社会復帰への道 パート4 アウトドア
春の暖かな光、爽やかな風、まさに絶好のピクニック日和!
プリンは朝から大張り切りでコルディリネと一緒にサンドイッチを沢山つくって、りんごやオレンジと一緒にバスケットにつめた。
目的地は城から少し離れた菜の花が咲き誇る、小高い丘だ。
ピンクのフリルたっぷりのワンピースと帽子のコルディリネは嬉しそうにくるくる回りながら歩いていく。
プリンも一緒に笑いながら走る。
その後ろから白シャツとサスペンダー付きのアンクルパンツという軽装のローレンチがバスケットを持ってついてくる。
ガイラルディアはダークグリーンの長袖のドレスに大きな飾りがついた帽子と日傘をさしてローレンチと一緒に微笑んでいる。
執事のセダムも今日は休みをもらったらしくゆったりシャツとしまのパンツだ。
その頃城では一人フィカスが絵を描いていたが、集中できず筆を置いてウロウロし始めた。
朝からさんざんプリンに誘われたがピクニックなど疲れるだけだと言って、ピシャリと断ったのだ。
「今更行けるはずもない…いや、しかし…。
ぶつぶつ言いながらまたウロウロ。
すると玄関の横の柱に立てかけてあるプリンの小さいギターが目に留まった。
「プリンのやつ、忘れていったようだな。
オホン…しょうがない、届けてやるか。
超スピードで軽装に着替えるとギターを片手に走り出した。
すぐに大量の菜の花が見え始め、その近くの草の上に大きなチェック模様の敷物が敷かれているのが見える。
その上にコルディリネとローレンチ、ガイラルディア、セダムが中心に向かって座り、バスケットのサンドイッチを食べているように見えた。
サンドイッチを食べる?いや、そんなはずはないのだ。
その時一陣の風が吹いて、芳醇な香りが漂った。
フィカスの瞳が真っ赤に染まり、口からは鋭い牙と低いうなり声が出た。
(なんという香りだ!頭がおかしくなりそうだ!
その香りの元にうなり声をあげながら駆け寄った。
そこには、両腕両足一本ずつにヴァンパイアに噛み付かれ血を吸われている、哀れなプリンの姿があった。
ヴァンパイアの牙から注入される麻酔で何も感じないのだろう、空を見つめ目を見開いている。
フィカスは牙を剥いて叫び 、四人のヴァンパイア達の心臓を次から次に腕で貫いた。
四人は獣のような叫び声を上げ、倒れ、ピクリとも動かなくなった。
いそいでプリンを膝に抱くと、傷口を舐めてやる。
ヴァンパイアの唾液には人間の傷を治す効果があるのだ。
フィカスの口の中に甘酸っぱいような甘いような濃厚で今まで味わったことのない、
素晴らしい味が広がった。
オリジナルのヴァンパイアでも意識を失いそうな、豊潤な味だ。
若いヴァンパイアには抗えないであろう。
必死で理性を保ちながら。止血をした。
しかし、プリンは真っ青な顔をして意識はなく、瞳もトロンと閉じかけている。
身体から血液がなくなり、瀕死の状態だ。
「く………、何か………。
フィカスはプリンを抱きしめた。
プリンの首筋が目に入る。
(オリジナルのヴァンパイア毒を入れればヴァンパイアになる。
フィカスに苦悶の表情が浮かぶ。
春の日差しのようなプリンが笑う姿を思い出し、首を振る。
「っくそ………。
その時、記憶の片隅にあったエルフの王女ファラーの笑顔とプリンがかさなった。
はるかな昔、ファラーがくれたエルフの秘薬を思い出した。
確か机の一番奥に無造作に放り込んで置いたはずだ!
フィカスはプリンを抱いて飛ぶように城に戻った。
自室の机を引っ張り出すと…。
「あった、これだ!
透明な小瓶に入った薬をプリンの口に入れてやる。
しばらくするとプリンが目を開けた。
フィカスはベッドの横にへたり込んでいる。
プリンが不思議そうに見つめた。
「あれ?フィカス…。
「目覚めたか。身体は、大丈夫か?
「あれ?なんだか身体が重いなあ。
「何があった?
「えっと…お弁当を食べていて、オレンジを切ろうとしたんだ。そしたら手を切ってしまって…。
みんなが…急に噛み付いて。
それから覚えてないや。
「…そうか。怖い思いをさせて悪かったな。
…お前に話さなければならない事がある。
フィカスは真剣な眼差しでプリンを見つめた。
「私たちはヴァンパイアだ。生き血を吸って生きている。
………………。沈黙が流れた。
「それで?なに?
プリンは真剣な顔で聞いた。
「…………………。何とは?
フィカスも聞いた。
「えっと、フィカスも飲みたいのかな?僕の血。みんなだけずるいとか?
「はあ?おまえ、怖くないのか?ヴァンパイアだぞ。いつ殺されてもおかしくないんだぞ。
「えー、別に。
「別にって。
「だってさ、兄上が言ってたよ、血は肉を食べればたくさんできるって。
僕が肉をいっぱい食べればいいんじゃない?
だからみんなにだったら飲まれてもいいよ。
「なんて愚かな!やはりお前はエルヴィアに帰れ!
「嫌だよ!ここにいたい!せっかくみんなと友達になれたのに!
「ダメだ!帰れ!
「嫌だよー!みんなと一緒にいたい!
プリンは大声で泣き始めた。
すると扉が開いて、セダム、ローレンチ、コルディリネ、ガイラルディアが
すごい勢いで飛び込んできて、
みんな泣きながらプリンの周りに押し寄せた。
フィカスはひとり弾き飛ばされた。
みんな口々に謝罪を叫びながらプリンに抱きついている。
「みんな、大丈夫だって!またピクニックやり直そうよ!ね!
いいじゃない、ヴァンパイア、カッコいいよ!ね!
気にしない気にしない!
「いや、気にしろよ!
プリンは泣きじゃくる四人の頭を代わる代わるヨシヨシなでてやっている。
フィカスは特大のため息をついた。
つづく




