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無魔力の第六王女は敵国に攫われる  作者: 白雲八鈴


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第7話 聖女は存在した(レインアルド Side)

 レインアルド Side


 姫が目を覚ましたと聞いた翌日、負傷者を集めた天幕に向かおうとしている姫と、それを止める侍女がいた。


「私はもう大丈夫だと言ったじゃない」

「姫様の大丈夫は当てにできません!」


 侍女の言葉から、倒れることが今まで何度もあったと予想できた。


 聖女と言う者は治療にかけては疲れ知らずなのかと思っていた。

 だが、侍女から『姫様も人なのです』と言われそれはそうだと納得する。


 言い合っている二人の下に足を運ぶ。


「疑問なのですが、何故そこまでして負傷者の治療を行うのでしょうか? そもそもこの場には治療師がいますよね?」


 戦地では怪我の治療のために、治療師を派遣していることが普通だ。

 重傷者は前線に到着した日に治癒が終わっているので、急ぐ必要もなく、それぐらいは治療師に任せればいいだけの話だ。


「……死ねばそこで終わりだから」


 当たり前のことですよね?


「後悔して終わりたくないじゃない? 私は後悔ばかりが残っている。何故あのとき……もう終わったことね。天幕に戻るわ」


 いつもと違い、ほの暗い表情を浮かべた姫は天幕の方に戻っていく。


 後悔? それは姫の母親のことだろうか。

 もしかしたら、母親の死が奇跡の力というものを使えるきっかけだったのだろうか。



 翌日の朝食後に、姫が戦場に向かうと口にした。

 確かに前線に向かうとは聞いていたが、内心前線の拠点にとどまると思っていた。


 しかし、侍女もそれを止めることなく送り出している。


 その姫の周りには、今までけが人を治していた者たちが付き添っていた。

 そう、治療師自ら戦場に赴くというのだ。

 それも兵士と違い、白い衣服をまとっており、目立つことこの上ない。


 これは考えられないほどの愚行。


「姫君。彼らの戦場に伴うのはあまりにも愚かとしか言いようが……」


 すると姫の赤い目が私を睨みつけてきた。


「契約にサインをしましたよね。口だけの無能は必要ないと、その首ご自分で落としますか?」


 まさか、あの契約はこのことを言っていたのか。確かにこれは護衛であれば、口を出してくるだろう。


 貴重な治療師を戦場に連れていき、戦えない治療師を護衛しろというのは流石に無理がある。無能とかそういうレベルの話ではない。


「ですが、護衛に彼らも入るとなると些か人数が足りず……」

「口を閉じなさい! リヒト、貴方は誰と契約をしたのですか? 私とですよね? ならば、王族の私の護衛をする。理解出来たのであれば、私から手を離しなさい」


 あ、引き止めるために思わず姫の腕を掴んでしまったようだ。

 納得はできないが、理解はできたので手を下ろす。


「さぁ、参りますよ」

「「「はっ!」」」


 姫は凛とした姿で、前線の拠点から戦場に向って行った。



 戦場と言ってもはっきり言ってかなり広い。国境線が戦場と言っていい。


 その国境線に行くまでにも距離があり、姫自ら騎獣に乗り、移動している。

 そこに不安定感はなく、かなり乗り慣れていると思われた。


 そして数人ずつ治療師の者と付き添いの者たちが、集団から離れていく。

 恐らく事前に決められていた戦線に向かったのだろう。


 最終的には、姫と我ら二人だけが簡易的に作られた砦に到着した。


 いや、これなら最初に我々にも、どういう行動をするか言うべきじゃないのか?


「これは第六王女様!」

「挨拶は不要よ。いくつか物資を運んできたので、皆に分け与えてあげて、私は治療を行うわ」

「ありがたき幸せ!」


 姫は誰の手も借りることなく騎獣から降りた。そして騎獣にくくりつけて運んできた荷を指し示す。


「あ……武具は届いたかしら?」

「はい! 第六王女様のご支援で、我々も生き延びている所存であります」

「いいのよ。私にはこれぐらいしかできないから」


 姫はそう言いながら、砦というのは烏滸がましいほど岩を積み上げたところに向かっていく。

 恐らく、誰かの魔法で作り出したのだろう。


 ここに来るまでにこのようなものをいくつか目にした。


 そして地面に伏している者たち一人ひとりに声をかけて治療していく。


 姫はこれしか出来ないと言っているが、それができるものがどれほどいるか。

 先ほどの兵が言っていたように、姫の支援がこの戦線を維持していると言っていいだろう。


 だから、排除しようとしていたのだが。


「終わったので、戦場に向かいますが、ここに待機していますか?」


 姫は本当に戦地に降り立つつもりらしい。

 時々、積み上げられた岩に魔法が飛んでくるこの状況で、よく口にできるものだと、逆に不安になる。

 危機感というものはないのだろうか。


「それだと、無能扱いされるではないですか」

「そう」


 何故か残念そうな返事が返ってきた。

 もしかして、本気で足手まといにしか思われていないのか。



 私の心配をよそに、姫は戦闘区域の外側を散歩するように歩いている。が、ときどき魔法が飛んでくることには変わりない。


「質問をよろしいでしょうか?」

「なにかしら?」

「昨日、なぜあのように無理をして軽傷者の治療を行おうとなさったのですか?」

「していないわよ。ライラと貴方に止められたじゃない」

「それはわかっておりますが、ただ私が疑問に思っただけです」

「はぁ……」


 何故か大きなため息を吐かれてしまった。

 そして、ピタリと足を止めたかと思うと、突然方向を変えて足早に進み出す姫。


 何かを見つけたのか地面が焼けただれて、くぼんだところにしゃがみ込んだ。


「見つけましたよ。大丈夫です。一人ではないですよ」

「せ……聖女さ……ま」


 驚いた。あのようなところに人が……いったいどういう目を持っているのだ?

