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少女、子供を紹介する

 この世に存在するすべてに精霊は宿っている。風土水火はもちろん、木や石、鉄や雷にも宿っている。


 それは精霊使いはもちろん魔力の扱いに長けた者であれば、皆体感して知ってる。

 魔力を通して世界に触れる事の出来る者たちであれば、精霊とは身近な存在なのである。

 それは光と闇の精霊であっても同じ事である。


 但し、それは自我を持ち始める中位以上の精霊となると話が変わってくる。


 基本、精霊はその属性の強く顕れた場所に、より高位の精霊が顕現しやすい。風であればより強風の吹き荒れる場所に、水であれば澄んだ大湖であったり流れの激しい大河であったり。

 その性質と属性に合った精霊が顕現する可能性が高くなる。


 だが、その法則の一切通じないのが、光と闇の精霊なのである。



 とある国家が高位の光の精霊を顕現させようと計画したことがあった。


 考え得る限りの多種多様な集光装置を作り上げ、様々な条件をそろえ実験を繰り返した。


 数十年に渡り数千数万と実験は繰り返された。

 だが、結果は成功例無しという惨憺たるものであった。


 故に、光と闇の精霊に関して、こう言われている。


 曰く、光と闇の精霊には中位上位の精霊は存在せず、高位以上しかいない。


 曰く、自我を持つ光と闇の精霊とはすなわち神の事であり、人為によって呼び出すことなど不可能である。


 曰く、光と闇とは不変ものとあり、そもそも中位以上など存在しない。


 曰く、曰く、曰く・・・


 様々な憶測の飛び交い、もはや伝説上にしか存在しない空想の産物とまで言われるほどであった。


 それが、ウィリアムの目の前に居た。


 ウィリアムは、まさか、という言葉を飲み込んだ。


 ウィリアムもまた魔力を扱い、魔力を以て世界に触れる者である。目の前にいる幼女から溢れる強大な魔力、そして紛うことない陽光にも似た光の力。


「な、なんてことだ・・・」


 ウィリアムは絞り出すかのような呻きを残し、頭を抱え膝を突いた。

 一方、セラスとティリアは何にそこまでの衝撃を受けたのか理解出来ず、お互いに顔を見合わせていた。


「ど、どうした?」


 ウィリアムのあまりの変貌ぶりにセラスは不安に駆られて声を掛けた。


「どうしたもこうしたも・・・あるかぁぁぁぁ!!」

「うぇ?」

「光の精霊だぞ!国家規模の召喚ですら顕現させられなかった奇跡の存在だぞ!!」

「はい?」


 荒ぶるウィリアム。対して未だ何に対して怒っているのか理解できて居ないセラス。

 当事者であるティリアだけが、あー・・・という何か分かったような顔をしていた。


「こんな事が世間に知れたら・・・、いや、どうにか隠し通さなければ・・・、あぁアルフレッドには言わねばならな・・・だが、これ以上の心労は与えたくない・・・、これ以上頭頂部が・・・」


