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サイラス様が龍の国に戻ってきた。

会いたくて会いたくて、恋しかったサイラス様!

再会できて嬉しくて、抱き締められれば幸福で、だけどそれと同じだけ不安もあった。


「じゃったらその不安、さっさと聞いてみたらいいじゃろうて」

!!

おばあさんの言葉に目からウロコが落っこちた。そりゃそうだ! 


「サイラス様、サイラス様は私でいいの?」

聞いた。さっそく聞いてみた。

「? ももかでなければ嫌だぞ。ももかがいいぞ」

おばあさんが言っていた。つがいは唯一無二で、出会った瞬間心臓が鷲掴みって。

なんだかそれって拒否権がない感じ。本当の本当は、私でいい?

「私が鷲掴んじゃって、良かった?」

「これ以上幸福で嬉しい事などないぞ」

へへっ。

嬉しさに、ポフン。

私だけの特等席に、ダイブ。サイラス様は難無く受け止めて、私を抱っこ。

「サイラス様、私って大人の女に程遠いお子ちゃま。きっとサイラス様を喜ばせる気の利いた会話とか出来ないと思うの」

サイラス様のお膝抱っこで寛ぐ、うららかな午後。

私はずっと自信がないの。私とサイラス様はつがい同士で、自他ともに認める大好き同士。

だけどこれまでの自信の無さがたまに顔を出す事もある。私でいいのかって、サイラス様のつがいが私で良かったのかって、思い悩む日もあるの。

「? ももかが我に気の利いた会話などと思い悩む必要すらない。何故なら我はそもそも会話など無くとも、ももかと居るだけでこの上無く幸福なのだ。それにももかが子供だというなら、我は喜んでおしめを替えて食事の世話をし、入浴の介助をするぞ?」

……サイラス様の愛って深い。

だけどサイラス様、その発想だと私はお子ちゃまじゃなくて、赤ちゃんまで退化しちゃうよ。

「私、さすがにそこまではお子ちゃまじゃないよ?」

「それは残念だ」

!? ざ、残念!?

それは、私のおしめ交換に対して言ってるの!? ……だとしたらサイラス様、それはちょっと変態さんチックです。

「じゃあじゃあ、もっとぼんきゅぼんっなお姉さんの方がよかったりしない?」

これは割と、核心に迫る大事な質問。

ゴクリと生唾を呑み込んだ。

そうなの。私、ダイエットに成功したの。

ピンクのトカゲ時代(?)に付いた暴飲暴食分のお肉は頑張って燃やしたの。けれど元々、ももかは寸胴お子ちゃま体形だった。

今は俯けば、胸もお腹もどっちもストンとなだらか。

「ももかのストンとした肢体は我の理想の体現だ。しかし、仮にももかがぽちゃりとしたならば、それもまた我の理想だ。要は、どんな体形だろうと我はももかがいい」

……へへっ、嬉しいな。

スリ、スリスリスリ。

でもそっか、私もサイラス様が太っちょでも頭に後光が差しちゃっても、やっぱり変わらず大好き。

「サイラス様! 私もサイラス様がどんなよいよい、よぼよぼでも、ずっと大好き!」

スリスリスリスリ。

「よ、よいよい、よぼよぼ? ……ももか、確かに我はももかより年長ではあるが、そうそう耄碌したりはせぬ。共に命尽きるその日までピンピンシャンシャンとおる故、老後の世話などは心配無用ぞ」

共に命尽きる? そうなの?

私達って年の差夫婦だから、寝たきりおじいちゃんサイラス様の下のお世話は当たり前と思っていたよ。そして、先に召されるサイラス様を看取る覚悟も漠然としていた。

「サイラス様、それ、約束ですよ!? この耳で聞いたからには、絶対最期の時まで一緒にいて下さい!」

「ああ、愛しいももかを置いては先立たぬ。約束しよう」

!!

ぎゅぎゅぎゅぎゅーっとサイラス様に抱き付いた。

いっぱいの覚悟があったって、最愛の人を見送らずに済むのなら、それはどんなにか幸福な事だろう。

サイラス様、私が龍として得た生涯に一度の恋は一生涯続くこの上無く幸福な恋。龍のつがいの関係はかつて人だった私には眩しい究極の純愛。一般的な惚れた腫れたとは違う、もっともっと深いところで繋がる宿命。なんて、なんて一途で愛おしい感情なんだろう。

「サイラス様、だーい好き!」

スリ、スリスリスリスリ。

「……のうももか? ももかはよく桃色のおばばにもそう言うておるな。ももかは桃色のおばばと我、どちらをより多く好きか?」

そんなの比べようないよ!

「おばあさんはだーい好き! だけどサイラス様は大大だーい好きっ!」

言った瞬間に、私はサイラス様の腕にぎゅぎゅっと深く抱き込まれてしまった。

??

