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44. いつもより少しだけ高い空

結希(ゆき)ちゃん、忘れ物ない? ハンカチ持った? 宿題入れた?」

花凛(かりん)ちゃん、わたし、そこまで子どもじゃないよ」

「小学生なんて、まだ子どもだろ」


 伊織莉(いおり)のツッコミに、結希はむぅっと口を尖らせた。


「まぁまぁ。今日は楽しみにしてるからね」

「結希が手上げたら全力で応援してやるよ」

「やめてよ。恥ずかしいから」

「なんだと。おまえ、アイドルみたいな団扇作って持ってくぞ」

「ちょっと、本当にやめてよ。やってる伊織莉ちゃんも恥ずかしいでしょ?」

「恥ずかしいわけねえだろ。やってるこっちは楽しいからな」

「花凛ちゃん、絶対止めてよ」

「えー。楽しくない?」

「絶対やめて」

「えー。楽しいと思うけどなぁ」

「もう、本当に……」


 言いながらも、結希の声にはどこか照れくさそうな笑みが混じっている。


「一回帰ってから、クマさんも連れてくからね」

「……うん」


 その返事は、小さくて優しかった。


「団扇がダメならクマの手振ってやろうか?」

「やめて」

「わがままだな、おまえ。誰に似たんだよ」

「誰だって嫌がるよ」

「あはは」


 三人の笑い声が、玄関に広がる。


 ドアが開き、秋の光が差し込む。


 今日の空は、いつもより少しだけ高くなっていた。


 誰かを失った痛みは、消えない。


 けれど、誰かと歩いていく日々は、こうしてまた続いていく。


 三人は家を出る。


 静寂に包まれた室内では、若い女性の写真と、夫婦の写真が、秋の日射しを浴びて微笑んでいた。


 そして、そのすぐ隣。


 少し色あせたクマのぬいぐるみが、陽だまりの中に、そっと座っていた。

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