剣の主だ。その盾となるのが、私の義務だ。そして、シエナは……シエナは……」
「シエナは?」
「シエナは、私の、と、と、ととととと友達だからな! シエナも私を『友達』だと言っている。友人同士、互いのピンチを見過ごすなど、天地がひっくり返ってもあり得ないのだ!」
リアノンが、顔を赤くして言い切る。
シエナさんとリアノンが友達になったというのは、以前……クラウディと決闘したあと、治療中のタイミングで僕も聞いて知っていた。その事実が改めてリアノンの口から語られると、2人の関係が今もシッカリと続いていることが分かり、嬉しくなる。
それにしても、どうやらリアノンは『友達』というワードに特別な思い入れがあるようだ。
まさか、リアノン。シエナさんと仲良くなるまで、『友達』と呼べる相手が1人も居なかったんじゃ……?
「私は騎士だ。『大事な者のために剣を振るう』というのが、私がなすべき優先順位の中での最上位だ。タンジェロの地に我が主人、友達、庇護すべき者が居るのなら、当然、そこへ赴くべきだ。その時、保身で躊躇するなら、そういうヤツは騎士では無い。少なくとも私の考える〝騎士〟では無い。それは、騎士もどきだ。剣を吊った、単なる雇われ人だ。私は自分が騎士であり続けるためにも、タンジェロへ行く。そして皆の自由を奪っている悪党を見つけ次第、必ず成敗する」
「リアノン……」
感動した! リアノンは、なんて立派な騎士なんだ!
「それにサブローだって、現在の体調は万全ではないだろう? 私の剣による支援を逃さないほうが、お前にとっても、お得だと思うぞ。タンジェロは、大変に危険な大地だからな」
魔族との戦闘から、僕の負傷が治りきっていないことを見抜いていたのか。さすがだ、リアノン。
「……だから、サブロー。私が、ついていっても良いよな? 迷惑じゃないよな? 懐に現状、お金は全くないのだが」
落ち着きなさげな様子で、リアノンが僕らを見回す。
いや。そこで急にオドオドしないで。格好いい態度を貫いて欲しい。
リアノンが無一文でも大丈夫。お金は僕が出すから。旅のための必需品も簡易ながら持ってきている。同行者が1人くらい増えても、問題ない。
「ええ。歓迎します、リアノン様」
「拙僧としても、心強いです。リアノン殿」
ドリスとガイラックさんは快く、リアノンを旅の仲間として迎え入れてくれた。
「冒険者のドリスと、セルロド教の修道士であられるガイラック殿だな。よろしく頼む」
2人に、リアノンが挨拶をする。
まぁ、考えるまでも無く、リアノンの旅への参加を拒絶する理由は存在しないよね。
実際、リアノンは戦力として、これ以上は無い逸材だし。暴走する危険性は、ちょっとあるけど。そこは【リアノンの操縦担当官(仮)】である僕が頑張ろう。
頭を働かせるほう……頭脳労働の担当は、僕・ドリス・ガイラックさんの3人で充分だ。
良し、出発しよう。タンジェロ大地へ乗り込むのは、僕・ドリス・リアノン・ガイラックさんの4人だ!
その瞬間。
『ピー!』と、ドリスの〝小物入れ〟から抗議の声がした。
あ。旅の仲間には、ゴーちゃんも居たね。忘れてないよ。
※動物においてはゴリラ以外に、オランウータンやフクロウも『森の賢者』と呼ばれています。森には賢者がいっぱい……。
ご覧くださり、ありがとうございました。
9章は、今回で終了です。10章では、トレカピ河の北にあるタンジェロ大地が物語の舞台になる予定です。
コメントやブクマ、ポイント評価やリアクションをしていただけると、とっても嬉しいです (≧▽≦)
これからも、どうぞよろしくお願いいたします!




