第九十九話『あなただから』
目の前が真っ暗になり、ティレの声を聞きながら、ゆっくりと意識が戻ってくる。
「……ここは?」
いつもの部屋にいるのとは違う。しかし、見覚えのある部屋であった。机には蝋燭が置かれ、アンティーク調の家具たち。意識が朦朧とする中、ここがロジェさんの家であることに気がついた。
「?……も、戻ってきた……?」
手を動かし、足をバタバタさせてみる。手はちゃんと動くし、足には布団の感覚が直に当たってくる。頬をつねってみても、ちゃんと痛い。爆弾に吹き飛ばされたはずだった体は、外傷なく綺麗に残っている。ティレが言っていたことは本当のようだった。
(ロジェさんはどこに……?)
外出でもしているのではないかと思うほど、扉から何の音も、声も聞こえてこない。家全体が静まり返っているようにも感じた。
ゆっくりと地面に足をつける。床の冷えた感覚が足に直に伝わってきた。足を床に置いたときに床が悲鳴を上げるかの如く、キキーと音を立てた。
その瞬間、扉の外から大きな何かが倒れるような音がした。
(……!ロジェさん?何か怪我をしたんじゃ……!)
しかし、私が扉に手を伸ばしかけたのも束の間、先に扉が開いた。
「……リン!」
そこには息を上げたロジェさんが立っていた。
(ロジェさんだ……!本当にロジェさんだ……!)
「あの、ロジェさん、私……!」
私が話そうとする前にロジェさんは私のことを強く抱きしめた。その暖かさが直に伝わってくるのを感じると同時に、ロジェさんが震えているのが伝わってくる。泣いているのか分からないまま、私はロジェさんが強く抱きしめてくるのに答えるようにただ何も言葉を発さずに抱きしめ返した。
「リン、私、ずっと、待ってた。……よかった。……私は、リンがいないと……。」
「私も、ずっと、ロジェさんのこと思ってました。」
素直に伝えた言葉だった。ロジェさんは私が元の世界に帰ったことは何も知らないだろうに、それにうんうんと頷いているようだった。ロジェさんの声から震えているのが伝わってくる。私もそのことに涙を浮かべた。
「リン、私は、リンのことが好き。愛してる。」
「……え。」
その言葉にふと声が漏れる。私がずっと、好きだと思っていたロジェさんが私に向かって好きだといている。ずっと片想いだと、心を隠していたのに、ロジェさんの重しになったらどうしようと思っていたのに。その思いが何とも思えないほど、私は羽が生えたかのように嬉しい気持ちで溢れていた。その感情が涙となってさらに押し寄せた。
「……リン?ごめん、急に、私は、」
ロジェさんの腕が少し緩んだ。そして、私の顔をロジェさんが不安な顔をして眺めている。私もロジェさんに思いを返さないといけない。ちゃんと言葉で。
「ロジェさん、私も好きです。ロジェさんのこと。」
「本当に……?」
「本当です。ずっと前から。」
「……友達とか、家族として、じゃなくて、恋人として、好きだよ……?」
「はい、私も。ロジェさんは私の憧れでもあって、一番好きな人、愛してる人です!」
私がそういうと、ロジェさんは私のことを再び、抱きしめなおし、たくさんの涙を浮かべた。
「私も、ずっと、好きだよ。結婚してほしい。」
「……け、結婚、ですか?」
「うん、結婚じゃない……?」
「いえ、少し驚いただけです。」
まだ、モリ・ハルドの恋愛観には慣れないかもしれない。でも、私は、ロジェさんとなら結婚したいとも思った。初めて思えた人だった。
(本当に、大好き。)
「あの、ロジェさん。」
「どうしたの?」
「uii amire zer.合ってますか……?」
「zer yhest uiien allen.合ってるよ。」
ロジェさんがそう返したのを聞いて、少し恥ずかしくなったと同時に、ロジェさんが微笑ましく私をみて笑うのを幸せだと思った。




