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間章 暗闇に鬼を繋ぐ

 大隈は雑草が生い茂る庭を抜け、夜闇にまぎれ、今にも崩れそうな木造の門をくぐった。

 ひゅうひゅうと物悲しげな音を立て、木枯らしが吹き上がる。

 冷たく湿った夜風が、鬱蒼と生い茂った木々の枝葉を一斉に揺らした。

 小さなため息とともに、大隈は振り返る。

 そこには「芹澤」と表札のかかった、周囲の家よりひときわ大きく豪勢な造りの家がそびえていた。

 かつてはここ六道坂村の有力者が暮らしていたとおぼしき邸宅。

 ならばこの村に記録が残っているのではないかと目星をつけ、大隈は家捜しをしたが、目当てのものは何一つ見つからなかった。

 家具や衣類、食品といった生活の跡はある程度残っている。

 だがこの家に住んでいた人間の日記や家系図、村の史料といった「記録物」の類いが見つからない。

 この家を手放す時に住人が持ち出したか、あるいは処分されたか。

 いずれにせよ、ずいぶん予定が狂ってしまった――大隈は舌打ちをこらえ、灯り一つない、荒れ果てた夜の山村を一人進む。

 厄神を召喚し、たおす。

 そのために真生と伊玖が立てた一連の作戦は、思いもよらない伏兵によって失敗に終わった。

 奇妙な猿の面をつけた土地神。

 その土地神が連れてきた「シュテン」と呼ばれる謎の男と、真生の同級生だという少女。

 聞けば彼らは少女の友人を助けるのため、この廃村に駆けつけたらしい。

 結果的に彼らが介入してくれて良かったかのもしれないと、大隈は鉛色の雲に月を隠された夜空を見上げる。

 呪術師の端くれとはいえ、真生はまだ幼い。

 十六歳の少年に「神殺し」は荷が重すぎるのではないかと、口にこそ出さないが大隈は危惧していた。

 だからあの土地神が、子どもを誘拐した自分を霊道まで追ってきた時、心のどこかで安堵していたのかもしれない。

 やっと厄介な案件から解放されるかと思えば、そうは問屋がおろさなかった。

 真生の看病の合間に骨休めしようと思っていた大隈に、伊玖は無情な指令をふたつ下した。

 任務半ばで撤退したため、自分たちがいた痕跡を消せ。

 そして六道坂村の跡地から厄神の情報を探れ、と。

 頂上の社は厄神の瘴気が湧き、人間が立ち入ることが出来ない場所となった。

 現にそれをまともにくらった真生はけがれに体を蝕まれ、未だ意識が戻らない。

 いくら呪術師でも、人間では到底あの瘴気に絶えられない。

 そのため人間では無い大隈に、白羽の矢が立った。

 現場から引き上げてすぐ、大隈は警察やマスコミなど各方面への根回しに追われた。

 そんな自分に情報収集と証拠隠滅をさらりと命じた伊玖を思い出し、大隈は苦笑する。

 喰えない女だと、常々思う。

 けれども、そんな彼女の抜け目のなさが大隈は嫌いではない。むしろ好ましく感じる。

 呪術師とは常に、死や裏切りと背中合わせの生業なりわいだ。

 伊玖は自身の才覚と覚悟を頼りに、生き馬の目を抜くような業界を、巧妙に渡り歩いてきた。

 だが彼女の娘……真生の母親にあたる女は、伊玖の器量を半分も受け継がなかった。

 伊玖に似た面影を持つ、だがどこまでも伊玖とは対極的な性格を持つ娘を思い出すたび、大隈の口の中に苦いものが広がる。

 二十年前、伊玖は我が子を破門した。

 娘に蠱師まじないしの適性がなかったわけではない。

 偉大な蠱師を母親に持ち、幼い頃から呪術の英才教育を施された娘は、幼くして才能を開花させていた。

 だが母親から受け継いだ呪いの力を、他者ではなく己のためだけに使う娘だった。

 自らを律することができず、呪いの力に溺れてしまう呪術師は少なくない。

 人智を超えた力は、力をふるう者の感覚や良心を麻痺させてゆく。

