向き合う視線 1
二見が浜にあるショッピングモールは全国に展開している大型チェーンのもので、ここ二見が浜に出来たのは1年半前のことだ。その少し前にテレビで砂浜と景色が綺麗だと放映されてからは観光客、とりわけ若いカップルが増えたこともあって二見タワーという高さ50メートルほどの建物も作られた。そのため、今では二見といえばここと言われるスポットになり、今日も多くの家族連れやカップルで賑わっている。初デートにここに来ている京也と歩はまず大きなゲームセンターへと向かった。歩に手を引かれて店内に入ったが、今では繋いでいた手も離れている。京也はゲームセンターがある3階に向かうためにエスカレーターへと乗るが、隣にいる歩をそっちのけでつい先ほど駅前で見かけた4人の姿を探していた。
「偶然、じゃないでよすよね?やっぱり」
「んー、だろうねぇ」
困った顔をする京也に対し、歩は小さく微笑んだ。
「気になりますか?」
その言葉に京也は歩を見た。そこでやっと自分が歩と向き合っていないと認識した京也は優しい笑みを浮かべてみせた。
「気になってた、けど、もういいや」
「そうですか」
笑う顔が可愛いと思えた。すれ違う男性の視線を集めている自覚もなく、歩はにこにこしながら京也に寄り添うようにしている。カップルならいざ知らず、友達として遊びに来たのに他人の目を気にすることはない。そう、たとえ明人たちに見られようとも。3階に上がればすぐ目の前がゲームセンターだった。入り口付近を占めているのはUFOキャッチャーの類で、すさまじい種類の台が所狭しと並んでいる。
「こういうの、得意ですか?」
「まぁ、それなり、かなぁ」
言いながら取りたい物、取りやすそうな物を見て歩く。そんな2人の様子を入り口付近から観察するようにしているカップルらしき男女が怪しい動きを見せていた。
「いい雰囲気じゃないか」
「ねぇねぇ、これ、取れそうだよね?」
「いや、そんなもんよりあっちが大事だろ?」
会話の噛み合わないカップル。いや、正確にはこの2人はカップルではない。
「あんたさ、これ取れる?」
「今井さぁ、目的見失ってるだろ?」
「ゲーセンでキスするわけもなし、こっちもある程度は楽しまないとさ」
「2人の動向を見るために来たんだろぉ?それにお前とは楽しめない、俺としては苺ちゃんがよかったぜ」
「じゃぁ今からでもそっち行けばぁ?」
「出来るのならそうしたいぜ・・・」
ため息をつく健司を睨みもせず、小銭を投入した春香がペロリと上唇を舐めてみせた。ボタンを操作してクレーンを動かし、狙うのはアニメのキャラクターのぬいぐるみだ。だが、クレーンの掴みがぬいぐるみを動かすことすらも出来ず、春香の百円は無駄に消えた。
「取れそうなのになぁ」
舌打ちをする春香がもう百円を投入しようとした矢先、健司が春香の肩をぽんぽんと叩いた。どうやれば取れるかを考えていた春香はそれを無視するが、しつこく健司が叩いてくるために睨むようにして振り返る。
「もう!何よ!」
「よかったら取ってあげようか?」
そこに立っている京也に声を掛けられて引きつった顔を見せつつ、会釈をする歩に同じように軽く頭を下げた。
「なぁにやってんの、お2人さん?」
「あ、いや、俺たちも遊びに行こうってなってさ、ついでだから、ここに、なぁ?」
「そうそう・・・なんか久々に遊びたくって」
嘘をつくにも下手すぎる。あまりに苦しい言い訳に歩は苦笑し、京也も呆れ顔だ。そんな2人を見つつ、この場を去ったほうがいいと判断した健司と春香はほぼ同時に手を挙げた。
「じゃぁ、邪魔したな」
「そうだね、行こうか」
「じゃ!」
交互にそう言い、最後に声を合わせてそそくさと去っていく2人。そんな2人を見送った京也と歩はお互いに顔を見合わせて笑いあった。
「気になるんでしょうね」
「だからって、こうもあからさまに来るとは計算外だったなぁ」
「そうですね」
どこかぎこちなかった空気が健司と春香のおかげで打ち解けた感じになっている。2人は再び台を吟味しつつ、広いゲームセンター内の探索を再開した。
