第21話 設計された一日
放課後。
「今日は、少しだけ寄り道しない?」
彼女がそう言った瞬間、僕の一日は“予定されたもの”から外れた気がした。
「いいよ」
そう答えながらも、なぜか胸の奥に小さな引っかかりが残る。
――でも、その理由は分からない。
映画館に入る。
暗闇の中、スクリーンの光が彼女の横顔を照らす。
彼女は、いつもより静かだった。
笑うタイミングも、泣きそうになるタイミングも、
どこか“正確すぎる”。
「どうしたの?」
小さく聞くと、彼女は少し間を置いてから笑った。
「ちゃんと見てるだけだよ」
その“間”が、ほんのわずかに気になった。
映画の途中。
悲しいシーンで、彼女の手が僕の腕に触れる。
温かい。
でも。
――触れるタイミングが、完璧すぎる。
まるで「そうするべき場面」を知っているみたいに。
映画が終わる。
外の光が、やけに眩しい。
「次、どこ行く?」
僕が聞くと、彼女はすぐに答えた。
「雑貨屋さん」
迷いがなかった。
店内。
彼女は迷うふりをしている。
でも、本当はもう決めているように見えた。
「これ、どうかな?」
差し出されたのは、シンプルなマグカップ。
「似合うよ」
僕がそう言うと、彼女は少しだけ目を細める。
「そっか」
その表情は嬉しそうなのに、
どこか“確認が終わった”ような顔だった。
会計を終えたあと。
彼女がもう一つ、別のものを手に取る。
小さなクマのぬいぐるみ。
「これ、取ってくるね」
そう言って、ゲーム機の方へ向かう。
数分後。
彼女はそのぬいぐるみを抱えて戻ってきた。
「はい」
差し出される。
「君にあげる」
「え、いいの?」
「うん」
即答だった。
――迷いがない。
まるで“最初から渡すことが決まっていた”みたいに。
夕方。
喫茶店。
彼女はコーヒーカップを両手で包み込む。
「……こういうの、いいね」
静かな声。
僕は頷く。
でも、気づいてしまった。
彼女はカップを持ったまま、
一度も中身を見ていない。
帰り道。
空が少し暗くなる。
風が冷たい。
彼女がふと立ち止まる。
「どうした?」
僕が聞くと、彼女は首を振る。
「ううん」
そして、ほんの一瞬だけ。
空ではなく、“どこか遠く”を見る。
「……ちゃんと、覚えててね」
小さく呟く。
「え?」
聞き返したときには、もう笑っていた。
「なんでもない」
その笑顔が、
この日一番、綺麗だった。
本日分、ここまで読んでいただきありがとうございます。




