解体屋
追撃が来ないのは予期せぬ幸運だが、損傷した腹部からエネルギーが血のように流れ出していく。残念ながら自分の力と現在の装備では止められそうにない。
「ここまで……かな」
すでにAIの警告も聞こえない、このままでは十分と持たずに全ての機能を停止してしまうだろう。
「ガンマ兄さんに……回線が繋がらない……メッセージを保存してくれてさえいれば状況は伝わるけれど……」
思考能力が限界に近い、予想よりも早く終わりのときを迎えそうだ。
「母さん……姉さん……今そちらに逝きます、あたしは……頑張れましたか…………褒めてもらえ……ます………………か」
『動力部完全に機能を停止だ、プログラム保持するからAIを時間限定でスリープモードに移行させておくぜ。まだ壊れられちゃ困るんだよ…………』
ギガントのメッセージ、最後の方はもう聞こえない。力なく木にもたれかかり、そのまま自重で地面に倒れる――前に何者かがその体を抱き起こした。
ゆっくりと目を開くと、霞む視界の先には赤い髪の少女が自分を抱いてくれた。
「母ちゃんや、姉貴があんたを叱っても、うちだけは褒めたるで、レイ」
「ケミネ……姉さん……?」
徐々に視界がはっきりと見え出した。
腰まで届く赤い髪、やや垂れ目だが優しい表情の女性。見覚えのない顔に聞き覚えのない声だが、その口調だけははっきりと覚えている。いつも陽気で、陰気臭い自分とは対照的だった姉にそっくりだ。
「間に合ってよかったわ、うちもミーネにしばかれてな、おまけにあいつメインコンピューターを破壊しくさった。咄嗟に予備の素体にうちのバックアップデータを転送したから助かったものの、下手したら今頃は母ちゃんと姉貴に再会してもうとるとこやったで」
レイが視線を自分の体に向けると、信じられないスピードで傷口が修復されていく様を目の当たりにした。首にはいつのまにかエネルギー補充の点滴、そばには予備の両腕パーツ。間違いない、この手際と準備はケミネの十八番だ。
「相変わらず、準備と手際がいいですね。こうなること、予測していました?」
「当然や、うちを誰やとおもっとるん?」
「機械が恋人の姉さんです」
「ああ、そやからアクトであるレイも兄貴もみんな恋人や、ほやさかい修復はうちに任せて、あんたはもうちょい眠っとき」
頭頂部に接続された機械で、強制的にスリープモードに移行させられ、成す術も無く深い眠りに落ちていく。目覚めれば新品同様の体になっているのは間違いないだろう。
(ありがとうございます、ケミネ姉さん)
口に出来なかった言葉を、そっと胸中で呟く、それが聞こえたかのように、ケミネは優しく微笑んだ。
「おやすみ、レイ」
腹部の修復完了、あとは両腕の接続を済ませれば、エネルギーの補充が完了した頃にはスリープモードから目覚めるだろう。
『現在の戦況ですが、想いの他苦戦していますね、ミーネが敵勢力に加わったせいで状況はますます悪化しています』
「そうか、ほならあの悪ガキからしばかなあかんのやなぁ……」
両腕の接続完了、欠損部分はパテとシリコンで応急処置を施し、目覚めた頃には完全に肉体と同化し、違和感はないはずだ。多少強度は落ちるが、今の設備ではこれが精一杯。
「ほな、そろそろうちも出よか。コスモ、武装チェックや」
『工具一式、これだけあればあなたには十分でしょう?』
「そやな、こいつらがあれば百人力や」
腰のベルトに仕込まれた工具類。出力兵器も何もいらない、自分だけの最強装備。
「かなり久々やなぁ、解体屋ケミネの腕が鈍ってないことを祈ろうか」
『この十年、散々機械をいじり倒してきたんですから問題は無いでしょう。それよりも二時方向から敵の小隊が接近してきます。数五、人間の歩兵が四とパワースーツが一です』
「ほな、準備体操と行きますか」
跳躍一つで木の枝に飛び乗り、器用に枝から枝へと飛ぶ。すぐに敵の姿が視認できた。談笑を交えつつの進軍とはずいぶんとこちらを侮っているようだ。
『どうしますか?』
敵の小隊がケミネのいる木の下に近づく。一応程度に尋ねてくるコスモだが、答えは聞かずともわかっているだろう。
「もちろんバラバラに解体したるで」
解体用の道具を取り出し、口の端を歪める。
まるで新しいおもちゃを与えられた子供のように、そして飢えた獣のように敵小隊へと飛び掛った。