社会復帰への道 パート6 仕事
プリンは一時期、大量出血で何日も意識がなかったが無事に回復した。
ゴブリンのアイビーは片時もプリンの側を離れず、隣にくっついている。
不思議とアイビーがいると体温が上がり、血の生成も早くなるのだ。
医学の心得があるセダムは驚いていた。
プリンがやっと、元の生活に戻れたのは、一月経ってからだった。
フィカスの自慢の薔薇園の手入れを手伝っていたプリンがふと尋ねた。
「ねえ、これってさ、フィカスの趣味だよね?
フィカスって何か仕事してるの?
「仕事だと?
「だって、王様だろ?
「国は執政官がちゃんとやってくれている、我は存在していることが仕事だと言えるな。
「えーーー!なんだそれ。働こうよ!何かあるって!僕が探してあげるよ。
「いや、断る。
「まあまあ、そういわずに、僕を信じて信じて。
プリンはフィカスお気に入りの大きな机の前に座り、その前に椅子を置いてフィカスを座らせた。
「コホン、では質問するぞ。
「………………。なんの真似だ。
「いいからいいから。もう、ちゃんとして。
では、フィカス、君の特技は何かね?
「ふむ、薔薇の手入れ、絵を描くこと、人間よりは早く動けるし力もあるな。耳もいい。
「わかった!家を作る大工はどう?
「何故家を作るのだ?
「何故ってお金をもらうためだよ。
「金などいらぬ。
「えーーー!そ、そうだよなあ。確かに。
「プリン、そういうお前は何の仕事だ。
「僕は毎晩、街の酒場で歌ってお金をもらってるよ。
「なんのためにだ?
「えっと…、うーん、楽しいから…かな。
「ふむ………、では我もプリンと働こう。
プリンは目をくるっと回してニッコリ笑った。
「こっちこっち!
プリンは城の端にある大広間に走った。
大広間はもうずっと使われていないので埃っぽく、薄暗い。
プリンは、窓中のカーテンを開け放った。
明るい光が差し込み、フィカスは目がくらんだ。
「あったよ!ピアノ!
「この広間は…。
昔ここでよくパーティーを開いたものだ。このピアノはファラーがよく弾いていた。
エルフが作ったピアノだ。
プリンが鍵盤を叩くと綺麗な音色が響き渡った。
「さすが、エルフだ!このピアノまだ使えるよ!
ね、フィカス、これ弾けるようになってよ。
「我がこれをか?
「みんなにも何か覚えてもらって、ここでパーティーを開くのはどう!?
そこでコンサートを開いてお金をもらうんだ。
そのお金は、貧しい子供達にあげればいい。ね!
「我の城でパーティーだと……。むむむ
「お願い、フィカス!
プリンはフィカスの胸元を掴んでうるうるした瞳で見上げた。
「う、む、わかった。気分転換になるかもしれぬしな。
フィカスはそっぽを向いてそう言った。
かくして、フィカスのピアノ猛特訓が始まった。
最初は指一本で弾いて、プリンにボロクソ言われていたフィカスも、そこはヴァンパイア、寝る間を惜しんで練習していると、1ヶ月ほどでプロ並みに弾けるようになった。
しかも他のヴァンパイア達はみんな音楽の心得があったので少し練習しただけで済んだ。
古城の近くにある小さな街に衝撃が走った。
なんと国王陛下がどんな身分の者でも街の人間であれば参加できるパーティーを開くというのだ。
街中が活気溢れ、みなタキシードとドレスを新調した。
いよいよ本番を一週間後に控え、リハーサルが行われた。
みなで演奏するのはこれが初めてだった。
プリン以外は登場から、かちんこちんで今にも暴走しそうな顔をしている。
「あのね、みんな今から戦争するんじゃないんだよ。
ほら、フィカスももっとリラックス!
プリンはフィカスのほっぺをつねって広げた。
「何をする!愚か者!
「はいはい、その調子で、失敗してもいいんだから。
とりあえずみんなで合わせてみよう。
5人のヴァンパイア達は顔を見合わせて、うなづいた。
フィカスが緊張の面持ちで、静かにピアノを弾き始めた。
他のヴァンパイア達も演奏を始めたが、みんなガチゴチでいまいち合わない。
プリンは面白そうにそれを眺めてたが、椅子をフィカスの横に並べて歌い始めた。
少しかすれた優しい歌声にみんなは引き込まれた。
演奏もプリンに合わせて、柔らかく、ぴったり合ってきている。
プリンは歌いながらフィカスの頬をつついたり、頭をくしゃくしゃしたり、フィカスに微笑みかける。
フィカスも微笑み返す。
今度はヴァイオリンのセダムにお辞儀をしたり、ガイラルディアに投げキッスしたり、
コルディリネを抱き上げてくるりと回ったり、ローレンチと背中合わせになったりした。
曲の盛り上がる部分になるとフィカスが低い声で歌い出したから、今度はプリンが驚いて嬉しそうに響く声で歌った。気づいたら、ヴァンパイア達もコーラスに参加している。
最後は華やかにプリンが自由に歌い上げて終わった。
終わった後、全員大笑いして抱き合った。
「ねえ、フィカスってあんなに歌が上手いなんて!
「歌は昔から好きだが
「早く言ってよー!
プリンはフィカスを小突いた。
ついに本番当日。
オシャレした街中の人々が古城に恐る恐る集まった。
古城はいたるところに灯がともされ、色とりどりの花が綺麗に飾り付けられた。
いつもの薄暗い雰囲気はどこかへ行ってしまった。
料理も素晴らしく豪華で美味しいものがふんだんに用意されている。
大広間では参加者達がダンスを踊った。
ダンスの途中で、フィカスから挨拶があり、
ついにヴァンパイア達のコンサートが始まった。
もちろんコンサートは素晴らしく、大歓声を浴びて終了した。
「やったね!フィカス!
シャンパンを飲みながら、プリンはフィカスを引っ張ってバルコニーに出た。
酔っ払って火照った顔を風が冷やしてくれる。
「飲みすぎだぞ。プリン
「いいじゃないか、今日くらい。
本当に最高だった!信じられないくらい。
ありがとうね、フィカス。
「我も、楽しめたぞ。お前のおかげだな。プリン。
「えへへ
フィカスは真っ赤な顔をした酔っ払いのプリンを見つめて、髪に触れた。
プリンは潤んだ目で微笑みながらフィカスを見ている。
フィカスの右手がゆっくり頭から顔をなぞり、あごに触れた。
そして、目を細め、キスをしようと………
(今、我は何を!
フィカスはプリンから飛び退ると、バルコニーから飛び降りてものすごいスピードで走っていった。
つづく