*
ゲームセンターを出た健司と春香は大きくため息をつくと吹き抜け構造になっている手すりにもたれかかった。屋内はドーナツ状に通路があり、そのさらに外側に店が並んでいる造りだ。内部の吹き抜けからは1階までが見通せ、広い内部も4箇所に設置されたエスカレーターで便利にショッピングが楽しめる構造になっているのが特徴的だった。
「いきなりバレてどうするのよ!」
「お前がぬいぐるみに夢中になるからだろ?」
「あんたがしっかり監視しないのが悪い!」
罪の擦り付け合いが始まった。睨み合い、険悪なムードが流れ始めた矢先、健司のスマホがメロディを奏で出した。春香を睨みつつ携帯を取り出してみれば、明人からの着信だ。このタイミングでの着信に健司が春香を見れば、春香も苦い顔をしていた。
『健司か?今どこだ?』
「・・・・ゲーセンだけど」
『こっちは2階の雑貨屋だ』
「おうそうか、尾行を続ける」
『もしかして、お前ら見つかったのか?』
「・・・・え?なんで?」
動揺がありありの健司の様子から、京也たちに尾行がバレたのを見抜かれたなと思う春香はゲームセンターの入り口にある小さなUFOキャッチャーに近づいていった。
『まぁいい』
「と、とりあえず続行する。連絡を待て」
『・・・・了解』
何か言いたげだったが、明人はそれだけ言うと電話を切った。困った顔をした健司が携帯をしまうと、満面の笑みを浮かべた春香が戻ってくるのが見える。その手にはソーラーで動く何かのマスコットキャラが入ったケースが握られていた。
「一発で取れた!欲しかったんだよねぇ!いぇ~い!」
最早尾行して2人の動向を探るという任務など放棄して楽しむ春香にがっくりした健司が疲れた顔を見せた。
「明人に見抜かれたぞ」
「みたいねぇ~」
「で、どうする?」
「バレたんだからさ、ゲーセンで何か遊ぼうよ」
開き直ったのか、それともただ遊びたいだけなのか。後者だと思う健司もそうした方がいいかと判断し、もう一度ゲームセンターへ入ろうとした矢先、不意に声を掛けられた。
「よおぉ、遠山!」
「あ、富沢」
その言葉に春香もそっちを見れば、そこに立ってにこやかな顔をしているのは隣のクラスの富沢悠だった。茶色い髪を斜めに流した髪型にお洒落な服。何より明人、健司に匹敵するそのルックス。そう、彼こそ学内で3本の指に入るイケメンであり、男子版キューティ3が作られるならその3人に入る容姿をしたイケメンだ。氷の明人、炎の健司、風の悠と揶揄されるさわやかなイケメンである。
「なんだよ、お前ら仲がいいとは思ってたけど、付き合ってたとはな」
にやける感じではない笑みがさわやかイケメンとい言われる所以を物語っている。そんな悠とは1年の時から仲がいい健司は渋い顔をしてみせた。その表情を見た悠は苦笑しながら隣で困った顔をしている春香を見やった。春香は悠とはあまり面識がない。1年生の時からクラスが違うのもあって交友がないからだ。
「なんだ、違ったか・・・ごめんごめん」
困った顔をしつつ笑う悠に何かしらの違和感を覚える。春香はぼんやりとその違和感の正体を探るが、答えは出なかった。
「たまには遊ぼうってことになってな。んで来ただけだ」
「そっか。変な冷やかしになっちまったなぁ、すまん」
「いいって。そういう富沢は1人か?」
悠の周りには誰もいない。友達も多く、仲のいい女子生徒も多い悠だが、彼にもまた彼女はいない。特定の彼女を持たずにいろんな子と遊ぶのが悠のやり方だった。かといって悠に泣かされたという女子の噂もなく、健全な範囲で遊んでいるようだ。結局、校内3大イケメンの3人ともが彼女がいない状態だった。もっとも、キューティ3にも彼氏がいないが。
「今日は、買い物にね」
「何を?」
「時計だよ」
そう言われてふと思い出したが、悠は腕時計を集めるのを趣味にしている。それこそ安いものから高いものまで、気に入ったものを買って集めているのだ。
「金持ちだなぁ」
「いやいや、今回はたまたまお金が入ってきたから」
「ほぉ」
