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その後のヒロイン

ヒロインがただただ残念な人だという話……かな?



 薄暗い地下牢。重犯罪者のみが入れられるという最も過酷な地下牢で、ぼんやりと考える。自分はいったい何を間違えたのか。


 ユリア。平民出身の魔力持ちであり、立花由香という日本人の記憶を持つ女。それがユリアの正体。


 ユリアの言うとおり、この世界は乙女ゲーというジャンルで日本で人気を誇る某ゲーム会社の、製作チームが世に売り出した『ドキドキ魔法学園 ~恋の始まりは魔法のきらめき~』の世界だ。


 乙女ゲーをこよなく愛する彼女は、このゲームもしっかりとやり込み、攻略本も隅々まで読み込んでいた。何月何日のどこに誰がいて、どんな会話をすれば、行動をすれば攻略対象たちが自分に惚れるのか完璧に記憶していた。


 この世界が『ドキドキ魔法学園 ~恋の始まりは魔法のきらめき~』だと確証を得たのは学園に入学が決まったとき。その時初めて名称や世界観で確証を得た。それまでは庶民の日々の暮らしでいっぱいいっぱいで、気づく余裕もなかったのだ。


 レヴィナス学園に入学し、全てのフラグ、イベントを回収し、あっと言う間にハーレムを築き上げた。


 楽しかった。自分の大好きなキラキラした見た目の、裕福な男たちがこぞって自分へと貢物をする。婚約者を差し置き、自分へと甘い言葉を紡ぎ続ける。日本にいた頃には有り得ない優越感。女として、見目の良い男たちに、自分よりはるかに高貴で、美しい婚約者を差し置いてかしずかれる事が楽しくないわけなかった。


 歪んだ優越感に浸り、楽しんでいたが、一つ不満があった。


 ロザリア・エレクトア。


 彼女はこの国最大の貴族、エレクトア公爵家の令嬢で、攻略対象の1人、アレクサンダー第一王子の婚約者。当然、アレクサンダールートの際のライバル。


 そんな相手が一切現れないのだ。3年間、一度も会話をすることがなかったと言える。本来ならば1年の時から時折注意に来るはずなのに。婚約者のいる殿方に、みだりに近づくのは感心できません、と。他のライバル令嬢は皆そう言ってきた。しかし、ロザリアだけは一切言ってこなかった。いや、アレクサンダーには何度か言ってきたようだ。何度か彼が不機嫌そうに愚痴として零した事があったから。


 何故自分には言ってこないのか不思議だった。それに、彼女の信用を失墜させるためのイベントがあるはずの日にも一切現れなかった。ここまでくると彼女も自分と同じ、『ドキドキ魔法学園 ~恋の始まりは魔法のきらめき~』をプレイしたことのある日本人という可能性が浮上した。このままでは悪評を立て、信用を失墜させることはできない。そうなると、学園最終日に、断罪イベントを起こせない。別に起こせなくてもアレクサンダールートは完了するのだが、ハーレムエンド確定にはならないのだ。


 面白い事に、あの会社の作る乙女ゲーは、たった一つでもイベントを回収していないと、違うエンドへとたどり着いてしまう。


 ハーレムエンドを失敗すると、プチハーレムエンドへと移行するのだ。イベントを失敗した攻略対象が、最終的にハーレムの中から抜けてしまう。なかなかに厳しい条件の為、攻略本が必須となる。


 仕方がないので、無理矢理信用を失墜させた。


 鉢植えは人気のない校舎裏で、自分で地面に叩きつけ、物音を聞きつけてやってきた攻略対象に、居もしないロザリアの影を見た、と訴えた。


 階段は、泣きつくための対象がやってくるのをしっかり確認したうえで、自分で飛び降りた。そして、ロザリアに突き飛ばされたと泣きついた。この時の対象はアレクサンダーではなく、確実に助ける反射と受け止める力のある、未来の騎士隊員であるエドウィンなのだから、運営は良く考えている、と思ってしまった。


 色んなハーレム要員達に悪事の数々を見せることで、ようやく断罪へと繋がるのに。その全てを自作自演させられる苛立たしさ。はっきり言って不愉快だった。


 最初に出会いもなく、注意されるイベントが起こらなかったので、警戒して事前準備をしていた自分を褒めたいくらいだ。


 ロザリアが再三の注意イベントをし、結果アレクサンダーと言い争いになるイベントが発生しなかったときは肝を冷やしたが、それは自作自演の脅迫文で乗り切った。正直自分のファインプレーに、自分の頭の良さを褒め称えたい。


