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へぇへぇ。ふぅふぅ。

ぜぃぜぃ。はぁはぁ。

サンタクロースの袋が地面を擦らないようにすれすれの高度を保ちつつ、私は這う這うの体で小屋へと帰り着いた。

つ、疲れたよぉぉ~。

あ、マルスだ。

落ちるように着地した瞬間、小屋の窓から悲壮な表情で空を眺めていたマルスと目が合った。それはもう、物の見事にバッチリと。

「ち、ちちちちち、ちびちゃんが! ちびちゃんが帰ったぞー! トームー!」

そうして目が合った瞬間、叫びを上げたマルスの両目から涙が迸った。

「ほ、ほほほほほ、ほんとかぁ!? お、おちびちゃん!!」

バーンっと、扉から転がり出て来たトムの目にも涙が光っていた。

そうして私はサンタクロースの袋を下ろす間もないままに、二人にぎゅうぎゅうに抱き締められていた。

ぎゅうぎゅう。すりすり。ナデナデ。ぎゅうぎゅう。

この時の私はパンが潰れちゃうとか、私をナデナデしていいのはサイラス様だけとか、そんな事は全部頭から吹き飛んでしまっていた。

「えがった! ちびちゃんが無事でえがっだよぉぉ!」

「悪ぃ奴らに唆されちゃいねぇかって、えっれぇ心配したんだ! 心配させやがって馬鹿野郎、この馬鹿野郎が!」

ぎゅうぎゅう。すりすり。ナデナデ。ぎゅうぎゅう。

「……きゅぁ」

……ごめん。

二人の熱すぎる歓迎っぷりに、私はただただ呆気に取られていた。こんな風に誰かに帰宅を迎えられた事なんて無かった。心配して涙を流して貰った事だって無かった。

夢なのにぎゅうぎゅうに私を締め上げる二人の腕には確かな温度があって、二人が溢す涙は濡れた感触を私にもたらす。

現実じゃないのに、この温度こそが現実と錯覚しそう。これが、現実だったらいいのに。

私はこの優しい夢の世界で生きたい……。

そしてとびきり綺麗な私だけのヒーローと再会して恋をするの。

サイラス様、私と恋の続きをしませんか? あの穏やかで愛しい日常を再び私と過ごしませんか?




もぐもぐもぐもぐ。もしゃもしゃもしゃ。

むぐむぐ。もちゃもちゃ。

って、冷静に考えれば私を浚った二人組に私が謝るっていうのも変な話なんだけどね。

「うっめぇなぁああ!」

「くっはー! こんなうめぇパンたらふく食うなんぞ、いってぇ何年振りだぁ」

だけど、美味しそうにパンに噛り付く二人を見れば物凄く満たされた気分がした。

「うんめー」

「うんめぇなぁ~」

ふふふっ、って!? え、えぇぇええええ!?

私は二人の間に置かれ、随分と萎んでしまった特大の麻袋に愕然としていた。

うそっ!? すっかりと嵩を減らした袋はもう、サンタクロースの袋と呼べる代物じゃなかった。

……あれ? 私、パンの食べ放題をするつもりだったのに、私の分のパンがもう選べる程に残っていない!

う、うそっ!?

「くっは~、もう食えねーぜ!」

「俺は最後にもうひとつ食うぞ~、もっしゃもっしゃ」

パンッパンに中身が詰まってまるまると膨らんでいた袋はぺしゃんと凹み、代わりにマルスとトムのお腹が膨らんだ。

「「満腹だぁ~!!」」

非常に残念な筈のに、お腹を抱えて寝転がった二人を見れば、不思議と私の胸はいっぱいだった。

グゥゥ~~。

……うん、私だって今朝から何も食べてないもん。胸はいっぱいでも、お腹はぺこぺこ。

私は二人の食べ残した中から目ぼしいパンを物色した。

「きゅ、きゅあぁあ!」

クリームパンも! メロンパンも! そもそも、菓子パンと呼べるものが残ってなーい!!

ご満悦に寝転がる二人をひと睨みし、私は泣く泣く食パンを齧った。

高級蜂蜜とジャムをちょいちょいと付けながら。あ、この蜂蜜物凄く美味しい……!

もっしゃもっしゃ。もっくもっく、ごっきゅん。

くぅぅぅ、美味しいけど、それにしたってなんか釈然としないよぉぉ!







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