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悪魔と天使のモノローグ  作者: 無名凡才
15/71

十五話 公平


 太陽は頂上に到達しようとしていた。

「シュウさん。そこ、左です」

「うん……。それよりルナ、大丈夫か?」

「 大(だい)、丈夫(じょぶ)、です」

 大丈夫には見えなかった。

 深い森の中をルナと二人で進んでいる。

 案内人であるはずのルナは、息を切らして後ろにいる。

 正午前、居間で寛(くつろ)ぎフィオと遊んでいた俺を、ルナが迎えにきた。

 ベラにフィオを任せ、俺とルナは屋敷を出た。向かった先は屋敷の裏、森だ。

 森には獣道(けものみち)ではあるが道はあった。ただ、過酷だ。ルナにとっては。

 出っ張った木の根や岩が、ルナの足を掬(すく)い転びそうになったり。倒木が道を塞(ふさ)いで遠回りをしたりと、だいぶ時間を取られていた。

 このままだと遅刻してしまう。なので、ルナの前で背を向けしゃがんで。

「乗れ。このほうが早い」

 と願い出た。

「結構です」

 そう言って、俺を通り越していった。

 想像通り。だが諦めはしない。

「あーあ。不戦敗になったらどうしよう。フィオが悲しむなぁ」

 頭の後ろで手を組みながら、独り言のように言う。

 ルナはキッ、と俺を厳しい表情で睨(にら)つける。睨みつけるが厳しい表情は次第に薄まり、大きな息を吐くとすっかり和(やわ)らいでいた。

「……分かりました」

「よし。乗りな」

 しゃがんだ俺の背に、静かに体重が加わっていく。おそるおそる乗っているのだろう。肩に乗る腕は突っ張り、腰の上のお尻はバランスが悪い。

「それじゃあ立った時危ないぞ。もっとしっかり掴まりな」

「えっと、こう、ですか?」

 突っ張っていた腕は首に回され、身体を密着させてきた。

「うん。これなら走ってもよさそうだな」

「走るのは、ちょっと」

 さらに安定するように、ルナの太ももを腕でがっちり支えた。

 太ももに腕が当たると、ルナは少しだけびくりと反応していた。くすぐったかったのかも知れない。

 おんぶしたのは正解だった。

 ルナの指示は指(ゆび)を指(さ)し示すだけで分かるし、進むのが断然(だんぜん)速い。 

 これなら遅刻せずに済みそうだ。

「シュウさんはクレイズとネーボのことをどれくらい調べましたか?」

 おんぶされたルナが、耳元で囁(ささや)いてくる。

「んー。クレイズが翼人族。ネーボがエルフ。で、どっちも男。それだけ分かれば十分だろ」

「それだけでいいんですか?」

「身長とかは一目見れば分かるし、無駄な情報は判断を鈍(にぶ)らせたりするしな」

 などと言ってはみたが、本当は調べたほうがいい。けれどそれは的確な情報の話だ。

 噂話は誇張(こちょう)されやすい。戦う前に自ら敵を見誤(みあやま)るなどお笑い草だ。

「そろそろ着きますから降ろしてください」

 おんぶしてから十分くらいだろうか。目的地に着いたらしい。了解し、しゃがんでルナを降ろした。

 だいぶ森の奥深くまで来たような気がする。

 辺り一面巨木ばかりで、大した差はなく帰り道など分からない。なのにルナは迷わず行き先を示し続けた。

 これが彼女たちが森の民と言われる由縁(ゆえん)なのだろうか。

 エルフと翼人族とホビット族、そしてライカン族。四種族は総称して森の民と呼ばれる。

 四種族の案内なしに、彼ら森の民の王国へは辿(たど)り着けない、というのも納得出来た。

「シュウさん。こっちです」

 ルナが指し示す方向は、森の中なのにやけに明るかった。

 道中も暗がりではあったが、適度に木漏れ日が入り込み

幻想的だった。

 そんな森の奥深く、目的地は意図的に作られたとしか思えない広場だった。

「なんだこれ?」

 広場の端(はし)に生えている木々たちは、まるで中心を避けるかのように、外側へと幹を曲げて伸びていた。

 そんな木々たちが円となり、広場を形作っていた。

 広場は芝生のような草ばかりで見渡しがよく、それが百メートルはあった。

 不自然にも程があるが、戦いの場としては十分だ。

「待っていたよシュウ」

 歩み寄って来たのはアーツだ。

「遅れてすまない。遅刻はしてないよな?」

「ああ大丈夫だ。ルナちゃんもお疲れ様」

「ありがとうございます。アーツ長(ちょう)こそ、見届け人のお役お疲れ様です」

「見届け人?」

 二人の会話に割って入ってしまった。

「そうか、知らなかったかい? 今回の決闘はボクが名の通り見届ける。そして結果はどうあれ、村の者たちに嘘偽りなく伝える。それが見届け人だ」

「信頼されているアーツ長だからこそ託(たく)された、大事なお役目なんですよ?」

 ご丁寧にルナの補足まで頂いた。

「本来なら父上もいるはずだったんだけど、急に予定が入ってボクに任されてしまったよ」

 爽(さわ)やかに笑い、アーツは言う。

 アルテがここにいない理由は知っている。昨晩話していた通り、バリエノのところへ行っているのだ。

 今日である必要はないと思ったが、バリエノを決闘に行かせないためでもあるらしい。

 バリエノは頭が回る人物で、もしかしたらさらなる悪条件を突きつけてくるかも知れないから、だそうだ。

