第四十一話『花冠』
ティレのお祭りは、神父さんのところに蝋燭をとりに行くことから始まるらしい。教会に行くと、神父さんが大きな木箱の前に立っていて、周りにはすでに蝋燭を受け取った人やこれから受け取るであろう人が多くいた。
授業を受けている子やそのお母さんたちがいたので、ロジェさんと一緒に軽く挨拶をした。
「tire morke!」
というと子どもたちも大人の人も笑顔で、「tire morke!」と返してくれた。そういえば、みんな今日は白い鳥の柄がついた服をきている。そういえば、ロジェさんもと思い、ロジェさんのコートの胸ポケットの方を見ると、可愛らしい白い鳥がさくらんぼを持っている刺繍が施されていた。
私の今日の服装も特別意識はしていなかったのだが、ディーヴさんのお店でいただいた鳥の柄がついたポンチョなのだった。ロジェさんに、
「今日は、みなさん白い鳥がついている服をきていますが、ティレの眷属だったり、するんですか?」
と聞くと、ロジェさんは不思議そうな顔をして、
「白い鳥、がティレ。」
と教えてくれた。
「……そうだったんですね。」
と恥ずかしさのあまり、小さな声で返すと、ロジェさんは笑って、
「知る、ないことが、あるのは、大丈夫。これから、覚える、で大丈夫。」
と返してくれた。
不敬罪に当たるのではないかと思ったが、別にロジェさんは私が、ティレそのものを眷属と勘違いしたことについては特に何も気にしていなさそうだった。そもそも、眷属の意味を知らないのかもしれないが。
ティレが小さな白い鳥。だから、教会のステンドグラスにはたくさんの白い鳥の絵が飾ってあったのだ。
神父さんから蝋燭を受け取る。きれいな造形が施された蝋燭だ。moriがたくさん円形上に彫られており、その中心にはティレの横から見た姿が彫られていた。羽ばたく姿でもなく、ただ横から見た姿であるが、とても洗練されていて素敵なデザインだと思う。
神父さんに
「…des yht doii!」
というと、神父さんは笑って、
「de,hans hafen die carefade getuteten. so, rinn sparutet ve fur cer.」
と言った。ゆっくり言ってくれたので、聞き取れたものの、前半はよく何を言っているのか分からず、「ハンス?という人に言ってあげてね。」的な意味であることはわかった。なんで、hafen?なのかがわからず、carefadeもgetutetenの意味もよくわからなかった。
取り敢えず、後ろの人たちが並んでいるので、神父さんの「morke!」と言って手を振って別れた。
先ほどの神父さんの言葉の意味を理解するために、ロジェさんに聞いてみる。
「ロジェさん、」
というと、ロジェさんは何か話したい私に合わせて、端によって止まってくれた。
「どうしたの?」
とロジェさんに聞かれたので、
「先ほどの神父さんが言ってた、最初の方の意味がうまく分からなくて、教えていただけませんか。」
というと、ロジェさんは
「ハンスが、蝋燭を作る、から。」
と答えてくれた。文的にcarefadeが蝋燭っぽいことだけはわかったが、hafen、getutetenがどちらが作るの方に意味するのか分からないし、仮にどっちかが作るの意味に当たったとしてももう一方の意味はどうしたのかと思い、頭を悩ましていると、ロジェさんが不安そうな顔で私を見つめてきた。
「どうしたの?どこか、分かる、ない?」
と聞いてくる、ロジェさんに申し訳ないと思いながら、
「hafenとgetutetenのどちらが作るの意味に当たるんですか?」
と聞くとロジェさんはゆっくりと説明してくれた。
「tutetenが、作るの意味。getutetenのge、は昔の、ことを言うとき、に使う。hafenは昔のことを、言うときに使う、動きを表す、もの……で、konnとかと使う方法、と似てる。……リン、伝わる?」
と不安そうな表情でロジェさんは言った。日本語で伝えることはロジェさんにとって難しいはずなのに、ロジェさんが一生懸命に伝えてくれた。ロジェさんの言っていることはなんとなく理解できる。
geがつくと、英語の過去形みたいに、過去のことを表すこと。そして、それにはhafenを伴うこと。そして、konnみたいな、助動詞?的な動きをすること。
助動詞がつく場合に、それに続く動詞は英語では基本後ろにつくが、ポリット語では必ず、文の後ろに動詞が着くので、おそらくそれのことを言っているのだろう。そして、その後ろの動詞は必ず”en”で終わる。
ーよし、なんとなく分かった。
と思い、ロジェさんに、
「伝わります!ありがとうございます!」
とロジェさんにお礼をいうとロジェさんはほっとしたような顔になり、微笑んで、「どういたしまして。」と私に返した。
ロジェさんと一緒に教会から離れようとすると、先ほどの子どもたちが、駆け寄ってきたので一体なんだろうと思っていると、手にmoriでできた花冠を持っていた。こんな寒い地域でもこんなにきれいな花が咲くのは少し不思議である。赤、黄、オレンジ、青、紫の色などのたくさんの色の花が使われていた。
「je,rinn!beguren?」
と言われ、裾を引っ張られた。どうやらしゃがんで欲しいようで、しゃがむと、小さな手で私の頭の上に花冠を乗せてくれた。
「uiir?」
と聞くと、子どもたちは笑顔で
「fur je,rinn!」
と答えた。まだここにきてからそんなに経っていないのにわざわざいいのだろうかと思っていると、ロジェさんが笑いながら、
「可愛い。」
と言ってきて、少し恥ずかしく思っていると、子どもたちも「whori!」と連呼しているし、そのお母さんたちは微笑ましくこちらを見ていた。子どもたちに「morke!」というと子どもたちは満足そうに笑っていた。
ロジェさんが「行こう。」と言ったところで、子どもたちは目をキラキラさせながら、他の子どもたちに引き留められ、どうしたのだろうかと思った。どうやら、私の知らないところでロジェさんは冠を一旦拒否していたらしく、もう一度交渉に来たらしい。
「ロジェさんは、着けないんですか?」
と私が聞くと、ロジェさんは少し、困ったように笑い、「私は…。」と言った後、子どもたちの期待の眼差しを見て、少し笑いながらため息をついた後、ロジェさんが子どもたちが頭につけやすいように屈むと、子どもたちは嬉しそうに、「morke!」と言いながら、ロジェさんの頭の上につけた。
ロジェさんは子どもたちに「whori!」と言われているのを聞いて、少し困ったようにしており、私が
「je,roje, whori!」
というと、ロジェさんは顔を真っ赤にしていた。男の人に可愛いというのはまずかっただろうかとも思ったが、少し微笑んでいたので、大丈夫そうである。
ロジェさんと一緒に、「morke!」と言って、一緒に教会を離れた。ロジェさんはまだ、不思議そうに頭の花冠を気にしていそうだった。