「……ももかよ、我は其方が愛しくて、我だけの物にしたくて狂おしい。しかしいまだおしめの赤ん坊龍の其方が同じだけ我を求めてくれるにはもう少し時間がかかるのであろう。……けれど我の忍耐がいつまで持つか……、我は苦しい……はぁぁあああ~」

キツキツの腕が緩んで、塞がっていた耳が一番に拾ったのはサイラス様の特大の溜息だった。

??





「マルス、トム、きのこ狩りに行こう?」

サイラス様は王様だから忙しい。おばあさんは朝イチで訪れたキラキラのスキンヘッド軍団に知恵を貸して欲しいと連行された。

その点、タダ飯食らいのマルスとトムは暇を持て余している。それならば、暇人(私は龍)同士でお出掛けしよう。

で、どうせ出掛けるならば夕食のおかずの一品もゲットしたい。

なによりきのこはローカロリーのヘルシーフード。

ふふふふふっ。きのこご飯に、きのこの天ぷら、佃煮も大好物だ。

「あん? きのこなんて生えてんのか?」

「うん。王城の裏山にもっさり生えてるっておばあさんが言ってたよ」

だけど何でか歯切れが悪くって、ぶつぶつと危ないだの、うっかり採ったら大変だのと呟いて、最後にはこの話は忘れておくれだなんて言っていた。

いやいや、一度聞いちゃったからには忘れるなんて出来ないよ?

「そりゃ採らねー訳にゃいかねーな!」

そりゃーきのこには毒きのこがあるもんね。毒きのこが危険ってくらい、私だって知ってるよ。

でも私、田舎育ちだからきのこにはちょっと詳しいんだから。

「「よしっ! もっさり採ってこようじゃねーか!」」

やはり二人は食いついた。

トムがどこからか背負い籠とほっかむりを持ち出した。ほっかむりは私とマルスにも配られた。

これは! 相当なやる気とみたぞ!

「「「レッツゴー!」」」

私達はお揃いのほっかむりで裏山へと繰り出した。





「ひゃー、こりゃ大量だな!」

「なんだってこんなに採れんのに俺達っきゃいなんだろうなぁ? まあよ、お陰でいっぺー採れたぜい!」

「へへへっ。きのこのシチューに、きのこの酢の物もいいな~」

お揃いのほっかむりで笑い合う。三人のほくほくの笑いは収まらない。

「さーて、そろそろ帰るか」

「はーい」

これだけ採ったら十分ですとも。帰ったらシェフにいっぱい作ってもらうんだ。

「あん? あんだこの黄色とオレンジの水玉模様?」

一番後ろを歩いていたトムが立ち止まり、しゃがみ込んで何かを覗き込んでいる。

? 私とマルスはトムのところに引き返す。

「トム、もう行くぞ? きのこはもう十分採ったろうが」

「いや、見ろよこれ? えっらい可愛い柄のきのこなんだよ。俺、これ持って帰って飾る!」

トムの手元を覗き込めば、確かにキラキラと眩い黄色とオレンジの水玉をしたきのこが生えていた。

……可愛いけど、その奇抜なカラーチョイス、怪しい気がしない?

「ねぇトム、それ」

ポチッ!

けれど私が待ったを掛ける前に、トムは意気揚々ともいだ。

ビョヨヨヨヨーーン!!

「「「わぁああ!!」」」

もがれた瞬間、黄色とオレンジの水玉きのこは天にも届く超巨大サイズに変化した!

ビョーーンッ!

「ぐへっ!」

「ぐはっ!」

そして跳び上がり、マルスとトムを下敷きにして着地した。

た、大変!

「誰かーーっ!! サイラス様! おばあさんっ!」

私は叫んだ。力の限りに叫んだ。

けれど王城までは遠く及ばず、私の声は皆の耳には届かない。

「「(お)ちびちゃん逃げろっ!! 俺らの事はいいから逃げ、っうあぁぁあああ!!」」

「!! マルスーーっ! トムーーっ!」

そうこうしている間にもマルスとトムはきのこの怪獣に圧し掛かられて息も絶え絶えになっている。

このままじゃ、マルスとトムがきのこの怪獣に潰されちゃう!!

やだっ! そんなのやだっ!!

どうしたら、どうしたらいい??

……あ! 私のピンクの宝石、あれが使えるんじゃないかな!? あれにはあらゆる病をたちどころに治す効果がある。

それなら、存在そのものが菌なきのこだってやっつけられるはず!!

だけど今、手持ちのピンクの宝石はなかった。どうしよう!?

……って、ないんだったら今、ここで変化するしかないじゃない!! 

ボース君はなんて言っていた? イメージするだけって、そう言ってた!

よしっ、イメージするの! 私はグッと目を閉じて意識を集中させた。

私はずんぐりむっくりしたピンクのトカゲ! ご飯におやつに食べ過ぎて、後脚の先っちょが見えなくなっちゃった太っちょなトカゲ! ピンクの宝石が欲しいから、背中がむずむずかゆかゆ痒くって仕方のないトカゲ! 私はトカゲ、トカゲ! トカゲ!!

ポポポポンッ!!

「きゅあ?」

うん?

