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週一ミーティング


「ですから!篠塚は気象予報の専門家として当社から派遣しているのです。派遣契約には目的が定められており、キャスターとして気象予報と無関係なことをするのはそれに反します」


「そんな固いこと言わないでよ。ちょっとくらい、いいじゃない?」


「ダメです!」


「お宅にはうちから随分と大きな仕事をお願いしたって聞いたわよ。だったら少しくらいうちの意見を聞いてくれてもいいでしょ!」


「それとこれとは話が別です!私は篠塚の契約について言っているのです!」


「・・・・」


木俣サブの厳しい口調でのダメ出しに制作側は黙り込んでしまう。プロデューサーも契約事項まで持ち出されては、さすがに返す言葉も無いらしい。


僕は今、金曜日の放送終了後の週1回のミーティングに参加している。30人ぐらいが入れる大きめの会議室には、達川プロデューサーをはじめとした局の製作スタッフ、北別府さんや衣笠さんなどの出演者、JWN社から木俣サブ、立浪先輩、僕の3人が出席している。


僕がデビューしてから番組の同時間帯の視聴占有率は上り調子のようで、今週末の予想値は70%に迫る圧倒的な数字になるらしい。特に僕が出演するお天気コーナーの時間が目に見えて数字を獲得するとのこと。


これを受け来週後半から、僕が流行もののトピックを紹介するコーナーを7時45分のお天気コーナーの時間に合わせて始められないか、局側から申し出てきた。JWN社は、いまでこそ未熟な面があったとしても、長い目で見て僕を育てようと考えており、ブームに乗せるような売り出しは断ることを決めていた。その為木俣さんに譲歩するつもりは全くない。


しばらく沈黙が続く中、おもむろに北別府さんが発言する。


「達川さん、さすがにそんな天気予報に全く関係ないコーナーを雪緒君にお願いするのは浅はかすぎでしょう。視聴者だって、局が調子に乗って彼にいろいろやらせようとしていることは気づくでしょうし、いい気はしないと思いますよ。他局だってマネするかもしれませんし」


「別に局の思惑なんて、そんなの視聴者は関係ないですよ。彼が見れれば何でもいいんです。北別府さんだってよくご存じじゃないですか。それに現時点で10代男性で正式な気象予報士資格所持者は彼しかいないので他局にはしばらくは完全な模倣はできないんです。なればこそ、今、この時に彼のキャラクターで売り出すべきだと思いませんか?」


「そういうことをすると、しばらくは数字がとれても、そのうち飽きるのが早いファンがいなくなって、やれ”もう終わった”とか何とかネガティブな話が出て、結果として強引に終わったことにさせられちゃう事、貴方のほうが分かっているんじゃありません?そもそも契約書で彼のキャスティングの目的が決められていて、JWNさんが了承しない以上、無理ですよ」


「だから、こうやって頭を下げてお願いしているんです」


・・・ああ、かなり雰囲気が悪い。どうやら出演者の方々は僕たちJWNの味方らしく、”制作側 vs それ以外” の構図が出来上がってしまっている。こういう揉め事に慣れていない僕には、この打ち合わせはきつい。


黙って俯いていると横に座っている衣笠さんが小さな声で話しかけてきた。これだけいる参加者で男性は僕と衣笠さんだけだから、なんとなく並んで座っちゃうんだよね。


「篠塚君。これは会社と会社の交渉だから、君が気にする必要ないからね。そんなに不安がらなくても大丈夫だよ」


「はい。ありがとうございます・・・」


突然雰囲気を変える様に笑顔になった北別府さんが木俣さんに話しかける。


「木俣さん、確かに彼には気象の専門家として来てもらってますが、同時にお天気キャスターとして彼が成長していく様子も番組のコンテンツにすることは、了承でしたよね?」


「それは彼の経験年数を考えても仕方がないので、こちらとしても納得するしかありません。ただし、やるべきことはお天気に関することだけです」


「そうそう。だから、私から提案があるんだけど」


北別府さんはますます笑顔になって得意げに語りだす。


「お天気の素人である私が、気象予報士である彼に、いろいろお天気について質問するのはありでしょう?」


これには木俣さんもうなずくしかない。まったくその通りだ。


「じゃあ、来週から私が彼と絡む時間を長くしましょう。もちろん、内容はお天気の話題に限定です。こちらは素人なので、いろいろ教えてもらいたいわけです。これなら本来のお天気キャスターの責務に合致してますよね?」


「それはそうですが、長くするってどれくらいですか?お天気コーナーなんですから常識的な範囲でお願いしたいです。できれば話す内容も事前に決めてください」


「もちろん。彼のおしゃべりコーナーではないですから、追加の出演時間はせいぜい3分でいいですよ。ただし毎日のことですから、事前に私が話すことを細かく決めておくのはむつかしいですよ。

それに、私としてはその日の天気予報の内容に対して分からないことを教えてもらいたい訳で、それこそプロの予報士として答えてもらえないのは困りますよね?」


「・・・」


「はい。じゃあ、達川さんもこれでよいでしょう?視聴者はとにかく彼が見れればいいんだって、さっき貴女が言っていたわけですし、だったら本来の天気に関するやり取りに文句はないでしょう?」


「まあ、その通りですね。本当は5分ぐらい追加でお願いしたいのですが、とにかく3分でもいいので画面に出て話してもらえるなら納得です」


話はまとまったようだ。これまでは7時45分から3~4分を目安に送っていた最後のお天気コーナーが倍の時間に延長されることが決まった。しかも、とにかく僕と北別府さんがお天気関係で絡むことだけが決まっており、何を聞かれるかは完全に北別府さんの自由だ。


あれ?・・・これ、北別府さんの思惑通りじゃないのかな。うわー、何を聞かれるんだろう。結構、プレッシャーだ。


僕の不安な気持ちを察してくれたのか、衣笠さんがまた小さな声で助け船を出してくれる。


「篠塚君、大丈夫。もし北別府さんが変なこと聞くようだったら、僕がちゃんと止めるから」


僕と衣笠さんの会話を目ざとく聞きつけた北別府さんが即座に突っ込みを入れる。


「はい!そこ!ちょっと衣ちゃん、また余計なことを雪ちゃんに吹き込んでるでしょう?」


雪ちゃん?・・・僕の呼び方が急に “ちゃん” 付けに変わった・・・すごいな、北別府さん。

いつも北別府さんに厳しい突っ込みを入れる衣笠さんが今回もきつい一言を返す。


「余計なことなど言っていませんよ。ただ北別府さんはセクハラ発言の常習犯なので、気を付けてねって教えてあげただけです」


「またあ、どうしたの衣ちゃん。もしかして私が雪ちゃんばかりかまうから妬いちゃった?ごめん、ごめん。私の一番のお気に入りは美人な衣ちゃんなんだから、機嫌直してね?」


「な!・・・もう、怒る気も無くなりますよ、まったく」


さすがにここまで調子が良いと真剣になるほうが馬鹿らしくなる。衣笠さんもあきれ顔で黙ってしまった。


ともかく、こうして来週から北別府さんとのアドリブでのやり取りが決まってしまった。

このたった3分の北別府さんとのやり取りは番組の名物となり多くの視聴者を獲得することとなる。同時にそれは僕のお天気キャスターとしての苦難の始まりでもあったのだ。




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