健司の羨ましそうな返事に困った顔をした悠はぼうっと2人の会話を聞いている春香をチラッと見て、口元を緩ませた。
「じゃぁな。お前ら、いい感じだぜ?」
ドラマのように2人の肩を両手でぽんと叩き、悠は3階の中ほどにある時計店に向かって去っていった。そんな悠の背中を見つつ、苦笑交じりのため息をついた健司が春香を見る。
「相変わらずキザっつーかさぁ」
「そうだね」
どこか気の抜けた返事に怪訝な顔をする健司。そんな健司を見て困った顔をする春香は思っていることを口に出した。
「なんか・・・ちょっと裏がありそうな感じがした」
その言葉に健司も何か思い当たるのか、難しい顔をしてみせる。
「あいつの笑顔はどこか偽物のような感じがする時があるからなぁ・・・まぁ、元々がそういう笑顔なんだろうけどな」
「そうだね」
あまり詮索はよくないと感じた春香は小さな笑顔を見せた。それでもまだ悠の消えた方を向いたままだ。
「じゃぁ、行こう」
「あ、うん」
健司に促されてゲームセンターへと戻る。前を歩く健司について行きながらもう一度だけ振り返った春香の表情はここ最近で一番険しかった。
*
苺が雑貨屋に入って既に20分が経っている。こういう店に入るとどこであろうと長いのが苺だ。それを知っているだけに、明人もまたブラブラと店内を見て回り、飽きたら外で苺が出てくるのを待つ。店内にいる苺はコップを手に取りつつ何かを悩んでいるようだ。元々は明日行くはずだった買い物だが、京也と歩のことが気になるからと今日に変更したのだ。もちろん買い物がメインになるため、尾行が目当ての健司と春香も参戦することになり、示し合わせてここへ来ていた。苺がタオルの置いてあるコーナーへ向かうのを見た明人はすることもないせいか、ぼんやりと昨日のことを考えていた。あの坑道内部の不気味な扉、そして襲撃してきた犯人の目的。黒ずくめの服は闇に紛れるため、そして暗視ゴーグルはライトなしで坑道を進むための装備だろう。夜の学校はセキュリティーもしっかりしている。そのため、扉などに何か細工をするためには坑道側から入る必要がある。その何かが扉を隠すためだとしたら合点がいく。ならば、警察はまだあの扉を見つけていない可能性が出てくる。そうすると犯人は警察の動向を把握できる立場にいるのだろうか。生徒を含めた学校関係者で警察に通じる者、自分が知る限り警察を親に持つ生徒はいない。その上、あの変化する蹴りをブロックしに行きながら瞬時に対応して飛び退いた反射神経も気になる。あの動き一つでかなりの腕前だと分かるだけに、まともにやりあっても勝てるという気にはならなかった。それはさておき、犯人は校内で雅美を呼び出し、眠らせてから秘密の通路を使ってあの扉を開け、坑道に連れ込んだ。その後で彼女を別の場所に運ぶ。出来上がったシナリオは完璧だが、問題はあの扉に通じるものがどこにあるかだ。本当に彼女は科目棟へ向かったのか、それすらも分からないだけに推理の域を出ないのが痛い。ため息をついた明人は店内を見る。困り顔をした苺を目にしたためにゆっくりした歩調でそこに近づいていった。
「何を悩んでる?」
「んんー、こっちのハートか、こっちの星か」
ガラスのコップの柄を迷っているようだった。男の明人にしてみればどっちもどっちなのだが、何も言わずに悩む苺を見ていた。そんな2人は傍から見れば美男美女カップルなのだろうが、実際はただの幼馴染でしかない。いや、だからこそこうまで自然体でいられるのだろうが。
「私がハートで、明人くんが星でもいい?」
「プレゼントはそれか?」
「ううん。でもこれもあげたいなぁって」
「それでいい」
感情のない鉄の声だが、苺にとってはいつものことなので気にしない。
「んじゃ買って来るね」
「ああ」
とりあえずレジに向かう苺を見つつ、ぐるりと店内を見渡した。女性が好みそうなものばかりが陳列されているばかりで明人の興味をそそるものはなかった。そうこうしていると満面の笑みをたたえた苺がやってきた。
「おまたせ。さて、じゃぁ本命を買いにいこう?」
「本命はなんだ?」
「今年はね、財布かな」