 娘はなまじ適性があるがゆえに、利己的で傲慢な性格が災いし、成長するにつれて手がつけられなくなった。

 自分の感情のまま呪いを振りまき、欲しいものが手に入らないと駄々をこね、気に入らない人間をまるで息を吸って吐くように呪う。

 自分より弱い者を傷つけ、殺すことさえ躊躇ためらわない。

 伊玖は呪術師としても、母親としても、そんな娘を許さなかった。

 力を持つ者には、相応の節制と責任を負うべきである――それは「九ノ枝」という呪術師の集団を束ねてきた伊玖が、決して曲げない信念だった。

 呪術師が集う組織の頭として、人の道を外れた呪術師を許しては周囲に示しがつかないと、娘を自ら破門した。

 娘も厳格な母親を疎み、度重なる衝突の果てに、母娘は決裂した。

 後継者の役割を放棄し、家を捨て、娘は親元から遠く離れた地で二人の子どもを産む。

 そのうちの一人が、真生だ。

 だがもう一人の、真生より二つ年上の少女は――――

「……チッ」

 大隈は苦々しい記憶を、舌打ちとともに頭の片隅へと追い払う。

 周囲に人がいないのを確かめ、ジャケットを脱ぎ、放り投げる。

 地面に落ちる直前、黒いテーラードジャケットは数枚の茶色い木の葉へと姿を変えた。

 大隈がぶるりと体を震わせる。

 その一瞬で彼の輪郭は空気へ溶けるように歪み、人間からとある獣へと変化した。

 雲間から顔を出した三日月が、その姿を仄かに夜闇から浮かび上がらせる。

 競走馬ほどの体格を持つ、灰色と焦げ茶のまだら模様の毛並みをまとった巨大な獣。

 闇の中で青白く光る細い目を、隈のように覆う黒毛、細く尖った鼻先から除く牙。

 四本の脚の先には、鋭い鉤爪がせり出している。

 人々はかつてこの獣を大狢おおむじな、あるいは畏畾わいらと呼んだ。

 獣の姿と化した大隈は、四本の脚と巨大な鉤爪かぎづめで軽々と、目の前にそびえる岩場を登る。

 岩場を過ぎると木を駆け上がり、枝から枝へと飛び移った。

 針金のようにかたく、まだら模様の毛並みが夜露で湿ってゆく。

 十分も経たないうちに、彼の行く手には半壊した鳥居と、八幡造りの古びた社が見えた。

 鳥居の前で着地すると、大隈は塵や水滴を振り払うように大きく身震いする。

 すると獣の体にまとわりつくように木の葉が舞い上がり、大隈は再び黒いスーツをまとった中年男性の姿に転じた。

「!」

 鳥居の近くに人影が見え、彼はとっさに茂みの中へ身を隠す。

 だが先客を注意深く窺ったのも束の間、それが彼の見知った者だったため、彼は茂みを出た。

「こんな夜更けに、一体何をしていらっしゃるんで?」

 背後から声をかけると、人影は真白い髪を揺らして振り返る。

「おや。君は確か、大狢の」

 漂白したような長髪に猿の面。山吹色の着物に、ぞろりとした橙色の羽織。

 昼間会ったばかりの、蘇芳という土地神だった。

「大隈こそ、どうしてここに?」 

 蘇芳は鉾を片手に大隈へ歩み寄る。

「まあ色々と、用がありましてねェ」

「そうか、君も大変だね」

 労をねぎらわれるとは思わず、大隈は少し面食らった。

「でも、ここは危険だよ。おそらく厄神様のことを探りに来たのだろうけど、すぐに山を下りた方がいい」

 危険など百も承知で来ているのだが――どう反論したものかとこめかみを掻く。

「そんなこたァ百も承知ですよ。旦那こそなんで危険を侵して、ここにいるんですかい」

「君たちの話を聞いて、少し気になることがあったからね。厄神様や、その障りのことを調べようと思ったんだ。私がまだ人間だった頃……土地神になる前から、ここで飢饉や災害があったという話を聞いたことがなかった。不思議だろう? 赤土の山の中にある村なのに。大飢饉に見舞われた時も、六道坂からの流民は見たことが無かったね。代わりに奇妙な噂を聞いたんだ」