 ブツブツと呪文の様に呟きながらウィリアムは自分の中に入り込んで行った。

 ウィリアムの呪文に耳を傾けながらセラスはティリアを見た。


「ウィリアムってアルフレッドより背が高いし、後ろを歩く事が多いらしいから、てっぺんがキてるの見てんだろうな」

「アルフレッドって領主だよね?まだ若いと思ってたけど・・・、領主って心労溜まりやすいのかな?若◯ゲって大変そう」

「誰がハ◯だ、まだアルフレッドはハ◯ていない!」

「おかえり、そのまま殻に閉じこもって出てこないかと心配してしまったよ」

「俺もそのまま閉じこもっていたかったが、そうもいかん。っというか、アルフレッド様の前で◯ゲの話はするなよ」

「わかってるよ、それに関しては・・・まぁ、さておき」


 あからさまな言葉の濁し方にウィリアムは首を捻った。そもそもセラスは言い辛い事でもハッキリと言ってしまう。

 今のように濁した事などウィリアムは聞いた事がなかった。


 だが、今回に関しては事が事だけに聞き流すことにした。それ以上に考えなければいけない事がある。


「なぁ、ウィリアム」


 ウィリアムの思考を知ってか知らずか、セラスから話を振ってきた。


「なんだよ」

「えっと、こんな事が世間に知れたらとか・・・言ったか?」

「言った。伝説で詠われる以外に出てこない奇跡の存在、そんなのが目の前に居る。それが知れたらどんな騒動になるか・・・」


 再びウィリアムは頭を抱えた。


「いや・・・でもさ、光の精霊って割とその辺にいるよな?」

「は?」


 セラスの言葉にウィリアムは顔を上げた。

 今度はウィリアムが何を言っているのか分からないという顔になった。

 セラスはウィリアムの反応を見てティリアを振り返った。


「どういうこと?」

「あー、そうですね。一言で言えば、かあ様は目が良すぎるのです。かあ様は前にどこで光と闇の精霊を見ましたか?」

「どこって山の中でも見たし・・・町に入ってからも見たね」

「まち・・・な・・・か?」

「あー、ウィリアムさん私を見てどう思いますか?」


 油の切れた人形のように音を立てそうなカタカタした動きで、ウィリアムの顔がティリアに向いた。

 ウィリアムの目に髪の長い金髪美幼女がワンピースのスカートをはためかせ、クルリと回っている姿が映った。


「・・・神々しい」


 やや言葉を選んであろうウィリアムの台詞に、ティリアは微笑み、「ありがとうございます」と軽く頭を下げた。


「では・・・もう一度」


 ティリアはゆっくりと目を瞑り。


「ウィリアムさん、私を見てどう思いますか?」


 ティリアは先程と同じようにクルリと回って見せた。


「え?・・・あれ?」


 動作も仕草も、顔に浮かべた微笑みさえも、先程と全く同じ筈なのに、ウィリアムが受けた印象は全く違うものだった。


「可愛い・・・女の子」


 ウィリアムの答えにティリアははにかんだ笑顔を浮かべ、お辞儀をした。


「ありがとうございます」


 一連の動きをぼんやりと見ていたウィリアムはようやく、先程との違いに気が付いた。


「あ、魔力を感じない」


 ティリアはふふっと小さく笑うと、


「答え合せをしましょう」


 ティリアの小さな手と手が叩き合わされペチンと可愛い音を鳴らした。


「私たち光の精霊は・・・まぁ、闇の精霊も同じですが、みんな姿を自由に変える事が出来ます。そして、自在に魔力を操れる事により、精霊である事を隠して行動出来るのです」

「え、それじゃ・・・」

「かあ様、かあ様の見た光の精霊ってどんな姿をしてました?」

「山の中に居たのは・・・尾の長い小さい鳥だった。町の中で見かけたのは猫だったな」

「ぇえ・・・じ、じゃ何処かの国で光の精霊を顕現させようとして失敗したってのは??」


 ウィリアムの言葉にティリアは少しだけ首を傾げた。


「私はその事は知らないですけど、んーなんだろ・・・。私らが魔力を持って形になるのって特に何か条件がある訳じゃないんですよねぇ。まぁ、顕われ易い条件を整えてもらったとしても、なんかヤだなーってなったら拒否するし・・・。

 色々と言われている様ですけど、簡単に言えば、私達は魔力さえあれば何処にでも顕れる事が出来ますし、魔力が無くなればそのまま光に戻るだけ、そんな存在なのです」


 衝撃的過ぎる内容に、ウィリアムは別の意味で頭を抱えたくなった。これは知ってはいけない話だったのではないかと。


 これ以上は聞かない方がいい。


 そう思ったウィリアムだが最後に一つだけ、どうしても聞きたい疑問があった。


「最後・・・.最後にこれだけ教えてくれ、セラスはどうやってこの子を呼び出したんだ?って言うか、母様ってどういうことなんだ?」


 セラスとティリアの話を全て真実として受け止めるにしても、その単語だけは説明がつかない。


「偶然?」


 セラスが首を捻り答える。


「いえ、必然です。私はかあ様の子として生まれるべくして生まれたのです」


 両手を合わせ目を瞑り、祈る様に語るティリア。


「私の主観で良ければ説明しよう」


 ウィリアムはセラスを見て頷いた。


「二日前の昼のことだったのだが、私は日課にしている魔力練転の練習をしていたんだ。

 あぁ、魔力練転というのはアレだ。

 私に魔法を掛けた髭の老人がいただろう、彼が魔法を行使する時の魔力の動きがとても美しくてな。それを真似しようと体内にある魔力を螺旋のように捻り練り上げ、そして体内で循環させるよう回転させる法を考えついた。それに魔力練転と名付けたのだが・・・」


