第4話 昼休み
昼休みのチャイムが鳴ると、
教室の空気が一気にゆるんだ。
机を寄せる音。
弁当のふたが開く音。
あちこちで笑い声が上がる。
僕もカバンからパンを取り出した。
そのとき。
「ねえ」
隣から声がする。
顔を上げると、彼女がこちらを見ていた。
「いつも、ここで食べてるの?」
「うん、だいたい」
彼女は少しだけ安心したようにうなずく。
「よかった」
「?」
「知らない人ばかりだと、少し困るから」
“緊張する”じゃない。
“困る”。
わずかに言葉が引っかかる。
「一緒に食べてもいい?」
「いいよ」
彼女は弁当箱を取り出す。
黒くて、無駄のない形。
ふたを開けると、
中はきれいに均等に仕切られていた。
「すごいな、それ」
「そう?」
「なんか、無駄がない」
彼女は少しだけ考える。
「そういうものだから」
少しだけ違和感が残る。
僕はパンをかじる。
そのとき。
彼女の視線が止まる。
手元。
パン。
動かない。
長い。
「……なに?」
思わず聞く。
彼女は一拍おいてから言う。
「それ、どんな味?」
「え?」
「甘い?」
「まあ……甘いけど」
彼女は小さくうなずく。
そして、
ほんの少しだけ身を乗り出す。
「匂いも、甘いね」
確認するような言い方だった。
「……」
ただの興味じゃない。
観察に近い。
彼女はすぐに笑う。
「今度、食べてみようかな」
自然な声。
だからこそ、
さっきの違和感だけが残る。
そのとき。
彼女の箸が、ほんの一瞬だけ止まる。
視線が動く。
教室のドアの方へ。
誰も入ってきていない。
音もない。
それでも、
彼女は“何かを確認するように”見ていた。
すぐに、元に戻る。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
笑う。
いつも通りに。
でも、
違和感は、ひとつ増えていた。




