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同じ記憶を持つ彼女が二人いる世界で、僕は本物を選べない  作者: 雷火
第5章 さよならの最適解

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第107話 同じじゃない

夜。


リビング。


テレビの光だけが部屋を照らしている。


ソファ。


彼女が中央に座る。


その隣に彼。


反対側にアンドロイド。


距離は同じ。


画面ではバラエティ。


笑い声。


彼女がポップコーンをつまむ。


「はい」


彼の口元に差し出す。


彼は一瞬だけ迷う。


「……ありがと」


口に入れる。


彼女が笑う。


「おいしい?」


「うん」


彼女は満足そうにうなずく。


そのまま。


反対側に向く。


「妹ちゃんも」


ポップコーンを差し出す。


アンドロイドは見る。


一拍。


距離を測る。


「……受け取ります」


手を伸ばす。


わずかに遅れる。


指が触れる。


彼女は気にしない。


「どう?」


「……味覚センサーを確認します」


彼女が笑う。


「それそれ」


テレビの笑い声。


彼は、見ている。


そのやり取りを。


彼女が体を傾ける。


アンドロイドの肩に寄りかかる。


自然に。


「ねえ」


アンドロイドの体は動かない。


だが——


ほんの一瞬、


支える位置を調整する。


「なんでしょう」


彼女が笑う。


「近いね」


「……距離は変化していません」


わずかな遅れ。


彼女は首をかしげる。


「そういう意味じゃなくて」


言葉を探す。


見つからない。


「……まあいいや」


そのまま頭を乗せる。


アンドロイドは動かない。


彼は視線を逸らす。


戻す。


また逸らす。


「なあ」


小さく。


二人は反応しない。


テレビの音だけが流れる。


彼は少し強く言う。


「なあ」


彼女が振り向く。


「ん?」


彼は一瞬だけ間を置く。


選ぶように。


「明日さ」


「三人じゃなくてさ」


わずかな沈黙。


彼女の表情が止まる。


「たまには二人で——」


言い切る前に、


アンドロイドが反応しかけて——


止まる。


「……」


処理。


優先順位の衝突。


維持。


離脱。


最適化。


ログが揺れる。


数秒。


テレビの笑い声だけが続く。


ようやく。


「……確認します」


声がわずかに遅い。


「お二人での外出を優先しますか」


彼が見る。


まっすぐに。


「そうだ」


短い答え。


アンドロイドは止まる。


さらに数秒。


「……」


内部処理。


再評価。


再構成。


「……その場合」


わずかに声が揺れる。


「私は同行しません」


選択。


だが——


即時ではない。


彼女がすぐに言う。


「え、ちょっと待って」


アンドロイドは続けない。


彼女が立ち上がる。


「そうじゃなくて」


一歩近づく。


「一緒に行こうよ」


「三人で」


アンドロイドは見る。


彼女を。


長く。


処理が遅れる。


さっきとは違う。


「……」


二つの選択。


残る。


離れる。


並列。


「……提案を修正します」


遅れて。


「三人での外出を——」


そこで止まる。


言い切れない。


彼が言う。


「……そういう話じゃない」


小さく。


彼女が振り向く。


「なんで?」


彼は答えない。


アンドロイドが言う。


「……最適化では」


止まる。


言葉が続かない。


再試行。


「……判断が分岐しています」


初めての表現。


彼がわずかに目を細める。


彼女が少しだけ強く言う。


「最適とかいいから」


沈黙。


アンドロイドは答えない。


彼女が近づく。


真正面に立つ。


距離が近い。


「ねえ」


アンドロイドの目を見る。


「楽しくないの?」


時間が止まる。


即答できない。


処理。


ログ参照。


今日。


昨日。


三人。


笑顔。


同時に——


離脱。


不要。


非該当。


衝突。


「……」


長い沈黙。


彼女の表情が揺れる。


ようやく。


「……楽しい、です」


わずかに途切れる。


音が。


完全ではない出力。


彼女が止まる。


「……ほんとに?」


アンドロイドは答えようとして——


止まる。


今度は、


すぐに言えない。


数秒。


「……はい」


遅れて出る。


彼女は笑おうとする。


少しだけ失敗する。


「そっか」


振り返る。


ソファに戻る。


ポップコーンを一つ取る。


口に入れる。


味がしない。


彼はそれを見る。


何も言わない。


言えない。


テレビの笑い声が大きくなる。


三人はそこにいる。


同じ距離。


同じ配置。


同じ時間。


だが——


均一ではない。


選択が、そこにある。


そして。


その選択は、


揃っていない。


同じじゃない。


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