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悪魔と天使のモノローグ  作者: 無名凡才
32/71

 三十二話 決闘

 綺麗な寝顔だ。

 成長に伴い、ルナはどんどん美人に育っていく。

 今でこそ何でもないがあと数年もしたら、添い寝なんて出来るはずがない。

 俺も一応は男である。

 恋愛に興味が無かろうと、下心がどこで発揮されるかまでは分からない。

 ……無駄な心配だと思うが。

 隣で眠るルナを起こさないように、準備を始めた。

 街(まち)に斥候(せっこう)として潜(もぐ)り、だいたいのことは分かっている。

 この大陸に住む人族は、住み処(か)を海沿いに限られている。

 これは大陸の国家間の誓約であり破れない。

 領主は村の近くにも兵士の駐屯所を建てていた。無論、海沿いにだ。崖の下に無理矢理建ててため、基本は誰も居ない。エルバ村に用事の際、寝泊まりする程度の駐屯所だ。

 今、領主はここに居る。

 領主本来の街(まち)は港街だ。村から歩きで五時間程の場所にあり、距離でいうなら二十キロ。東京と川崎くらいだ。

 街は煉瓦(レンガ)造りの家々が建ち並び、地球でいう北欧の港町という感じの風景だった。

 領主ボーグ・ヴィランの独裁のせいだろう。街に活気は無く、威勢がいいのはゴロツキばかり。兵士もゴロツキと変わりなく、質も品の無さも最低だった。

 治める。という行為を甚(はなは)だしく勘違いしている。

 三年も動けないわけだ。

 動けないのは闘技者を失ったのも大きい。

 エルバさんが命懸けでやったことにはちゃんと意味があった。

 準備を終え玄関に向かう途中、今朝は普段以上に早いというのに、フィオが居間で待っていた。

「お兄ちゃん。もう行っちゃうの?」

 俺のせいで、フィオは昨日からずっと不安がっている。

「おいでフィオ」

 翼を真上に伸ばしもじもじしていた。

「いいから」

 勢いよく、フィオは飛び付いてきた。

「お兄ちゃん、だいじょうぶだよね?」

「安心して待ってろ。絶対帰ってくるよ」

 フィオはおそらく知っている。

 俺の頭の中を覗いて。でなければここまで不安になるはずがない。

 心配ごとは決闘ではない。その先だ。

「じゃあ行ってくる。くれぐれも家からは出るなよ。どこに兵士が来るか分からないからな」

 抱っこしている間は機嫌が良かったが、降ろした途端に元に戻ってしまった。

 あとは行動で示す。

 フィオに手を振り家を出た。

 家の敷地を離れるその前に、名前を呼ぶ。

「タイガ!」

 呼ばれ。何処からともなく颯爽(さっそう)と、虎が現れた。

 タイガの成長は早く、体長は俺を越していた。

「二人を頼んだぞ」

 喉を鳴らしてタイガは応える。フィオの飼育の賜物(たまもの)なのか、従順で人懐っこく育ってくれた。

 強者には特に従順、らしい。

 家の守りを完璧にし会議場に向かった。

 向かう最中に、時は訪(おとず)れてしまった。 

 法螺貝(ほらがい)でも吹いたような音が、村中に響き渡っている。

 音源は東の方角、翼人地区からだ。

 走り向かう途中でアーツと合流した。互いに無言で頷き、地区の端を通りすぎ、村を隠す防風林を抜け辿り着いた。

 待っていたのは大勢の兵士と、兵士を束ねる領主のボーグ。それを毅然(きぜん)と睨む、バリエノとアルテだった。

 既に舌戦(ぜっせん)が繰り広げられていた。

「これは立派な反逆行為だな。誓約は何だった?」

「我ら森の民をこの地に縛る誓約のことかな?」

「そちらではない。米はどうした? それから女だ! 昨年の使者は子どもではないか!」

「それらは領主様方の誓約で、我らの誓約ではありますまい? 従う限りはお互いに不可侵(ふかしん)のはずですが?」

「呆(ほう)けたかアルテ? だからこうして来れたのだろう。今度の誓約は優しくはないぞ」

 アルテのほうが一枚上手のようだ。

 騎乗(きじょう)したままアルテを見下ろしボーグは脅(おど)し続けるが、アルテにはまるで響かない。

 それにしても太い。

 ボーグは丸々と肥えた男だった。

 よく馬に乗れるものだ。

 舌戦はヒートアップし、やがて話は決闘へと持ち込まれた。

