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現実世界にダンジョンが現れたが、俺は誰にも従わない  作者: HATENA 
第7章「終域」

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第102話「自由」

 「……ここからだな」


 剣を肩に担ぐ。


 見上げた空は、拍子抜けするくらいいつもの色をしていた。


 雲が流れている。


 風が吹く。


 遠くでは、どこかの設備が低く唸っている。

 神崎がようやく息を吐く。


 「ほんと、お前……最後までそういう感じなんだな」


 苦笑とも呆れともつかない声だった。

 在真は肩越しに軽く見る。


 「……何がだ」


 「何がって、全部だよ。あんなわけ分かんねぇとこまで行って、戻ってきて最初の一言がそれか?」


 「……他に言うことあるか?」


 神崎は一瞬黙って、それから笑った。


 「ねぇな」


 レオンもわずかに口元を緩める。


 「……それでいい。妙に悟った顔をされるより、よほど信用できる」


 「……だろ」


 短く返す。


 「……好きにやるか」

 神崎が肩をすくめる。


 「出たよ。それが一番厄介なんだよなお前」


 「……褒め言葉だな」


 「褒めてねぇよ」


 いつも通りのやり取りだった。

 その普通さが、逆に少しだけ救いになる。

 レオンが空を見たまま言う。


 「世界の側は、まだ君を理解しきれていない。たぶん、これから各地で遅れて反応が出る」


 「……だろうな」


 「混乱もする。利用しようとする連中も、怯える連中も出る」


 「……勝手にしろ」


 在真は淡く言う。


 少しだけ、街の音が遠かった。

 風の匂いも、前より薄い。

 それでも不快じゃない。

 戻れなくなった場所がある気はした。

 でも、そこで立ち止まるほどでもなかった。


 「……でもまあ」


 神崎が手すりにもたれたまま、少しだけ真面目な声を出す。


 「お前がそのままなら、それでいいんじゃねぇか」


 在真は何も答えず、風の匂いを吸い込んだ。

 乾いた金属の匂い。

 少し遅れて、街の空気。

 それだけで十分だった。

 足元で、ガルが低く鳴く。

 見下ろすと、こっちが妙に遠くへ行っていないか確かめるみたいに、じっと在真を見ていた。


 「……なんだ」


 鼻先が軽く手の甲に触れる。

 いつも通りだった。

 少し薄くなっていた手の感覚が、そこでちゃんと戻る。


 「……いるな」


 ガルはもう一度だけ鳴いた。

 レオンが静かに頷く。


 「……終わったっていうより、ようやく何にも縛られなくなった、か」


 「……そうだな」


 空を見上げる。


 神崎がそこで、ふっと笑う。


 「ちゃんとお前だな」


 「……何がだ」


 「匂いだよ。空気でもいいけど。何つーか、上まで行って帰ってきたやつの顔じゃねぇ」


 「普通なら、もっと嫌な目するだろ。遠く行っちまったやつみたいにさ」


 レオンも小さく息を吐く。


 「……変質はしている。だが、変質したまま君でいる。それが一番厄介だ」


 「……褒めてるのか?」


 「半分は」


 「……そうか」


 空を見上げる。


 空は少し薄い。

 風も軽い。

 それでも、邪魔がないのは悪くなかった。


 「……悪くねぇな」


 誰に向けるでもなく、そう漏れた。


 風が吹く。


 静かな世界は何も変わっていないように見えた。

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