 そう言うとセラスは動き始めた。


 足が動き、膝が回るとそれにつられる様に腰が動く、背中が蠢いたかと思えば肩が肘が手首がと動き、また逆を辿っていった。


 それは何処か人体構造を無視するかのような不思議な動きだった。


「これが中々に難しくてな、こんな風に魔力の動きに連動して身体が動いてしまうんだ」


 その動きにウィリアムは見覚えがあった。


(あの不思議な踊りはそういう意味があったのか)


「まぁ、それも慣れてきて、余り身体を引っ張られない様に、かつより魔力を練り回せる様に・・・と、なって来た時にふと、やってしまったのさ」

「やった?」

「そう、手に持つ杖に魔力を込める様に・・・」


 セラスは腕を振り上げ、眼前に突き出す様に振り下ろした。


 もちろんその手に杖は無い。

 込める相手がいない魔力はそのまま掌から飛び出した。


「なぁ!?」


 ウィリアムの目の前、セラスの突き出した掌の上に紫色に輝く光の玉が浮かんでいた。

 ウィリアムはそれが何であるのか瞬時に理解した。


「そんなバカな・・・」


 それは目に見えるほどに高密度に圧縮された魔力の塊。

 本来、魔力に色はない。魔力を操れる者が感じ取ろうと集中して、ようやく感じ取れるものなのである。

 それが色を帯び、形を成している。


 ウィリアムの驚愕は当然と言えた。


「ついつい出してしまったこの塊。これをどうしようかと悩んでたらな・・・コイツがこの魔力を喰って顕現したのさ」


 そういうとセラスの掌にある魔力塊は解ける様に小さくなり、無くなった。


「やはり、一度出した魔力を再び体内に戻すのは難しいな、半分位しか回収出来ないか」


 セラスの言葉にウィリアムは目を見開いた。

 先程から驚いてばかりだな、とウィリアムは胃が痛くなるのを感じた。


(普通は一度出した魔力を引っ込めるなんて真似は出来ないんだがなぁ・・・)


 そう思いながらも、この目の前にいる少女ともいえる女は、常識とはかけ離れた存在であったと再認識した。


「で、どうするんだ?」

「どう、とは?」

「ティリアの存在だよ」


 セラスは傍にいる幼女の頭をポンポンと撫でた。


「・・・知られると何か不都合でもあるのか?」


 言ってしまってからウィリアムは少し後悔した。

 隠そうとするなら幾らでも出来たのだ。


「不都合はないが・・・私としては一応、居候の身であるし、家主にあまり迷惑は掛けたくないのでなぁ」


 悪びれるでもなく言った。


(少しでもそう思うなら自重してくれよ)


 口から溢れそうになる愚痴をなんとか心の中に押し留め、ウィリアムは考える。

 セラスに関わる諸問題は多々あるが、この光の精霊に関しては問題の悪質さが桁違いすぎた。


 下手に知れたならば戦争にまでなりかねない程の厄ネタである。


「その子を公表するつもりはないんだよな」

「自分から大ごとにしようという気はないよ」

「わかった、なら俺は何も聞いていないし、知らない。そういう事にする」

「恩に着る・・・でいいのかな?」

「恩も何も俺が知らんのに着るものなんてねぇよ」

「わかった」


 そういうとセラスはクスリと笑った。


「疲れたから戻って少し休むわ」

「そうか、私はもう暫くここにいるよ」

「あぁ、なにかわかったら教えてくれ」


 そう言い残すとウィリアムは書庫から出て行った。セラスも椅子に座り直し、手に持っていた本を開いた。


「よかったのですか?」

「ん?」

「私はやはり・・・」

「私はな」

「はい」

「この世の全てに意味があると思っている」

「・・・はい」

「だからな、きっと来るんだよ、私のそばにティリアが居た事に感謝する時がな」

「迷惑を掛けるかもしれませんよ」

「ふふっそれでもだよ。私のそばにお前が生まれた。私はお前にティリアと名付けた。それをティリアは必然と言った。ならばそういう事なんだ」

「・・・はい」


 ティリアはゆっくりと浮かび上がると小さな光に変わり、書庫を照らす光の玉の中に戻っていった。


 光に照らされる書庫の中、ページをめくる音だけが流れていた。

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