「財布?」
「そう。明人君の、結構傷んでるでしょ?」
言われてみれば確かに使い込んでいて小銭を入れる部分が破けそうになっている。よくそれに気づいたなと感心しつつ、苺へのプレゼントをどうするかを本人に聞いてみることにした。
「お前は何が欲しい?」
「んー・・・バッグかな」
「・・・・またかばんか」
「うっ・・・いいじゃん、あっても困らないんだし」
「わかった」
いつからか、毎年の誕生日前に一緒にプレゼントを買うことになっていた。欲しいものを買い、それを誕生日に渡す。こうすることによってプレゼントが無駄になったりすることを防ぐのだ。元々は苺がとてつもなく変な物をプレゼントしてきたことがきっかけだった。男の明人に熊のぬいぐるみやら金魚などを。さすがに呆れた明人の提案で今のスタイルになったのだ。
「まずは財布だね」
「確か奥にかばんや財布の店があったな。まとめて見れる」
ここへは一度家族と一緒に来たことがあるだけにおおよその店の場所は把握している。その際は苺の家族も一緒だったこともあって苺も頷いていた。このままかばんや財布の店は2階でいいために、ゲームセンターとは真逆の方向へ向けて歩き出す。どこかご機嫌な様子の苺と会話をしつつ歩いているとアイスクリームの店が見えてきた。それを目にした途端、今まで軽快にしゃべっていた苺の言葉が途切れ始め、もはや目はその店に釘付けになっていた。そんな状態でもその前を通り過ぎようとする苺の腕を掴む明人に、苺は体をビクつかせて驚いた顔を見せた。
「ど、どうしたの?」
「冷たいものが食べたくなった」
そう言うや否や、列を作っているその最後尾に並ぶ明人。きょとんとした顔をしていた苺が少しはにかむと、明人の横に並んで立った。
「ありがと」
やや俯き加減で小さな声だったが、苺はお礼を言った。自分を気にしての言葉が素直に嬉しかったのだ。普段は氷の男と呼ばれる冷たい明人だが、時々自分にだけはこういった優しい面を見せてくれていた。幼馴染という立場のおかげだと思うが、自分だけが特別と思える。そんな明人の行動に心から感謝をする苺だった。
*
「先輩、特技ですよ!これはもう凄い特技!」
やや興奮した歩の声に照れつつも苦笑を漏らす。歩の手に持たれた大きなビニール袋にはぬいぐるみやらフィギュアの類がびっしりと入っている。これらは全て京也の取った景品であった。歩が欲しいと言った物はほぼ一発でゲットし、あまりお金を使わずにこれだけの景品を手に入れていたのだ。周囲の目もある中での神技に、店の人でさえも苦い顔をしながら、実際は感心していたほどだった。
「昔から大体分かるんだよなぁ・・・あそこをどうすれば取れるとか」
「凄い、尊敬します!」
本気で尊敬のまなざしを見せる歩に笑みを返し、手にしていた袋を手繰り寄せた。その行動の意図を理解した歩が焦っている。
「じ、自分で持ちます」
「いいよ、可愛い子に持たせるわけにはいかないしね」
「・・・ありがとうございます」
にこやかにそう言われ、歩は赤面しつつその好意に甘えることにした。
「いいって」
「いえ、いろんな意味で」
京也はそれをゲームセンターで景品を取ったことだと思っていた。欲しい物を取ってあげ、さらにその荷物を持った。それに関するお礼だと。だが、実際は違う。歩はこれまでのこと全てに対してお礼を言ったのだ。健司や春香に冷やかされた自分を気にかけてくれたこと、警察の事情聴取前に緊張していた自分を気遣ってくれたこと。そして自分を守ると約束してくれたことなど。初めて会ったときに言えなかったからこそ、お礼はちゃんと言おうと思っていたのだ。そんな歩の言葉に笑顔を返し、京也は相変わらずのボサボサ頭を掻いた。
「さぁて、ブラブラしようか?」
「はい」
その返事に笑みを見せつつゲームセンターを振り返れば、クレーンゲームに悪戦苦闘する健司と春香が見える。それに気づいた歩も苦笑し、2人はとりあえず3階を見て回るべく歩きはじめた。
「あの2人、何しに来たんだか・・・」
「私たちの様子を見に来たようでしたね?」
