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悪魔と天使のモノローグ  作者: 無名凡才
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十六話 一対二


「はじめっ!」

 アーツの放った掛け声を合図に、決闘は始まった。アーツの隣には、心配そうにこちらを見つめるルナがいる。

「ずいぶんよゆうだな。無人さんよぉ」

 視線だけではなく、顔ごとアーツとルナのことを見ていたのがクレイズの(かん)に障ったらしい。

(たい)したことないからな」

 後頭部を掻きながら言い放つ。

 クレイズとネーボはどちらも正面の、視界に収まる位置に並んで立っている。

 だから大したことないと言った。普通、こういう時は(はさ)み込むものだろうに。

 ふぅ、とため息まで出てしまう。

「舐めるな人族!」

 顔を赤く染め突っ込んで来たのはネーボだった。

 突進してくるその姿が、長い耳が角のように映り一瞬牛かと思った。

 お互い、射程距離(リーチ)は似ている。

 ネーボが攻撃出来るなら俺にも出来る。けれど。

 今は回避(かいひ)に専念する。

 ネーボの行動はタックルに見えたが、射程距離一歩手前で止まり、腕を振ってきた。

 目算があまかった。ネーボは手足が長い。

 スウェーバックで(かわ)し、躱しつつ、よく観察する。

 手の形が手刀(しゅとう)でも、拳でもなかった。中途半端な開き方で、振っている最中に握っていった。

 反らした上体を戻し、指摘する。

「ネーボ。お前投げが主体か?」

 ネーボは指摘に目を見開き、唇を強く閉じている。

 当たりとみて間違いない。

「そうかそうか」

 歩み、ネーボへと近寄って行く。

「よし。投げてみろ」

 両手を大きく広げ、立ったまま(ゆる)めの大の字になる。

 襲ってくると期待していたが、ネーボは戸惑い固まっていた。

「すきありぃー!」

 左側から、クレイズが跳躍し殴り掛かってきた。

 速さは合格。他は全て不合格。合格した速さも、ベラ以下だ。

「お前じゃ、ない!」

 俺の射程に入ってきたが、クレイズの射程にはまだ遠く、広げていた左手で(はえ)を叩くように平手打ちをした。

 顔面から地面に落ちると思っていたが、受け身は知っているらしい。すぐに起き、退()いていった。右の頬を腫らしながら。

 クレイズの相手をしているうちに、ネーボが俺の右腕を掴む。 

「へぇー」

 ネーボは柔道の一本背負いのように、俺に背を向けながら腕を引っ張り、止まった。

「相手の身体を崩さず投げられると思うな」

 体重がかけ離れているのなら話は別だ。俺とネーボはそれ程でもない。

 ネーボは肉付きはいいがせいぜい九十キロ後半。

 技術差を埋めるには至らない。

 投げ技は思いの(ほか)、技術の固まりだ。

 相手の体重を分散させたり姿勢を崩したりして、ようやく投げられる。

 体重が近い人間を工夫も無しに投げる方法は無い。

 ネーボは投げられず、力に頼り出した。

 投げることだけを考え、がら空きになったネーボの左脇腹に、全力で左拳を()じ込む。

 空手の鉤突(かぎつ)き。みたいなものだ。

 口から声も(つば)を出しながら、ネーボは掴んでいた俺の腕を離した。

「じゃ、俺の番な」

 俺の声にネーボは、ダメージを負った左を(かば)い、右回りに振り向いた。

 ()らった箇所を守るのは間違いじゃない。けれどそのせいで他を(おろそ)かにしてはいけない。

 ガードを下げたせいで、頭の守りが薄くなった。俺を視界に捉えた途端に、顔面を鷲掴み出来るくらいに。

 利き手である右の握力は三桁は越していた。最近は新しい筋トレもしてるから、さらに上がったかも知れない。

 苦しく、痛そうなネーボの叫び。

 顔や喉などの大事な器官は優先順位が高く、勝手に身体が動くものだ。

 エルフだろうと関係なかった。握力で締め付けられる顔を守るため、ネーボは両手で俺の手を引き剥がしに掛かる。

 獲物が釣れた。

 ネーボの左脇腹へと右膝を食らわせた。家鳴(やな)りのような音が伝わる。激痛から、ネーボの姿勢はくの字に曲がっていた。

 あとは、鷲掴みしている右手を押し込み、膝蹴りをした脚を地面に着かず前へ、そのまま自らも倒れ込みながらネーボの右脚を()る。

 当て身式大外刈り。とでも名づけようか。

 俺の体重まで加え、後頭部から地面に直撃させた。

 ここの土は柔らかい。死んではいないはずだ。

 念のため確認したところ、ぴくぴくと身体は動いていた。

 生きてる。

「聞こえてるかは知らねぇけど。投げ技ってのはこうやるんだ、覚えとけ」

 まずは一人。

 続いてクレイズをとっちめよう。

 広場を見回してみたが、いなかった。

 クレイズを捜していると、アーツが声を掛け近寄ってきた。

「ネーボを簡単に倒すなんて、(すさ)まじいものだ」

 返事はしたが、クレイズを捜し続ける。

 そんな俺をアーツも分かってくれたようで、お互い違う行動をしたまま会話は続いた。

「とりあえずネーボを治してやってくれ」

「分かってる。そのために来たのさ」

 呪文が聞こえ、青白い光が視界の端に見えた。魔法でネーボを治したようだ。

「シュウ……、クレイズは森に入っていった」

 アーツへと向き直った。

「シュウが来るのを待っているだ。森はボクらの味方だ。さすがにシュウでも危険かもしれない。それでも行くかい?」

「当たり前だ」

 (あき)れたようにアーツは笑った。

 笑うアーツの後ろには、怒った天使がいた。

「なんで不利な状況ばかりで戦うんですか!? シュウさんに何かあったらフィオが悲しむじゃないですか!」

 眉間に(しわ)を寄せながら詰め寄り、見上げてくる。

「ごめんな。でもさ、形式上とはいえ俺はルナの旦那でフィオの兄ちゃんになるわけだろ? そんな俺が村の皆に(きら)われてるなんて、(いや)なんだ」

 正直に伝えると、ルナの眉間の皺はなくなった。 

「もう。そんなこと言われたら言い返せないじゃないですか、シュウさんはずるいです」

 ごめんなと一言謝り森へと向かった。が後ろからアーツばかりかルナもついてきた。

「ルナは待ってていいんだぞ?」

「私も最後まで見届けます」

 ネーボを放置したままでいいのか疑問だったが、魔法の回復力なら大丈夫だろうと、言うのをやめた。

 盆栽の木のように曲がり広場を形作る木々。どれも似たようなもので分かりづらいが、北東側へと隠れたらしい。

 俺を先頭に、三人で北東の森の中へと入る。ここでも木の根が足場を悪くする、(また)いだり引っかけたりと不安定だ。

 決闘に来るときを思いだし、ルナが心配になり振り返る。

 瞬間、背筋に悪寒(おかん)が走った。

 即座に正面へ向き直ると、心臓を目掛けて――矢が飛んできていた。

 最悪だ。

 足場は悪く、振り返った反動で手も使えない。

 回避も、腕を盾にすることも出来ない。

 一秒にも満たない思考の間も、矢は確実に心臓へと飛来していた。


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