第100話「頂の先」
「……まだあるな」
視線の先には何もない。
少なくとも、目で見える形では。
だが——。
「……ある」
確実に。
“その先”だけが、静かに口を開けている。
「……行く」
踏み出す。
迷いはない。
次の瞬間、世界が消えた。
空間が消える。
時間が消える。
「……っ」
何もない。
音も。
色も。
距離も。
完全な“終”。
「……ここか」
立っている感覚すら曖昧になる。
自分が前を向いているのかどうかさえ、判断の基準が薄い。
それでも——。
「……問題ねぇ」
存在だけで立つ。
それで足りる。
静寂。
何も起きない時間が流れる。
いや、時間もないから“流れる”という表現すら正しくないのかもしれない。
「……来ねぇな」
そう呟いた時、初めて“気配”が生まれた。
「……来たな」
前方。
何もないはずの場所に、確かに“いる”。
次の瞬間、“それ”が現れた。
形はない。
輪郭もない。
だが、今まで見てきたどんな存在よりも、曖昧さの質が違う。
「……違うな」
圧がない。
威圧もない。
存在感すら薄い。
それなのに——。
「……全部ある」
すべてを内包しているとしか思えない。
“それ”がこちらを見る。
その瞬間、あらゆるものが止まった。
思考も。
感覚も。
存在の振動さえ凍りつく。
『到達確認』
直接、流れ込む。
「……ああ」
短く返す。
“それ”が続ける。
『最終判定』
静寂。
「……いい」
少しだけ笑う。
「……これで終わりか」
剣を構える。
だが、そこで違和感に気づく。
動かない。
いや、動く必要が見つからない。
「……必要ねぇな」
「……選択か」
“それ”が言う。
『同化/否定』
選べ。
そういうことだ。
「……なるほどな」
少し考える。
ここまで、戦い続けてきた。
上へ。
さらに上へ。
誰かに決められた枠を壊して、そのたびにまた次の枠とぶつかってきた。
「……で」
顔を上げる。
「……その先か」
“それ”は何も言わない。
ただ、待っている。
こちらがどちらかを選ぶのを、当然のように。
「……いいな」
少しだけ笑う。
「……選ぶ」