「自分たちが遊ぶ方を優先するようじゃ、探偵失格だよぉ」
「ですね」
くすくす笑う歩を可愛いと思う。こんな可愛い子と付き合えたら最高だと思う。可愛いだけじゃなく、性格もいい。確かにこの先、こんな子と出会うことはないかもしれない。だが、だからこそ自分は付き合えない。この子を不幸にしてしまうのが分かっているだけに、好意に応えることはできないのだ。それなのにさっさと振らずにこうしてデートしている自分が嫌になる。結局は自分は自分勝手な男だと改めて認識した。
「戸口先輩たちは、別行動なんですかね?」
「ん?んー・・・かもね」
アクセサリーショップを過ぎ、時計のブランド店にさしかかる。なんとなしに店内を見た京也の足が止まった。それに気づいた歩も足を止めて店内を見ると、茶髪のイケメンがレジで会計をしているところだった。
「富沢?」
その支払いをしているのは隣のクラスの悠だ。それなりに話をしたことがあるだけに、見間違いではない。
「凄い、お金持ちなんですねぇ」
歩が感心したように言うのもわかる。悠は財布から取り出した1万円札を数枚置いているのだ。悠の父親はただのサラリーマンでそんなに裕福ではないはずだ。アルバイトもしていないし、これだけの大金を一気に使うとなるとお年玉ぐらいしか思い当たらないが、それにしてもかなりの金額だ。
「金持ちではないけど・・・確かに凄いね」
歩に見えない角度で鋭い目をした京也だったが、悠に声を掛けることなくその場を後にした。何か引っかかるようなものを感じながらも今は歩との時間を大切にしたいからだ。
「あ!」
しばらく歩いていると歩が声をあげた。歩が見ている方向を見れば、有名なアニメの専門ショップがそこにあった。このアニメは巨匠と呼ばれる世界的にも有名な監督が作ったアニメ映画であり、国民的人気を誇るといってもいい。歩はどこかそわそわしながらもそこへ一歩を踏み出せない感じだった。そう言えば、と手に持っている袋を見れば、アニメのキャラクターのぬいぐるみやフィギュアが多い。景品を取ることに集中していたのもあって今更気づいたが、どれもいろんなアニメのキャラクターだ。
「もしかしてさ、一枝さんって、アニメオタク的な・・・」
そこまで言った瞬間、歩がばっと勢いよく京也を見た。そのあまりの動きに面食らった京也が目を丸くしていると、歩はゆっくりした動きで顔を伏せていった。
「・・・・です」
「ん?」
「そう、です」
「なぁんだ、それならそうと・・・・」
「ごめんなさい」
「はぇ?なんで謝るの?謝ることないでしょ?」
そう言うと京也は優しく歩の頭をポンポンと撫でてやる。歩は体をびくつかせながらもゆっくりと顔を上げた。アニメ好きだとバレたとこに加えて頭を撫でられた羞恥心から顔を赤くしつつ、どこか困った表情を浮かべていた歩は優しい笑顔の京也を見る。
「好きなものは好き、それでいいじゃないか?」
「でも・・・」
「人から何と思われようが一途に好きなら問題ないって」
「でも・・・」
「じゃ、行こう」
困った顔をしたままの歩の手を引き、京也は少し強引に店に入った。結構広めの空間だったが、いろんな物があるために狭く感じるほどだ。歩はまだ乗り切れないのか、きょろきょろするだけで何も手に取ろうとはしなかった。
「こういうのを知るためのデートでしょ?だからさ、いろんな君を見せてよ」
その言葉に歩の顔にゆっくりと笑顔が戻る。そんな歩に笑みを返しつつ、彼女を遠ざけるならば、本当ならこの趣味を馬鹿にするべきなのだろうとぼんやりと考えていた。けれど、それが出来るほど京也は歪んではない。彼女の気持ちには応えられないが、友達ではいられる。そう思う京也をよそに、徐々にだが歩ははしゃぎ始めた。そんな歩を見てホッとした京也も一緒に見て回る。結局、歩は何も買わなかったがその表情は満足げだった。
「ありがとうございます」
「え?」
「さっきの言葉、嬉しかった」
素直な言葉に京也は自然な笑みを浮かべた。そんな京也に笑顔を返す歩を促し、他の店を見て回るのだった。