「奇妙な噂?」

「ここは飢え知らずの村……決して飢饉のない土地だと」

 大隈は怪訝そうに眉をひそめた。

 決して飢えない場所など、この世にあるのだろうか。

 今でこそ飽食の時代と言われて久しいが、ほんの数百年前までは至る所で飢饉が起き、人間はたびたび飢えと渇きに苦しめられてきた。

「六道坂村だけじゃない。この山の周囲にある七つの集落に行けば、食べ物にありつけると。六道坂村やその周辺はもともと余所者を受け入れないことで有名だったし、そま活計たづきを立て、富み栄えた集落だった。でも彼らがどれだけ木を切っても、あの山が禿げたり崩れたという話は聞いたことがなかった」

 言われてみれば奇妙ではあると、大隈は途中のぬかるんだ山道を思い出す。

 鉄錆のように生臭い赤褐色の土。

 赤土とは養分に乏しい痩せた土で、不毛の地でよく見られる土壌だ。

 不毛の山にあって何故、六道坂村は栄えたのか。

 一人の娘を対価に、村に豊穣をもたらす――そんな霊験れいげんあらたかな神と、彼らは一体どのように契約を結んだのか。

「この村で過去に、何があったか。それを知れたら、厄神様のことや供犠を紐解く手がかりになるかもしれない」

 調べてどうするのかと聞こうとして、大隈はとある可能性に思い当たった。

「旦那、まさか七殺……厄神の祟りを何とかしようって言うんじゃないでしょうねェ」

「そのつもりだけど」

 猿の面が不思議そうに大隈を見た。

「冗談でしょう? たかが人間のガキ数人のために、藪をつついて蛇を出すような真似なさるつもりで?」

「だって、可哀想じゃないか」

「はあ?」

 蘇芳は鳥居の奥にそびえる、縦に連なる巨大なやしろを見上げる。

「このまま何もしなければ、この地に厄神様が再臨した時、子供たちは殺されてしまう。それが祖先の契約であることは確かだけど、彼ら自身には何の罪もないのに、不憫じゃないか」

「土地神の旦那は〝親の因果が子に報い〟って言葉をご存知ですかい」

「言いたいことは分かるけど……それでも彼らが暮らす地の守り神として、見て見ぬ振りなどできないよ」

 昼間も感じたが、この土地神と話しているとどうにも調子が狂うと、大隈は人差し指で頭をかく。

 子供たちを誘拐した自分や真生を助けたり、敵であるはずのこちらの事情まで気にかけたり。

 この甘さと警戒心の緩さは、一体どこからくるのか。

 とぼけた猿の面が、緊張感のなさに拍車をかける。

 反論するのも面倒になり、大隈は話題の矛先を変えた。

「ところで土地神の旦那にいくつか、聞いておきたかったことがあるんですがねェ」

「なんだい?」

「お連れの方を〝童子どうじ様〟とお呼びでしたけど、まさかあの方は〝龍宮りゅうぐう童子〟ですかい?」

 探るように尋ねると、蘇芳は思いのほかあっさりと肯定した。

「そうだよ」

 半ば予想していたが、大隈は改めて衝撃を受ける。

「あれが……」

 龍宮童子。

 それは各地の伝承に名を残す、対価と引き換えに、人間のいかなる願いも叶える者だ。「いかなる願いも叶える」とは、龍宮童子の力がいかに強大で底知れぬかを表す逸話いつわだという。

