嵐の前の静けさ
朝から魔法カフェには、王宮から沢山の食材が運び込まれていた。
ユリアはそれを1つ1つチェックする。
「ユリアさん。これはどこに置きますか?」
トーマスが食材の入った箱を運びながら言った。
「あ、それは奥のキッチンにお願いします。」
「わかりました。」
トーマスはいつ見ても重い荷物を軽々と持ち上げる。
ユリアはそれを見ては感心するのであった。
カフェの営業は当分朝から昼にかけてのパンの販売のみにして、昼からは騎士団の為の食事の仕込み、夜は騎士団にそれを提供する。
カフェの店内の営業はまだ再開していないユリアであったが、物凄く忙しくなりそうだと思っていた。
今日は朝からパンを買い求めるお客が、カフェに騎士団が沢山いるので何事かと見ている。
常連のご近所さんもトーマスの手伝いをしてくれたり、みんな楽しそうに準備をしていた。
魔法カフェに騎士団が通うらしいという噂は、人から人へ伝わって夕方には若い女性の通りが多くなる。
ユリアはその若い女性達にカフェに入れないかと何回か聞かれて断ったりする始末だった。
「やっぱり噂になってしまいましたね。」
トーマスが窓から外を見て言った。
「仕方ありませんよ。内緒にしてても騎士団の皆さんは目立ちますから。」
ユリアはこの事は想定内だった。
ユリア自身、以前の騎士団のパレードの時に見た騎士団の人気を覚えていた。
「人が集まるのは最初だけですよ。そのうち来なくなりますから大丈夫です。」
「それならいいんですが。団員にはここに来た時はあまり目立つ行動をするなと言っておきます。」
「ありがとうございます。」
王宮の食堂の営業に待ち合わなかった団員が来るまで、もう少し時間があったのでユリアは一息つこうとトーマスとお茶にする事にした。
「トーマス様。明日からずっと居なくて大丈夫ですよ?トーマス様もお仕事があるでしょうし。」
「ええ。明日からは最初の団員と一緒に来る事にします。気持ち的にはずっと居たいんですが……。」
「トーマス様!ふふふ。」
トーマスは少し照れながらユリアに聞いた。
「そう言えば、今日のメニューは何ですか?」
「あ、はい!今日はトマトシチューとパン、それからニンジンのサラダにしました!」
「また美味しそうですね。僕もいただけるんでしょうか?」
「もちろんです!先に食べますか?」
「あ、いえ…最後にします。ユリアさんと一緒に。」
「分かりました。じゃあ、皆さんが終わったら一緒に食べましょう。」
最近のトーマスは、ユリアと話す時以前のような堅苦しさがなくなり気楽な会話ができるようになった。
そして時折見せるトーマスのリラックスした素顔を見るのがユリアは好きだった。
これから来る嵐の前のゆったりとしたひと時を、トーマスと2人で過ごしたユリアであった。




