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同じ記憶を持つ彼女が二人いる世界で、僕は本物を選べない  作者: Laica
第3章 君をもう一度、作る

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第27話 用意された場所

挿絵(By みてみん)

研究所の前に立つ。


大きすぎる建物。


ガラスの奥が見えない。


「……ここか」


近づくだけで、

空気が少し変わる。


自動ドアが開く。


何もしていないのに。


中に入る。


受付はない。


声もない。


でも、


見られている感覚だけがある。


一歩、進む。


「ようこそ」


後ろから声。


振り返る。


白衣の女性。


距離が近い。


いつからいたのかわからない。


「迷わなかったね」


笑っている。


でも、


歓迎ではない。


確認に近い。


「……ここ、なんですか」


聞く。


女性は少しだけ首をかしげる。


「君が来る場所」


答えになっていない。


でも、


否定もできない。


「持ってるんでしょ」


視線が落ちる。


ポケット。


言い当てられている。


「出して」


命令じゃない。


でも、


逆らえない。


チップを取り出す。


差し出す。


女性は受け取らない。


「自分で入れて」


奥を指す。


ガラスで区切られた小さな実験室。


中央に一台だけ、

黒い端末が置かれている。


椅子も一つ。


他には何もない。


側面に、細いスロットが見えた。


僕は中に入る。


ドアが自動で閉まる。


逃げ場がなくなる。


端末の前に立つ。


チップを持ったまま、

少しだけ止まる。


それから、


側面のスロットに差し込んだ。


――最初から用意されている。


僕は歩く。


逃げるという選択肢は、

最初から存在していなかった。


チップを差し込む。


一瞬の沈黙。


画面が点く。


読み込み。


データ量のバーが進む。


異常に重い。


「……これ」


思わず漏れる。


人ひとり分じゃない。


もっと多い。


もっと深い。


「気づいた?」


後ろから声。


「それ、“記録”じゃないよ」


嫌な予感がする。


画面が切り替わる。


三次元モデルが立ち上がる。


輪郭。


骨格。


筋肉。


皮膚。


そして――表情。


そこにいたのは、


確かに“彼女”だった。


でも。


違う。


「……なんだよ、これ」


思わず口に出る。


完全すぎる。


整いすぎている。


誤差がない。


人間にあるはずの“揺れ”がない。


「再現って、そういうこと」


女性が言う。


「君が欲しかったのは、これでしょ?」


違う、と言いかけて止まる。


否定できない。


でも、


肯定もできない。


画面の中の彼女が、


ゆっくりとこちらを見る。


まだ動いていない。


ただ、


視線だけが合う。


ありえない。


入力したばかりだ。


なのに。


「……今、見たか?」


振り返る。


女性は笑っていた。


「さあね」


その答えで、確信する。


ここはただの研究所じゃない。


“用意されていた場所”だ。


僕のためじゃない。


――彼女のために。


本日分、ここまで読んでいただきありがとうございます。

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