 龍宮の使者だという説もいれば、神や鬼の一種と考える者もいるが、その正体は謎に包まれていている。

 五百年近く生きている大隈も、実物を見たのは初めてだった。

 あらゆる妖怪や精霊、神でさえ、かの存在をおそれ、時にひざまずく。

「じゃあ、あの篝とかいう娘が契約者……」

 真生の同級生だという少女の姿を、大隈は脳裏に思い浮かべる。

「あの娘は一体、何者なんですかい?」

 宮代篝。

 第一印象は「場違いな娘」だった。

 整った容姿をしているが飾り気のない、若くして隠者のような雰囲気をまとう、不思議な少女。

 山の中の家に祖母と慎ましく暮らしていると知った時は、密かに納得したものだ。

 人目を避けるような、どこかかげを感じさせるたたずまい。

 だが線の細い見た目とは裏腹に、追い詰められると思わぬ芯の強さを発揮するようだ。

 この村の入り口で、催涙スプレーらしきもので目潰しをされた時は驚いた。

 あの娘に反撃されると、大隈は予想もしなかったからだ。

 彼女は土地神や龍宮童子の庇護ひごを一方的に受けだけではなく、自らも危険を冒し、この廃村までやって来た。

 気弱そうな少女だが、人は見かけによらないものだと、大隈は内心舌を巻く。

 だがその他は特に目立つところのない、平凡な小娘……篝の第一印象は、その程度のものだった。

 だが昼間、目の前の社の奥で起きたことを境に、大隈の認識は百八十度変わった。

 あの娘は決して常人ではない。

 つい数時間前、篝は真生と一緒に、檻のような厄神の瘴気の結界に囚われた。

 にもかかわらず意識を失い、重体に陥った真生とは違い、彼女は瘴気しょうきの影響を全く受けていない。

 それどころか厄神のけがれれに蝕まれた真生に触れただけで、たやすくけがれを消してしまった。

 そんな芸当が、ただの娘に可能なわけがない。

「何者って?」

「とぼけないでくだせえよ。ただの人間の小娘が厄神の瘴気を祓えるわけがないでしょうに」

 瘴気に触れても無事なのは、龍宮童子や土地神の加護を受けているたためだと思ったが――明らかにそれだけではない。

 ただの人間が、穢れを「祓う」ならまだしも「消す」ことなど不可能だ。

 なによりあの時、大隈は確かに見た。

 篝の血が祭壇の床にこぼれ落ちた瞬間、まるで彼女を取り囲むように、瘴気をまとった無数の黒い腕が生えたのを。

「それに厄神の眷属けんぞくたちは明らかに、あの娘の血に反応した。違いますかい」

 土地神はしばらく黙り込んだが、やがて言葉を選ぶように口を開いた。

「あの子は普通の人間だよ。少なくとも、本人はそう思っている。ただ……」

「ただ?」

 不意に蘇芳が話を途切れさせた。夜風がひときわ大きく草木を揺さぶる。

 真白い髪が舞い上がり、蘇芳はそれを抑えるように横髪を耳にかけた。

 奇妙な香りを嗅いだ気がして、大隈は鼻をひくつかせる。

 すると目の前に、白く小さな何かが風に乗って飛んできた。

 足元に落ちたそれを、大隈はなにげなく拾い上げる。

 小指の爪ほどの大きさの、淡い薄紅色の花びら。だがそれは、この季節にそぐわない花のものだ。

「……桜? 狂い咲きか?」

 奇妙に思ったその時、冷たく湿った夜風に混じって甘いにおいがした。

 何種類もの花や果物の芳しい、だが熟し腐り落ちる直前のような、かすかなえぐみを含んだ甘い異臭。

 風上から漂ってくる臭気の源を視線でたどり、大隈は目を疑った。

 古びた社の屋根を覆うように、満開の桜が咲き誇っていた。

 まるで雪のように、自らの花弁を闇へと舞い散らせてゆく。

 桜だけではない。椿や百日紅さるすべりいちい、芥子、芙蓉ふよう梔子なでしこ、紫陽花――この時期に開花するはずのない、色とりどりの花たちが、社を囲むように咲き誇っていた。

