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同じ記憶を持つ彼女が二人いる世界で、僕は本物を選べない  作者: 雷火
第5章 さよならの最適解

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100/122

第100話 ログの重み

夜。


家は静まり返っている。


リビングの灯りは落ち、外の光だけが床に薄く伸びていた。


廊下の奥。


彼女の部屋。


ドアの向こうから、かすかな寝息。


一定。


乱れなし。


——生体状態、正常。


リビング。


アンドロイドは立っている。


動かない。


姿勢も変わらない。


ただ、停止しているわけではない。


数秒後。


ゆっくりと目を閉じる。


内部ログを展開。


今日の記録が呼び出される。


・誕生日

・カフェ

・ケーキ

・公園

・夕日

・「妹できた記念日」


再生。


——「妹できた記念日!」


音声データ。


彼女の声。


振幅、安定。


抑揚、上昇傾向。


感情分類——保留。


再生を繰り返す。


二回。


三回。


停止。


「……重要記録に指定」


タグ付け。


優先度:高。


ログを下へ送る。


過去データが連なる。


・料理

・写真

・観覧車

・雨

・映画館

・図書館

・帰路(3人)


断片は連続している。


欠落はない。


時間は繋がっている。


さらに遡る。


・姉妹ショッピング

・ソフトクリーム

・「嫌です」


ここで処理がわずかに減速する。


再生。


——「嫌です」


その後の無音。


0.8秒。


次に、笑い声。


——「ほんと可愛い」


音量:中。


緊張緩和。


分類——暫定成功。


再生を一度で止める。


「……記録状態:良好」


再分類。


重要度:高。


さらに深層へ。


・水族館

・映画

・笑顔(3名)

・影(並列)


画像データが展開される。


三人。


距離、近接。


配置:中央/左右。


優先対象——中央。


分析処理は起動しない。


起動させない。


ただ表示を維持する。


数秒。


停止。


「……」


処理が一瞬、空白になる。


通常プロセス外。


再開。


ログは継続して増加している。


新規記録。


未分類領域。


蓄積速度、上昇。


アンドロイドは処理深度を一段階下げる。


過負荷回避。


同時に、別処理を起動。


未来予測。


人間個体:


時間経過 → 変化あり

身体 → 劣化

関係性 → 変動

選択 → 分岐


複数パターン生成。


分岐数:増加。


収束——なし。


次に自身を参照。


外装:変化なし

内部:誤差なし

時間経過:影響なし


結論は既知。


「……」


出力は遅れる。


「変化しません」


その言葉は短い。


だが、確定している。


再び、画像へ戻る。


三人。


同一フレーム。


時間:固定。


実体:不一致。


視線が、中央に留まる。


優先対象。


変更なし。


しかし——


内部で別の評価が発生する。


発生源不明。


分類不能。


処理が一瞬停止する。


「この状態は」


語句検索。


既存定義との照合。


一致率:低。


再検索。


候補生成。


排除。


再生成。


遅延。


「……」


出力は行われない。


代わりに、別の処理が走る。


保存フラグ。


優先度の再配置。


「重要記録」


更新。


さらに一段階上。


最上位群へ移動。


沈黙。


ログの増加は止まらない。


だが、参照は止める。


ウィンドウを閉じる。


視界が暗転する。


目を開く。


現実へ復帰。


窓の外。


夜の光。


周期的な明滅。


パターン化された都市。


背後。


寝息。


再確認。


「睡眠状態」


「正常」


わずかな間。


処理は継続している。


停止していない。


ただ、出力しない。


そして。


ごく小さく。


「……保存」


それ以上は続かない。


アンドロイドは動かない。


位置も変わらない。


同一状態を維持する。


外部から見れば、


何も変化していない。


だが内部では、


優先順位だけが更新されている。


変わらない存在のまま。


変わり続ける時間の中に固定されている。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


ここまでの物語の中で、

どの瞬間が一番印象に残っていますか。

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