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ホームズの華  作者: よん
7/14

ホームズの華⑦


自己紹介も終わり、クラスメイトの人となりがなんとなく分かった所で、千大はこの中で誰と仲良くなるべきかと、頭を働かせていた。


高校デビュー失敗だけは確実に避けなければならないし、それを成し遂げるには、友人の選定が急務だった。


学生生活の成功は、友人選びに掛かっているといっても過言ではないからだ。


盲目のハンデを持っている以上、選べる立場にない事は分かっているものの、盲目というハンデがあるからこそ、千大は選び抜かなければならない。


ホームズがどれ程万能であっても、犬の助けだけで学園生活を無理なく過ごす事は不可能であり、人の助けが必要な事は、猫が小さな箱で丸くなる位には確実で明らかだった。


「ホームズ。コナン・ドイルが書いた小説に出てくる有名な探偵で、ワトソンはその助手。俺は本なんて全然読まないから知らないけと、そこそこウケけてたし、有名なんだな」


「探偵と言えばホームズよりコナンだけど、コナンを知ってれば、ホームズも知ってるもんなんじゃない」


前の席に座っている男子生徒がスマホ片手に、くるりと後ろを向いて話しをし、隣の席の女子生徒が答えた。


ホームズがホームズという名前だから仕方ないにせよ、やはり作品が少し古かったかと千大は反省した。


ただ、140年前という時間を経て、すべての世代に認知された世界一有名な探偵なのだから、知らない方が不勉強だとも思う。


少し考えた結末、反省はしないで良さそうだった。


「ふーん。で、お前は探偵とか興味あんの?」

「…」

「て、無視すんじゃねーよ」

「えっ、あぁ、僕に言ったのか」


「お前を見て言ってんだから当たり前だろって、そっか見えてないのか。悪い」

「こっちに言ってるんだろうなって事は気配でわかってたから問題ないよ」


目が見えずとも、視線が向けられているかどうかは気配で分かるし、息遣いや空気の流れからも絞る事は出来る。


千大が無視したのは、目の前の男子生徒を相手にしたくない人種だと判断したからだった。


「分かってたんだったら、無視すんじゃねーよ。俺の謝罪を返しやがれ」

「ごめん」


言われて千大は素直に謝罪した。

口調から粗野で粗暴で馬鹿なのてはないかと考え、関わらないを選択したのだが、男子生徒は少なくとも悪いヤツでは無さそうだった。


「素直に謝んなよ。調子狂うな」


寧ろいいヤツの部類なのかもしれない。


「ちなみに、探偵には興味はないよ」

「君は助手だもんね。ワトソン君」


千大に答えたのは、隣の席に座る女子生徒だった。




失礼な話を承知で言うなら、千大は人の名前を覚えるのがあまり得意ではなかった。一度の自己紹介で、クラス全員の名前を覚えられる方が異常だと思わなくもないのだが、現状千大はクラスメイトの名前を5人しか覚えていなかった。


この5人の中には、前に座る男子生徒と隣に座る女子生徒は入っていない。


今後の事を考えたなら、隣や前後に座る生徒の名前くらい覚えておいて然るべきなのだが、前述した通り、千大は人の名前を覚えるのが得意ではなかった。


頑張って覚える必要がないといった方がより正確だろうか。


千大は机の中に手を入れ、指を滑らせていく。

机の中には点字の刻まれたシートが1枚入っていた。


あんどうやすとら。うえはらるい。


机の中に入っていたカンニングシートによって、千大は前の席に座る男子生徒、安藤泰虎の名前と右隣に座る女生徒、上原るいの名前を知った。


「でも、目が見えねーんなら、この学校に来ても大半の部活に入れねーし、探偵位しかやる事なくないか?」


「あんた、配慮や気配りって言葉をママの子宮に置いてきたの?」

「なっ、子宮とか恥ずかしい言葉使うなよ…」


「いやいや、そこは照れるんかい」

「べ、別に照れてねーし」


「二人は仲いいね。同じ中学だったの?」

「こんなヤツ知らねーよ」

「私も今日初めて会った」


「はあ?」

「あん?」


どうやら、同じ中学出身らしい。

腐れ縁というヤツなのかもしれない。


「でも、馬鹿虎じゃないけど部活選びは大変かもね。目が見えない事をいい事に変な部が一杯勧誘してきそうだし。知ってる?ここじゃ毎年、50を超える部活が廃部の危機に晒されるんだよ。だから活動への勧誘は地獄。強い意志を持ってないと、宇宙と交信するだけで、貴重な青春を浪費する事になる」

「宇宙のロマンを馬鹿にすんじゃねーよ」


「馬鹿でしょ。宇宙なんて適当なテクスチャを貼り付けてるだけじゃない。せっかく仮想を生きてるんだから、あんな雑な空より作り込まれた地上を見ないと」

「出たよVR仮説。きっしょ」


「…」

二人が入ろうとしている部活にだけは、決して入らないでおこう。そう心に決めながら千大は額に手を当てた。


宇宙にはロマンがある事は認めるし、世界がVRであるという説がある事も理解している。そして、こんな事で喧嘩するのがイカれている事も千大は知っていた


てか先生、注意しようよ。

何を淡々と独り言のように話しているの?


クラスガチャはまだ分からないものの、担任ガチャはハズレのようだった。





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