 花だけではない。

 梅や杏、桜桃やうりなど、晩秋を控えたこの時期に収穫できるわけがない果実の数々もたわわに実っていた。

「なんだ、ありゃあ」

 わずかな月明かりに照らされ咲き誇る、季節はずれの花や果実たち。

 美しく幻想的な光景は、大隈の目にはひどく歪に移った。

「これは……まさか四方四季しほうしきの……」

 微動だにせず鳥居の奥を凝視していた蘇芳が、かすれた声で呟く。

 すると社の石燈籠に音もなく、赤々とした炎がひとりでに灯った。

 大隈はとっさに身構える。

 蘇芳もほこを両手に持ち直し、鳥居から後退った。

 社殿の入り口が軋んだ音を立き、内側から開かれてゆく。

 濃く蠢くような暗闇を背に、石燈籠の灯にさらされ、小さな人影が黒々と浮かび上がった。

 痛いほどの静寂に包まれた中、とん、とんと社殿の段差を踏む音が鼓膜を震わせる。

「誰?」

 あどけない声とともに、一人の少女が姿を現す。

 大隈はこぼれ落ちんばかりに目を見開いた。

 肩で切りそろえた艶やかな黒髪。

 実年齢より大人びた瓜実顔うりざねがおに、血色のうせた白い肌。

 背が高く痩せた体にまとう、白い衣と緋色の袴。

 巫女装束をまとう目の前の少女を、大隈は知っている。

「嬢ちゃん……」

「大隈?」

 大人びた容姿に少し不釣り合いな、鈴を鳴らすような声が空気を震わせる。

「……生きてたんですか、嬢ちゃん」

 呆然と呟いた大隈に、少女はうっすらと笑みを浮かべた。

「なによ、その顔。幽霊でも見たような顔して」

「アタシはてっきり、四年前に」

 間違いない、と大隈は確信を持つ。

 高く澄んだあどけない声に、四年前より少し大人びた、伊玖とよく似た面差し。

 だが少女からかすかに嗅ぎ取ったにおいと、その身にまとった気配は、彼の記憶の中のそれとはわずかに異なっていた。

「私が生きてたら、何か不味まずいの?」

「今まで一体、どこにいたんですか。頭領とうりょうも坊ちゃんも、どれだけ心配したことか」

「お祖母様ばあさまが心配してるのは、私じゃなくて身内の醜聞でしょ」

 とげを隠そうともしない声と言葉に、大隈は押し黙る。 

「知り合いなのかい?」

 二人のやりとりを見守っていた蘇芳が、小声で尋ねる。

 大隈は答えることが出来なかった。

 黙り込む男とは対照的に、少女は特に表情を変えることなく、蘇芳へと視線を移す。

「ねえ大隈。その猿みたいなお面のやつ、なに?」

「嬢ちゃん、このかたは……」

 反論しかけた大隈は、強烈な異臭に鼻を突かれた。

 言葉を途切れさせた大隈の代わりに、拝殿の奥から、低く囁くような声が答える。

「あれは土地神だよ、れい

 その瞬間、大隈は息を呑む。

 全身の毛が痛いほど逆立つのが分かった。

「猿の面を見るに、道祖神どうそじん……猿田彦さるたひこの眷属のようだね」

 拝殿の奥から、声の主が姿を表す。

 黒い服を身にまとう、若い男だった。

 背が高く痩せた体に、背中まで伸びた淡い金色の髪。

「……!?」

 暗がりに浮かび上がる男の白い顔を、おそるおそる窺い――大隈は言葉を失った。

 両目と口をふさぐかのように、瞼と唇を、針金のような銀色の糸で縫い合わされている。

 縫合された唇の隙間から、低く、耳に絡みつくように甘い声が漏れた。

「土地神と大狢おおむじなか。なんとも珍しい組み合わせだ」 

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