第七話『街』
ロジェさんが扉を開けた先は多くの人がいた。昨日は夜が遅かったから人がいなかっただけのようだった。多くの人が、会話をしたり、食材を買ったり、遊んだりしているのが目に見えた。
その人々は、ロジェさんのようにヨーロッパ系の顔立ちをした人が多かったが、私のように、黒髪の人やアラブ系の顔立ちをした人もいた。教科書で見た多民族国家とはこういうことを言うのだろうと考えた。
扉から外に出て、ロジェさんが鍵を取り出した。扉の外から見たロジェさんの家と同じような家が何軒にも及んで並んでいたが、一階がお店になっているようなところがあったり、植えられている花の色が違ったりなど個性がさまざまあった。
ロジェさんの家で一番目立ったのは花の多さだった。アネモネのような花であり、色は多彩であった。鍵をかけているロジェさんに聞いた。
「ロジェさんはお花が好きなんですか?」
と聞くと
「…お花?これ?」
と言って玄関前の花を指差した。
「それです。」
私はうなづきながら答えた。するとロジェさんはうなづき、
「花はモリ。」
「モリ?ですか。」
「モリは、モリ・ハルドのモリ。モリはこれ。」
と言い、花を指差す。どうやら、花はこの世界ではモリというらしい。国の名前にも使われているのだから、モリがたくさん植えられているのではないかと思った。
ロジェさんは胸元のポケットからマッチを取り出し、玄関の隅にかかっていた、ランプの中にあった蝋燭に火をつけた。この国では蝋燭に一定の意味があるらしい。
しばらく歩くと、ロジェさんが立ち止まる。
「**ロジェ、**?」
「**ロジェ!」
下の方から声がした。すると二人の男の子と一人の女の子がロジェさんに声をかけていた。ロジェさんは屈んで、その子たちの頭を撫でた。ある男の子の頭が撫でられていると、周りの二人の子供たちは早く変わってほしいのか、言い争いをしていた。微笑ましく見ていると、ロジェさんは私の方を手で示し、
「***、***?」
と何かを話すと、その子たちは一斉に私の方を向いた。
「「「***、***!」」」
みんなが一斉に何かをいい、私はびっくりして固まった後に、何を話せばいいのか困惑していると、ロジェさんが言った。
「ティレ・モルケ。あいさつ、こんにちはと同じ。」
どうやらこの子たちは私に挨拶をしてくれたらしい。私もロジェさんの発音に続いて、
「…ティレ、モルケ?」
というと通じたらしく、子どもたちは笑顔で「ティレ・モルケ!」と再び言ってくれた。その後、ロジェさんがその子たちに手を振り別れの挨拶をしていたので、私も子供たちに手を振ると笑顔で子供たちは振り返してくれた。ロジェさんは
「私は、言語を、教える、子どもたちに、あの子どもたちも同じ。」
と教えてくれた。その後も服屋にいく予定であったが、ロジェさんはどうやら人望がすごいらしく、パン屋をやっている中年の男の人、アクセサリー屋さんと思われるすごい美人な女の人、家の前に座っている毛糸で何かを何でいるおばあちゃんなどなどいろんな人から声をかけられていた。
その度に私のことをロジェさんは紹介しているらしく、話しかけられるため、「ティレ・モルケ」という挨拶を覚えた。
ーすごい、芸能人みたい
など思い、
「有名ですね。」
というと、ロジェさんは有名の意味が分からないのか首を傾げたため、
「人気?名前が多くの人に知られていることです。」
というとロジェさんは笑って、
「教える。だけ、だから、多くの人、私、知っている。」
と返され、先生的な立ち位置なのだろうかということを思っていた。
「ここ。」
とロジェさんが言って、示された先には服の絵が描かれた看板が立てかけてあった服屋さんと思われる建物があった。ロジェさんが扉を叩き、扉を開けてくれた。ロジェさんは私が入る時には必ず先に扉を開けてくれる。
ー紳士的な人ってこういう人のことを言うんだろうな
と心の中で呟きながら、お店の中に入ると、
「ティレ・モルケ!」
と女の人の大きな声が聞こえたと思ったら、突然思いっきり抱きしめられたため、内心放心状態になってしまった。




