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「で、私を殺すのかしら?それとも……」
ゆっくりと少女の身体が傾く。
それにいち早く反応した青年。
大剣を素早く下ろし、空いた左手で空気のような軽さの身体を受け止める。
自然と共に生きる少女のような妖精、リリィ。
朝日と共に起きて、闇と共に眠りに就く。生まれから今までずっと続けてきたリリィにとって当たり前の生活は勇者、ルジェには理解出来ない。
「警戒心がない妖精ですね。敵か味方か分からない男の前で眠ってしまうなんて。僕は勇者。無駄な殺生はしません」
少し困ったように眉をひそめ、リリィを肩に担ぐ。
大剣を背中に背負っていた鞘に納めて元来た道をゆっくりと歩き出す。
赤黒い狼は闇に紛れ、姿は見えない。生き物の気配が無い森の夜は不気味で恐ろしいものだった。
時折雲から顔を覗かせ森を照らす月。月明かりに照らされた葉のない木々はまるで墓石のよう。
魔王、グランフィルドの城からはこの広く不気味な森を一望することが出来た。
「……勇者ソムティーズ。あなたの自慢の息子がやっといらっしゃたわよ。ずいぶんと図々しい子に育ったようね。自分の異変に気付かないなんて哀れな」
「………………」
漆黒で露出度の高いドレスを身にまとった美しく、気高い女性はテラスから身を乗り出し楽しそうに呟いた。夜風に吹かれ時折揺れる紫の髪を銀色の髪飾りで一つに結い上げ小さく微笑む。
女性の隣には興味なさそうに森を眺める無表情な少年が一人。
灰色の髪を特徴とした少年は直ぐに薄暗い城内へと姿を消してしまった。
「少しくらいは興味を持ちなさいよ。流石あの人の息子ね。私とグランフィルドにそっくりだわ……小さな魔王、フィルド」
不満そうに唇を尖らせる女性もゆっくりと城内へと消えてしまった。
木々の隙間からうっすらと太陽の光が届く。
ゆっくりと太陽が空を昇る中、リリィは目を覚ました。
「おはようございます。早いお目覚めですね」
背後から気配もなく現れたルジェは昨晩と変わらない笑顔で挨拶をする。
「おはよう。私は自然と共に生きているの。あなたは寝ていないのかしら?」
「魔王の敷地内で仮眠をとるわけにはいきません。いつ魔物が襲ってくるか分からないので」
朝日に照らされる森は月明かりより綺麗に光っていた。
葉のない木は冷たい風に揺られて踊っている。
ルジェはリリィにかけていた焦げ茶色のローブをそっと取り上げ、羽織った。
一晩中身に付けていたのか、鎧がかちゃかちゃと音を立てる。




