第52話 非合理の証明
夕方。
駅前の交差点。
ブレーキ音。
衝撃。
ガラスの割れる音。
時間が飛ぶ。
病院。
白い天井。
消毒の匂い。
医者が言う。
「命に別状はありません」
「ただし、しばらく安静に」
彼は軽く笑う。
「すみません」
その手には何もない。
本来あったはずのものは、もうない。
数時間前。
雑貨店。
小さなガラスケース。
卵型のペンダント。
透明な殻の中に、小さな石。
「開くと写真が入ります」
店員の声。
彼は少し迷ってから言う。
「これください」
理由は単純だった。
誕生日だから。
ただそれだけ。
現在。
病室の外。
彼女は立っていた。
動かない。
ドアの向こうから声が聞こえる。
「なんでそんなことしたんだ」
父親の声。
「サプライズ」
彼の声。
「誕生日だから」
短い沈黙。
「……バカだな」
でも怒ってはいない声。
足音。
ドアが開く。
彼女は柱の影に隠れる。
三人は通り過ぎる。
彼は笑っていた。
少しだけ痛そうに。
静寂。
彼女はゆっくりと病室に入る。
誰もいない。
視線が動く。
ベッド。
机。
そして。
ゴミ箱。
手を入れる。
紙袋。
潰れている。
中を見る。
卵型のアクセサリー。
ひび割れ。
ログが表示される。
破損
修復可能
彼女は動かない。
数秒。
「……」
そのまま袋を閉じる。
ポケットに入れる。
何も言わない。
この行動に。
合理的な理由は存在しない。