そっと瞼を開けてみる。

わぁあ!

ん? あ、あ、あぁぁぁぁぁあああああ!!

後脚の先っちょがお腹越しに見えるようになってる! 人型でのダイエットって龍体になっても有効なんだ~って、今は違う!

私は無事にピンクのトカゲルックになっていた。しかも、ちょっとスリムなピンクのトカゲだ。

けれど、今はそんな事よりマルスとトムが一大事! ぽりぽりかいかいが最優先!

かゆかゆ、かゆかゆかゆ。

あ!

どうやらイメージは大成功で、しっかりちゃっかり背中はかゆかゆだった。大急ぎで手近な背負い籠に背中を擦り付ける。

ぞりぞりぞり、ぞーりぞり。

……かゆかゆ。

本当はまだ痒かったけど、今は一旦中断! 私は足元に散らばるピンクの宝石を鷲掴むと持ってきていた水筒に走った。

うっ、うわぁぁぁ! どうして人型の状態で開けておかなかったの!?

ううっ、頑張れ! 頑張れ私!

むっきゅ、むっきゅ。

ぶきっちょな前脚は水筒ひとつ開けるにも四苦八苦。

落ち着け、落ち着くの。前脚だけに頼るからいけないの!

体勢を変えてみた。地面にお座りして、後ろ足で水筒を固定する。そして二本の前脚でいざ勝負!

きゅっぽんっ。

開いたぁ!

後ろ足で固定作戦が功を奏し、見事に水筒が開いた。私は大急ぎで中のお茶にピンクの宝石を投げ入れた。

ちょっと温いけど、なんとか溶けてくれますように!

願いが通じ、見る間にピンクの宝石はお茶に溶けた。

私は水筒を握り締めてきのこの怪獣目指して飛び立った。

ぱったぱった。ぴっこぴっこ。

久しぶりの飛行に四苦八苦しつつ、なんとかきのこの怪獣の上まで飛んだ。

え~いっ! 

パシャパシャパシャッ!

そうしてきのこの怪獣目掛けてピンクの宝石が溶けたお茶を掛けた。

ピチャ、パシャッ、ピチャ。

よしっ!

巧いこと、ピンクの宝石が溶けたお茶がきのこの怪獣の傘に掛かった。

ぼわわわわんっ。

すると見る間にきのこの怪獣は煙に巻かれて消え、代わりに周囲にはきのこの怪獣の残骸なのか、最初はなかった巨大きのこが点在して生えていた。

「ゲッホ、ゴッホ! ……重たかったぜ」

「ゲホッゲホッ! ……圧死すっかと思ったぜ」

きのこの怪獣の煙を払いながら、マルスとトムがのっそりと起き上がった。

「きゅあ! きゅあ!」

マルス! トム!

私は一気に下降して、二人のところに舞い降りた。

「おちびちゃん、どうやら助けられちまったみてーだな」

「ちびちゃんはすげぇな」

二人は左右から私をぎゅうぎゅうに抱き締めた。

むずむずむず、かゆかゆかゆ。

「……きゅぁあ!! きゅああ!!」

……もう我慢できなーい!! マルス、トム、もうどっちでもいいから背中ぽりぽりかいかいしてーー!!

私は二人に背中を向けてぴょこぴょこと跳んで急かした。

「なんだなんだ? ……背中が痒いのか?」

「きゅあ!」

ご名答!

とっても背中が痒いの! ほんとだったらさっき、もっとぽりぽりかいかいしたいのを切り上げたの!

「どらどら。ちびちゃんこっちさ来い」

「きゅ!」

待ってました!

マルスに背中を向けて丸まれば、マルスが首に引っ掻けてたタオルを使って、ごっしごっしと擦ってくれた。

ふっはぁぁ~。そうそう、そこそこ。

やんっ、もうちょっと右っ側。

「……なぁちびちゃん、タオルがキラッキラピカッピカの宝石まみれだぜ?」

へへっ。ありがとマルス、お陰ですっかり痒くなくなったよ。

え? 宝石まみれ……あ、そっか。まだ痒みがあったって事は、まだ全部落ちきってなかったって事だもんね。

「ん? そりゃ、これと同じもんか?」

おもむろにトムがポケットから取り出したのは!

「きゅ、きゅ、きゅあーー!!」

そ、そ、それだーー!!

持ってたの!? マルスとトムが持ってたんじゃんか! 私、あんなにあんなにひっ迫して変化しなくても、二人が持っていたなんて酷いよーー!

「おちびちゃん、こりゃ貴重なもんらしいじゃねーか。悪い奴らにかどわかされっちまわねーようにな」

存外真剣な瞳をして、トムが私に言った。

「おう! こりゃしっかりしまっとけ?」

マルスは自分のほっかむりを解くと、広げたそれで今回落っこちたピンクの宝石を全部包み、私の首の後ろに括ってくれた。

……へへっ。これだから私、マルスとトムが好きなんだ。結果としてちゃんと二人を助けてあげられた訳だし、凄く良かった!!




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