第2話 隣の席の彼女
放課後のチャイムが鳴ると、
教室の空気がゆるむ。
僕はカバンを持って立ち上がった。
「ねえ」
振り向くと、彼女がいた。
「駅って、こっちで合ってる?」
「ああ、僕もそっち」
彼女の表情が少し明るくなる。
「じゃあ、一緒に行ってもいい?」
「いいよ」
校門を出て、通学路を歩く。
夕方の空気は少し冷たい。
しばらく並んで歩く。
静かな時間だった。
「学校、どう?」
僕が聞く。
「思ってたより、にぎやか」
彼女は空を見ながら言う。
「でも、いいね」
少し間を置いて、
「こういうの」
通学路を見渡す。
人の流れ。
自転車の音。
遠くの信号。
「初めてだから」
その言葉に、引っかかる。
「初めて?」
「うん」
彼女はうなずく。
まるで――
この帰り道そのものを、
初めて見ているみたいに。
それ以上は聞かなかった。
前を歩いていた学生が、
スマートフォンを落としかけた。
手から滑る。
「あっ」
小さな声。
――その瞬間。
まだ落ちきる前に。
それを受け止めていたのは、彼女だった。
「……」
距離があったはずだった。
一歩も動いていないように見えたのに。
気づいたときには、もう手の中にある。
「はい」
何事もなかったように差し出す。
「あ、ありがとう……」
学生は戸惑いながら受け取った。
彼女は軽くうなずく。
そのまま、元の位置に戻る。
まるで、
何も起きていないみたいに。
「今の……」
僕は言いかけて、やめる。
言葉にできない。
彼女はいつも通りの声で言う。
「この道、まっすぐ?」
「ああ、うん」
変わらない帰り道。
同じ会話。
同じ距離。
でも――
さっきの一瞬だけが、
妙に現実から浮いていた。
その少し後ろを、
黒い車が静かに走っていた。
一定の距離を保ったまま。
信号で止まる。
僕たちも、止まる。
車も、止まる。
青に変わる。
歩き出す。
車も、同じタイミングで動く。
まるで、
最初から決められていたみたいに。
本日分、ここまで読んでいただきありがとうございます。