「では行こうか。二人が待っている」

 アーツに案内され、広場の中央へと向かう。中央には対照的な二人がいた。

 一人はでかい長耳(エルフ)の男。

 二メートルに近い身長だ。

 この男は特にだが、アーツやベラも身長は高い。エルフというのは長身なのかも知れない。

 その上この男は長身だけではない。筋肉があり、横にもでかい。まさに巨体だ。

 一番の特徴は、ハゲだ。

 髪の毛が無い。一本も。だが彫りの深い、いい顔をしている。

 こいつがネーボだな。なら自動的に、あいつがクレイズだ。

 茶色い翼を生やした、百六十センチくらいの坊や。

 逆立ってつんつんした茶髪に、ニヤニヤした顔つき。

 なんていうか、チャラい。

 どちらも成人はしているそうだが、ここでいう成人は十七歳でこいつらは今年十七歳になった。

 二人ともルナやアーツと同じ民族衣装のはずなのに、色はもとより汚れや傷みと着こなしで、まったく違って見える。

 制服は不良が着ると違うものに見える、と記事で読んだがこの世界で体感できるとは思わなかった。

「遅(おせ)ーぞ無人!」

 痺(しび)れを切らしたのか、クレイズが腕組しながら喋りだした。

 隣のネーボは表情一つ変えない。

「黙れクレイズ。お前は決闘をなんだと思ってるんだ」

「アーツ長は無人のお味方なんですかぁ?」

「ボクは公平な立場だ。だからこそ、クレイズの挑発めいた発言を注意してるんだ」

 凛(りん)とした態度で、アーツはクレイズに詰め寄った。

 アーツに詰め寄られ、クレイズは舌打ちをし黙った。

「すまなかったシュウ。改めて紹介しよう。クレイズとネーボだ」

 自己紹介をし手を差し出すも、握られることはなかった。

 それを見てアーツは、右手で顔を覆っていた。

 ネーボは分からないが、クレイズは先ほどから俺の下半身ばかり見ている。

 正確には、俺の後ろで張り付くように隠れているルナを見ているんだけれど。

 ルナは俺の服を掴み離さない。

「どうしたルナ?」

 返事はなかった。

 後ろのルナを見て、顔を戻すとだいたいは分かった。

 クレイズが歯噛みをしながら俺を見ていた。

「無人! てめぇルナの何なんだ!」

 何故(なぜ)かは分からないが、無性にクレイズをいじりたくなり、冗談を言った。

「未来の旦那かな」

 てめぇと言い残し、殴り掛かってきたクレイズをネーボが止めた。動き出したクレイズの、後ろの襟首を掴んで。

「ネーボ……、そうだな。ここで失格になったら意味ねぇよな。決闘が始まれば自由に殴れるんだからな」

 頷くだけで何も言わないネーボに対して、クレイズは勝手に話を進めていた。

「まったく。すまないなシュウ」

「この程度どうってことないさ。それより早く始めようぜ」

 分かったと、アーツは頷き俺たちを集めた。

 アーツの前に、三人で横に並ばされる。

 始まると分かり、ルナは逃げるようにアーツの後方に下がった。

「では、誓約を始める」

「あ、ちょっと待ってくれ」

 挙手して儀式を止めた。大事な話をしないといけないから。

「俺、誓約効かないから無しにしよう」

 全員が驚いて俺を見ていた。後方に下がり、小さくなっていたルナは定かではないが。

 驚きの次は、笑いが起こった。

「ばかだこいつ。本当に誓約が効かねぇなら、だまってりゃいいのに」

 はっきりと笑うクレイズと、表情を変えながらも口元を隠しながら笑うネーボ。

 正面には対照的に、何かを納得したような表情のアーツがいた。

「それでアーツ長。どうします? まさか、オレらだけを誓約でしばったりしませんよね?」

 アーツは目を深く閉じながら考え、口を開いた。

「それでは不公平だ。誓約は課さない。だが規約(ルール)は守ってくれ。武器の使用は禁止、命までは奪わないことを、約束してくれ」

「約束しますよー。ついでにアーツ長、決闘のやり方も乱闘形式じゃだめっすか?」

 クレイズ! っとアーツは怒鳴ったが。

「構わない。それでいいぜクレイズ」

 と言ってやった。

「シュウ!」

 今度は俺へと詰め寄る。そんなアーツに小声で話した。

「大丈夫だってアーツ。俺だって考えなく言ってるんじゃないさ」

「勝算があるっていうのか?」

「まぁ、ね」

 屋敷を出る前にベラが教えてくれたことだ。

「可能な限りでいい。とにかく強さを示してくれ」

「人族は嫌われてるんだろ、強さを示したら駄目じゃないのか?」

「そうはならないから安心しろ。シュウの人柄はすでに、ある程度広まっている。私に怪我を負わせないように勝った、とな」

 納得いかない顔の俺を見て、ベラは続けた。

「貴様は私に勝ったが倒してはいない。誰も強さが分からない状況だ。だから今回は、強さを見せてこい」

「なるほど。でもさ、強すぎたら怖がられるだろ?」

「たわけ。それは敵の場合だ。シュウの人柄は伝わって受け入れられつつある。つまり味方だ。味方で強いのなら、それは頼りになるというんだぞ」

 そう言ってベラは、俺を送り出した。

 二対一。

 強さを誇示(こじ)するには打ってつけだ。

 ハンデは多いほうがいい

  

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