 私でもそこに人がいるなどわからなかった。


「聖女様。俺、あのまま死ぬとばかりに……」

「もう、大丈夫なので、砦にお戻りなさい。少しだけど食べ物を持ってきているから、お腹いっぱい食べてね」


 そう言って、衣服が意味をなさないほどボロボロの兵が、何事もなかったように戦場を駆けて戻っていく。


 これは脅威だ。

 味方であれば心強いだろうが、敵からすれば脅威にしかならない。

 死んだと思っていた者が、生き返り前線に戻っていくのだ。


 やはり、聖女をこの場で始末したほうがいいのではないのか。


「一人で死を待つのは、とてもとても怖いのよ」


 私がどうするべきか考えていると、小さな声が聞こえてきた。


「後悔ばかりが頭をよぎり、どうしてこんな目に遭わないといけないのかと、理不尽を恨むしかできない。何もできないのに、死が自分を蝕んでいくの……だから、私が手をとってあげるの。一人ではないと。まぁ、私の勝手な言い分ね」


 まるで体験したかのような言葉だ。

 だが、第六王女を調べたかぎり、大病を患っただとか大怪我を負ったというものはなかったはずだ。


 姫の言葉の真意が確認できないまま日が落ちるまで、姫は戦場を歩き回っていたのだった。


「もう、戻るわ。これ以上遅いとライラにまた怒られるから」


 空と大地が赤く染まり、夕闇が迫ってきたところで、姫は戻ると口にした。

 確かに帝国の兵と遭遇することなく、護衛とは形だけだった。


 これもまた不思議なことだ。

 こんな白い衣服を身に着けていれば、目立つはずなのだが。


 ん? 姫の足元の地面が動いた?


「黒き魔女め! 死ね!」


 地面が盛り上がったと思えば、そこから一人の兵が飛び出てきた。帝国兵か……私は躊躇することなく剣を抜き、姫の盾になるように身を滑らせ、剣を振り切った。


「あ!」


 何故か地面に崩れていく帝国兵に手を伸ばす姫。その姫の手を遮り、これ以上近づかせないように……。


 世界が黄金に輝いている?


 私の目に映る光景が理解できないでいた。

 世界が金色の粒子に満ちている。そのような光景だ。


 その粒子が姫の手を止めた左腕のある一箇所に集中している?

 そこは古傷があった場所。


 そして、姫を見れば、黒い色の髪が黄金に輝き、金色の光をまとっていた。

 聖女。ふとそのような言葉が頭をよぎる。


 だからだ。だから治療されたものは皆一様に聖女と言葉を口にしたのだ。


「どうして、殺してしまったのです! 流石に死者は治せません!」


 その姫の言葉と同時に、世界の色が戻ってしまった。

 だが、理解してしまった。この姫は敵とか味方とかそういう存在ではないということにだ。


「すみません。あまりにもとっさのことでしたので、姫君のことを最優先でお護りした次第です」

「はぁ、次からは殺さずに相手を制してください。敵兵を殺さないのも言っていたはずです」

「次からは気をつけます」


 こうして、完全に夜になる頃には前線の拠点に戻ることができたのだった。




「クオン。見てくれ」


 天幕に戻った私は上半身の衣服を脱ぎ、背中をクオンに見せた。


「傷がないですが? どうされたのですか!」


 私の背には昔暗殺されかけた古傷が残っている。それも毒がまじっているので今でも傷が残り、どす黒く変色しているはずなのだ。

 それを、クオンに確認させたところ、やはりなくなっているらしい。


「今日、帝国兵を切っただろう」

「はい。惜しいと思いましたが、なぜあのまま聖女を殺させなかったのかと、私は思ったぐらいですね」

「不審なことがいくつかあったから、様子見をしようと思っていたのだ」

「不審ですか?」

「それは確定ではないから、口にはしない。だが、あのとき姫は敵兵の傷を治そうとしていた。その力の余波を受けたと言えばいいのか。古傷が綺麗に治っているのだ」


 左腕の傷は腕のいい治療師でも跡が残る深い傷だったが、そんなものは初めからなかったと言わんばかりの腕をみる。


 やはり、あの光が傷を治したということか。


「クオン。予定変更だ。北の戦線を押し上げ、一気に落とせ」

「はっ!」


 やはり、南は聖女がいる限り落とせないだろう。


 しかし、セレスティア姫が見る世界は、いつもあのように美しいのだろうか。


 黄金に輝く聖女。聖女セレスティアと言われることだけはある。



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