三十三話 一対二百
闇夜。
月明かりを眺めつつ。
俺は一人、草原に寝転んでいる。
寝転びながら夜明けを待ち、日中での出来事を振り返った。
ボーグは宣戦布告をしたものの、すぐに開戦したわけではない。
ボーグの引き連れていた兵は百人程度、村人の方が幾分か多い。
数で劣る以上、引き上げる選択は正しい。
ボーグが引き上げていき、村では緊急会議が開かれた。
会議場に入るなり、バリエノは俺に詰め寄り胸ぐらを掴んだ。
「何故言う通りにしなかった!」
「お前の指図は受けない、そう言っただろ? それに、責任は取る」
「巫山戯るな!」
バリエノが振り上げた拳を、アーツが止めてくれた。
「シュウに責任は無い! 止めるんだバリエノ殿!」
アルテとロッサにも説得され、バリエノは怒りを堪え席に着いた。
「シュウ、まずはご苦労じゃった。村長として正式に礼を言う」
アルテは手を突き、頭をテーブルにぶつけるまで下げていた。
「時にシュウよ。先の話は真か?」
頭を上げたアルテは開口一番、俺の発言を取り上げた。
責任は取る。確かにそう言った。
「二言は無い。バリエノに大見得を切った以上、俺一人でやらせて欲しい」
反対意見を押し切り、俺は会議場をあとにした。追い掛けてきたアーツに、失敗した場合のプランを託して。
せめて一度家に帰れば良かったと、そう思いもしたが止めた。
愛しい娘たちに会えば、決意が揺らいでしまうから。
エルバの想いを守るためには、これが最善なんだ。
だから俺は一人で戦争をする。二百人と。
下調べは済んだ。
戦争前ということもあり、街は閉鎖され最新の情報は手に入らなかった。まぁ、古い情報でも問題はなさそうだ。
エルバ村に来た兵数は百、半分は領地に残すものだ。だから情報は変わらないはずだから。
兵種は四種、剣と槍と弓。そして術者。
警戒すべきは弓と術だが、幸いなことに弓兵も術者も少なかった。
何とかなる。何とかする。
勝てないわけではない。
大勢との戦いを何度も何度もイメージし、いくつものパターンを考え抜き導きだした答えだ。
死ぬつもりはもちろん無い。フィオにだって約束したんだから。
準備は終わった、あとは夜明けを待つばかりだが。夜明けまではまだ時間がある。
詰め込み過ぎても良くない。
他のことを考えようと。
この世界の格闘技術の拙さについて、思いを馳せた。
国家に関わる決闘をしているのに、この世界の闘技者は弱い。といっても、本当の決闘はホーディとの一戦だけだ。弱いと結論を出すには早いかも知れない。
だからこれは想像でしかない。外れてると思ったほうがいい、単なる予想だ。
ネーボと戦った時から疑問が生じ、ホーディと戦い発想が逆だと知った。
国家の大事に関わるから、技術が遅れるんだと。
技術を格段に向上させるのは一握りの天才達だ。格闘技だろうとそれは変わらない。
天才がいくらいようと、伝えなければ意味がない。
この世界の格闘技は伝授されない。
そりゃそうだ。下手に教えれば自分が危険になるんだから。
仮に教える人物が居たとしても、決闘で負ければ死んでしまう。
ボーグはホーディが死ぬことになんの抵抗も無かった。闘技者は使い捨てなんだ。
ルナも言っていた、闘技者なら殺し合うものだと。
だから技術が伝わらない。だからこの世界の闘技者は弱い。
地球で連綿と受け継がれてきた格闘技術には、遠く及ばない。と、それが俺の予想だった。
根拠は何も無い。
思いを馳せてるうちに、太陽が水平線から姿を現していた。
俺が待ち伏せているこの場所は、港街が見渡せる丘の上だ。
朝日が昇るにつれ、徐々に敵の動きが見えてくる。
仕掛けるべきは野戦。
その時をじっと待つ。
太陽が姿をさらけ出した頃には、街から続々と兵士が出てきた。
やる気が無さそうな奴や怖がっている奴も居れば、血気盛んな奴らも居る。
そんな奴らが五十人を一組とし集まり、一組を四つに区切り、行軍を開始した。
二百人で間違いない。
一対二百人。
「はっ」
無謀にも程がある。でも、やるしかない。
二百人全てと戦うわけではない。
数に頼った人間の中には必ず、逃げる者もいる。
俺が相手をするのは、どんなに多くても百人までだ。
一人を相手に仲間が殺されていき、半数を割れば必ず逃げる。
これは心理戦だ。
いかに多くの恐怖を見せつけられるかで、俺の勝率は上がる。
最初から全力で行く。そのための餌を探す。
丸々と肥えた、あの餌を。
憎むべき敵、ボーグ・ヴィランを!
あいつが元凶なんだ! ルナとフィオの両親を奪った、元凶!
怒りの火を燃やし、見つけ次第沸点に達するよう調節する。
列の最後尾に、奴は居た。
「ボーーーグ!!」
雄叫びとともに、盛大に歯を打ち鳴らした。




