第24話 第六王女の望み
「そう言えば、ティア姫が何が好きなのか聞いていなかったと思いまして」
私の好きなもの?それを聞いてどうするのです?
「コーヒーが好きなのと、甘いお菓子が好きなのと、美味しい食事のときは目を細めて食べているのと、小さな野花でももらうと嬉しそうにしているぐらいしか私は知りませんから」
……めっちゃ見られていた! 美味しいものを食べているときって目を細めているの?
自分でもわからないのですけど?
「それで好きなものは何ですか?」
私の好きなもの……改めて聞かれると困ります。
ん? ふと脳裏によぎったものがありますが、これはこの世界に存在しないもの。
だから封じます。
「美味しい食べ物は好きですよ?」
「嘘。嘘ではないですが、今思ったものではないですよね?」
……なぜにわかったのです!
あ、リヒトに嘘は通じないだろうと思った直感は馬鹿にはできなかったということですか。
「はぁ、まぁ夢の話ね。夢よ。夢。母親からよく頑張ったね。偉いねと褒めてもらうのが嬉しかったの。だから、小さいときから頑張っていたの……だけど……」
前世の私の母親の記憶はそこで止まっている。母が病死してしまったから。
父親が再婚して連れてきた女は最悪だった。
だけど、褒めてもらいたくて頑張った。無意味だったけど。
そして、この世界の母親にもそれを求めても無意味だった。あの母親は私が視界に映ることも厭うた。
ああ、私が何かしていないと気がすまないのは、誰かに褒めてもらいたかっただけなのかもしれない。
なんて浅ましいのだろう。
って、なぜに私はリヒトに抱き寄せられているのですか?
「それぐらい、いくらでも私が言ってあげます。ティア姫は頑張り過ぎだと思います。少し休んでもいいほどです」
頑張り過ぎですか? 私は大したことはしていません。
「ティア姫。王族といえど、何年も戦場の後方支援を直接するなど普通ではできません。それも目を背けるほどの傷を負った者たちの手をとって癒すなど、私はそのティア姫の姿に感銘したほどです。よく今まで頑張りましたね」
私の頭を撫でながらいうリヒトの言葉にポロリと涙がこぼれでます。
本当は結局なにも解決できないことが苦しかった。
傷を治しても戦いに行けと言っているようなものだった。
なのに、皆が私を聖女だという。
違うのに。私はそんな者ではないのに。
「そんなティア姫にご褒美を差し上げますから、好きなものを教えてください」
「ご褒美?」
「はい」
私の涙を拭いながら聞いてくるリヒト。
私の好きなものって何なのでしょう?
考えているとクオンの呆れた声が降ってきました。
「陛下、お陰で我々が辛酸を嘗めさせられましたが?」
「おだまりなさい駄犬! 姫様は称えられるべき存在です」
「黙るのは侍女のほうです」
……相変わらず仲が悪い二人のようです。
「取り敢えず、満了の契約書にサインが欲しいです」
私の好きなものがよくわかりませんので、ご褒美にサインが欲しいと言います。
するとクスクスと笑うリヒトが一枚の紙を私に差し出してきました。
はっ! これは私がリヒトに渡した契約満了の書類ではないですか!
「サインをしていますので、ティア姫のサインが欲しいですね」
代わりと言わんばかりに皇妃になる契約書が差し出されてきました。
「うぐっ。なぜに皇妃」
「皇族となりますと、色々捨て去らないといけないのですよ。しかし、妻を選ぶ権利ぐらい欲しいと思いませんか?」
ツマ? 褄? 妻!
そう言われると心臓がバクバクしてきます。
「敵国の第六王女であるティア姫に、心を奪われた愚かな皇帝の伴侶になっていただけませんか?」
そう言って、掴んでいた私の手の甲に口づけをしてくるリヒト。
か……顔が熱くなってきました!
「それから、ティア姫の手を取る特権と褒める特権は私にください」
「元々そのような特権は発生していません」
何ですか! 特権って!
「そうですね。ティア姫が私のことをどう思っているのかも聞いてみたいです」
「え?」
私がリヒトのことをどう思っているか……?
じっと私を見てくるリヒトに視線を漂わせます。
本人を目の前にして、どう思っているかなんて……好きでも嫌いでも言えないと思います。
「因みに私はティア姫のことを好きですよ」
「それはさっきも聞きました」
考えてみますが、やはりよくわかりません。が、一つだけ言えることはあります。
「嫌いではありませんが、好きかと問われるとわかりません」
これが正直な気持ちです。
「そうですよね。半年ぐらいでは難しいでしょうが、これからたくさんティア姫を甘やかしますので覚悟しておいてくださいね」
「は?」
甘やかされるのに覚悟ってなにでしょうか?
「皇妃として私の側にいてもらわないといけないこともありますが、手を取ることと褒める特権は誰にも譲りませんから」
あの、もう皇妃以外認めないという感じですか?
今回、結局逃亡しても皇帝に捕まってしまうと、わからされてしまったようなものです。
それに対外的には人質の王女です。
これは受け入れるべきなのでしょう……が! 皇帝から敬語を使われるのだけは否定したいです。
「リヒト様。私に敬語を使うのをやめていただけるのであれば、皇妃になる契約書にサインをします」
「それは嬉しいな」
不敵な笑みを浮かべるリヒトに、胸が高鳴ってしまったことは黙っています。
こうして、テターニア王国の第六王女は敵国の皇帝に捕まってしまったのでした。
「婚約届だと言っているだろう?」
ぐふっ! 耳元で言わないでください。
これはこれで、なにかクるものがあります。
やっと第1話まで戻ってきました。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
本来の題名は『第六王女の月と太陽』なのですが(読まれる題名ではないですが)題名回収には程遠いため
これにて補足を完了いたします。
お付き合いありがとうございました。
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宜しくお願い致します!
次回嘘予告
「婚約した第六王女。側妃たちのお茶会に呼ばれるの巻」