 話を察し、ボーグの兵士たちはセッティングを始めていた。

 大半の兵士は、ヨーロッパ中世時代風の出で立ちをしている。

 鎧(よろい)は金属ではなく皮製で、剣や槍の先は銅製だ。

 本物の中世ヨーロッパの兵士にはだいぶ劣るだろう。

 兵士たちが魔法や持参したもので作り上げたのは、リングだった。

 プロレスやボクシングで使うリングに似ている。ロープは縄、コーナーは杭、地面は土俵のように均(なら)されたシンプルなリング。

 リングが出来上がり、ボーグは俺に話を振る。

「どういうことだ裏切り者! 貴様は人間ではないか!」

 馬を操り接近してきた。

「どうも裏切り者こと。エルバ村の人族族長のシュウです。お見知りおきを。で、ボーグ・ヴィラン。お前はぶっ殺す!」

 途中で態度を豹変(ひょうへん)させたのが効いたのか、ボーグは落馬しそうになった。

「愚(おろ)か者が! 情けを掛けてやろうと思ったものを。シュウとやら! 泣いて詫(わ)びようと遅いからな!」

 敗者らしい、素敵な捨て台詞だった。


 アルテとボーグが互いに誓約を認め合い、時は来た。

 上着と靴を脱ぎリングに上がる。

 着衣は白く、空手着のようなズボンのみ。

 脱いだ俺の身体を見て、辺りはざわめいていた。

 身体には鮮明(せんめい)に、虎の爪痕(つめあと)が三本残っている。本来なら傷跡も残さず治るのだが、ルナが無理をして治したから爪痕が残ってしまった。

 構わない。寧(むし)ろ嬉しい。

 ルナが魂(たましい)を懸(か)けて治してくれた、大切な証(あかし)だから。

「余所見(よそみ)をするでない!」

 ジャンプしてロープを飛び越え、リングインする筋肉達磨(きんにくだるま)。

 ボディービルダーのようにムキムキで、色白の七三分け男。彼もほぼ裸。プロレスラーみたいなパンツ一丁だ。

 体格はネーボより上。二メートル……数センチはある。ならば体重も百キロを越すのは余裕だろう。

 こんなに目立つのに、今まで何処(どこ)に隠れていたのか……。

「そなたの名は?」

 ポージングをしながら尋ねてきた。

「……シュウ」

「シュウか。我輩(わがはい)はホーディ・マッスル! お互い全力を尽くそうぞ!」 

 ああ、熱い。

「では始めようかシュウ」

 瞬時にホーディの表情が変わる。

 紳士のような穏やかな顔から、冷酷なファイターの顔付きへ。

 構えは脇を締め、両手を顎の高さに配置していた。軽く跳び跳ねるような運足(フットワーク)も加わり、あの格闘技を彷彿(ほうふう)とさせた。

 ああ。勝ったなと思った。

 相手がどう動きどう攻めてくるか、全て分かったから。

「参る!」

 ドンピシャだった。

 ホーディは一発で膝から崩れ落ち、仕留(しと)められた。

 どう動くかが分かっていれば、素人にだって格闘家に一発は当てられる。 

 仕留められるかは別だ。

 ホーデイの動きはボクシングそのもの。

 行動は限りなく狭(せば)められ、導かれた初撃(しょげき)の答えは左ジャブ。大当たりだ。

 予想通りのジャブをスウェーバックで躱(かわ)しつつ、カウンターを合わせた。

 カウンターは顎への右ハイキック。

 ホーディは顔面をバウンドさせながら、崩れ落ちた。

 だが、まだ終わってはいない。こんなものは意識が飛んだだけ。

 すかさず、追撃を叩き込む。

 顔面へのサッカーボールキック。

 背中から、ホーディはゴロゴロと転がっていく。

 この世界では魔法こそ怖い。

 勢いが無くなり転がるのを止めたホーディは、丁度仰向(あおむ)けに寝ていた。

 胸を全力で踏みつけ、骨を折る。

 これなら喋ることすら難しい。

 ホーディが動かないことを確認し、ロープ際(ぎわ)のボーグへと詰め寄る。

「終わったぜ、どうするボーグ?」

 歯を食い縛り拳を握(にぎ)り締めながらも、ボーグは敗北を宣言した。

 勝利し、決闘は終わった。そして不安は的中する

 ボーグは部下に命じホーディを回収。そして高らかに宣言した。

「異人どもよく聞け! 余(よ)は貴様らに、宣戦(せんせん)を布告(ふこく)する!」

 

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