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ホームズの華  作者: よん
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ホームズの華⑥

自己紹介には、幾つかの意味が存在している。まずは、相手に自分を知って貰う事にある。電車やバスに乗っている見ず知らずの誰かに話し掛ける人がいないのと同じように、人は知らない者を恐れ近付かない。


相手に自分を知って貰うというのは、大切な事だった。


そして、知って貰った上で相手に自分をどう見て貰いたいか、或いはどう扱って貰いたいかのアピールの場でもある。


悪い言葉で言えば印象操作なのだが、目の見えない千大はここが最も重要なポイントだと理解していた。


名前を呼ばれた千大は、誰の目からも見えるようホームズを抱き抱え、その場に立ち上がる。


視線が集まるのを感じる。

「頑張れー」という日向の声が聞こえた。


「えっと、こんにちは。僕の名前は一条千大。見ての通り、全然何も見えない。お先真っ暗な視力0男です、胸に今抱いているモフモフの相棒はホームズ。名探偵顔負けに、僕をあらゆる所に導いてくれます。僕の目が見えない事をいい事に、好き勝手動く事が玉にキズです。でも、つぶらな瞳で見つめられるとついつい許しちゃいます。その瞳を僕は見えてないんですけどね」


「つかみは大切。つかみさえ成功出来れば世の中イージーモード。頑張れよ少年」という、那由の言葉に背中を押され、一生懸命考え練習した自己紹介文を千大は口にする。


狙い通りの場所で少しとはいえ、笑いが起きた事に千大は心の中でガッツポーズをして、更に続けた。


「見えない事は不便も多いけど、見えないからこそ想像できる面白さもあります。僕の世界では女性は美女しかいませんし、嫌な事をしてくる男は、みんな醜男です。そんな感じで目が見えなくても楽しく生きているので、気を使わずに話し掛けて下さい。僕はホームズのおまけのワトソン君みたいなものですけどね」


ホームズを顔の高さまで掲げ、千大はホームズと一緒にぺろりと舌を出した。


自分のキャラではないと千大は思う。

それでも、この印象操作によって学園生活が生きやすくなるのであれば、これは我慢すべき事で、やらなければならない努力だった。


パチパチパチ…。


千大の努力を称賛するように、好意的な笑い声と暖かい拍手が起こる。考えに考え抜いた自己紹介は、いい感じに成功しクラスの心を掴んだようだった。


「自己紹介うまいね。お家で考えてきたの?」

「うん」


「努力家じゃん」

「僕は一人じゃ生きていけないから、取っつきにくいと助けられなくて野垂れ死んじゃう」


「打算家じゃん。チワワが盲導犬なのもそんな理由?」

「ホームズは、姉の趣味」


隣の女子に話し掛けられ、僕は滞りなく話していく。入学式では色々と失敗したものの、同じミスを繰り返さないのが千大のモットーだった。



「やっほー。どうもどうも。朝日中からやってきました九十九一です。九十九に一を足して、自称百点満点の女です。明るくて可愛くて愛嬌もあるので、女子には嫌われガチだけど、男子に好かれたいとは思ってないので、男子は気安く声は掛けないでね。でも、犬は大好きなので、ホームズは気安く話し掛けてきて欲しいワン。後はそうだな、なんか事件を解決する探偵のアシスタントみたいな事がしたいから、事件の提供よろしく。でも殺人はやめてね。同じ名前の某一ちゃんみたいな高校生活には、憧れてないので。これはじっちゃんの名に掛けて言えます。九十九一でした」


一が自己紹介を終える。

少しの笑いと拍手が起きる。


クラス全体を敵に回しているような、味方に付けるような不思議な自己紹介だった。


ただ、少しだけ不穏な点がある。

探偵のアシスタントということは、まさかホームズを探偵役に抜擢してないよな?


嫌な予感がした千大は、クラスで事件が起こらない事だけを祈った。


「ハロー。皆の太陽こと、森下日向でーす。映えた高校生活送りたいんで、みんな、仲良くしてくれよな☆以上」


自己紹介が進んでいき、盲導犬についても調べてくれた明るいギャル、日向が自己紹介を終える。誰よりも短く手早い自己紹介だったにも関わらず、日向には大きな拍手と、なぜか黄色い声援が飛んでいた。


これは陽の者だ。


目が見えない千大にも、日向が天然で放つ陽キャオーラを肌で感じ取る事が出来た。


「六車八百です。普通の学園生活には興味ありません。僕が求めるのは輝かしい宝のような学園生活であり、輝かしい学園生活にこそ意味がある。石と石とを擦り合わせて火花が散るように、切磋琢磨して輝かしい宝のような時間を紡いでいこう。…あれ?声が聞こえないな。輝いていこう!」


「…」


おぉーとは誰も答えない。

寧ろ「うわ〜」という、悲鳴にも似た声が、色々な所から聞こえてきた。


何も見えていないにも関わらず、掴みに失敗した者の末路というものが、空気からひしひしと伝わってきた。


八百はクラスから、完全に浮ききったようだった。


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