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同じ記憶を持つ彼女が二人いる世界で、僕は本物を選べない  作者: Laica
第1章 彼女が来た春

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第1話 転校生が来た日

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

彼女は二人いる。


しかも、記憶まで完全に同じだ。


片方は、僕が作った。


――そしてもう片方は、死んだはずの本物だ。



すべては、あの日から始まった。



転校生が来た日。


教室のドアが開いて、彼女は入ってきた。


長い黒髪。落ち着いた目。


どこにでもいそうで、でも少しだけ違う。


「今日からこのクラスに来る」


先生の声。


彼女は軽く頭を下げた。


「よろしくお願いします」


それだけの、普通の挨拶。


なのに――


その瞬間、なぜか思った。


ああ、この人は。


どこか壊れている。



授業中。


彼女は一度も迷わなかった。


指された問題に、即答する。


しかも全部、正確に。


考えている様子がない。


ただ、“最短距離で正解に触れている”みたいだった。



休み時間。


クラスメイトに囲まれても、


彼女は自然に笑って、自然に返す。


でもよく見ると、


全部がほんの少しだけ早い。


相手が何を言うか、


もう知っているみたいに。



放課後。


教室には僕と彼女だけが残っていた。


「まだいたんだ」


彼女が言う。


「うん」


短いやりとり。


沈黙。


彼女の視線が、机の上に落ちた。



僕は、鞄から箱を取り出していた。


丸い、小さな箱。


中には――


卵の形をした、銀色の装置。



彼女がそれを見る。


ほんの一瞬だけ、


目の奥が揺れた。



「それ」


「なんでもない」


反射的に隠す。


彼女は、それ以上は聞かなかった。


ただ、小さく笑った。


「そっか」



帰り際。


ドアの前で、彼女が振り返る。


少しだけ間を置いて、


「ありがとう」


と言った。



まだ何もしていないのに。



その理由を、


僕はすぐに知ることになる。



帰り道。


鞄を落とした。


中身が散らばる。


箱も転がる。


拾い上げると、


装置にひびが入っていた。



「……あーあ」



少し迷って、


僕はそれをゴミ箱に捨てた。



そのときは、


まだ知らなかった。



それが――


彼女を“再現する装置”だったことも。


そして、


その直後に彼女が死ぬことも。



風が吹く。


ゴミ箱のふたが揺れる。


中の箱が、わずかに転がる。



ひびの奥から、


かすかに光が漏れた。



まるで、


誰かを認識したみたいに。



その光が、


二人分に分かれる未来を、


僕はまだ知らない。


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