 流石にイベントになかった連れ込み宿でヤりたい放題して、妊娠が発覚したときは焦ったが、卒業まで3か月、何とか乗り切り、結婚してしまえばこちらのもの。王族は容易く離婚などできはしない。所詮俺様系であろうとも一国の王子。年齢的にすっぱ抜かれては困るだろうし、童貞なのは確認済み。こちらが処女かどうかなんてわかるはずもない。初めての夜伽は精々痛がる振りをし、彼が眠ってからそっと指先に針でも刺して、シーツに血をつければいい。子供は早産だったと言えばいい。この世界には魔法があるから医者はいない。自分が妊娠しているのかどうか、不自然かどうか、早々わかるわけがない。そうタカを括っていた。


 クソが、と口汚く罵る。


 大体、自分だけがこんな場所に押し込められていることも納得がいかなかった。


 他の者は全員貴族相当――教師であるマッシュでさえも、男爵位を持っていた――であるため、貴族専用の牢へと入れられた。勿論、その中でも爵位によって、差があるらしいが、ユリアが今入れられている牢よりは遥かにマシなのだ。アレクサンダーは平民どころか奴隷へとその身を落としたが、元が第一王子の為か、多少の配慮でユリアよりもう一つ上のランクの牢に入れられたらしい。つまり、ユリアは重犯罪者用の牢で、アレクサンダーは軽犯罪者用の牢に入ったのだ。実際にはアレクサンダーも重犯罪者用の牢でなければならない程の事をしでかしたはずなのに。


 自分を牢に入れた兵士の顔を思い出し、ユリアは苛立つ。


 ゴミか何かを見るような蔑みの目。


 とても冷たい目だった。


 18歳のか弱い乙女を石畳の、不衛生で冷たい牢へと突き飛ばし、温情も何もなく扉に鍵をかけた。そして吐き捨てるように言ったのだ。お前のせいで国が亡ぶかもしれない。一生犯罪者として歴史に名を遺せ、阿婆擦れが、と。


 吐き捨てられた言葉に怒りに目の前が真っ赤に染まった。あれもこれも全て、あのロザリアがゲームのシナリオどおり動かなかったせいだ。


 絶対に自分と同じ存在だと思ったが、困惑する姿に嘘はなかった。ではなぜロザリアはああもシナリオ外の行動をしていたのか。


 こつりこつりと響く足音に、誰かが来たのだと理解する。


 長い通路の向こうから現れる者をぎろりと睨みつけた。


 誰かは明かりか何かを持っているらしく、光が先を照らし、細長い影がゆらゆらと揺れるように伸びてくる。


 ゆっくりとした足音に相応しいだけの時間をかけ、その人物は通路の先に姿を見せた。


 豪華なローブを身に纏った細身の女性だった。


 黒い髪を高い位置で結い上げ、口元には穏やかな笑みを浮かべている。


 ガシャン、と大きな音がたった。たてたのはユリア。牢を仕切る鉄格子に掴みかかり、ガシャガシャと音をたてる。


「ここから出しなさい!! 私はヒロインよ!! こんな事が許されると思っているの?!」

「やれやれ……これはまた、随分な阿呆が来たものだね」


 呆れたような、けれどもどこか楽しそうな声を響かせながら、ゆったりと近づいてくる女。女はやがてユリアのいる牢の前に立った。それからじっくりとユリアの事を頭の先から足の先まで眺め、ふ、と鼻で笑う。


「なるほどなるほど」


 どこかバカにするように呟く女に、ユリアは苛立ちを隠さない。届かないと解っている距離に立つ女にどうにか掴みかかろうと手を伸ばしたり、檻を揺らす。


 まるで気の触れたゴリラだね、と女に笑われ、初めて動きを止めた。じろりと睨みつけても女はまるで気にしない。


「さて、先ずは自己紹介をしようか。私は末永恵美。聞き覚えはあるかな?」

「あ、アンタ日本人?! じゃぁあのクソ女に助言していたのはアンタね?! アンタのせいでこんなことになったのよ!! どうしてくれるのよ!!」


 ふふふ、と恵美が笑った。


 かくっとわざとらしく傾げられる首。


「私は何も助言していないよ。このゲームの結末は何も変わっていないよ」

「はぁ?! そんなわけないでしょう?! 私はこのゲームを何度もクリアしたのよ?! このハーレムエンドは何回も見た!! あの女はあそこでしょっぴかれるのよ!! そして投獄されるの!! ヒロインの私はハーレム男に囲まれて幸せになるのよ!!」

「違うね。ああ、まぁ、私の作品のファンじゃなくて、ただの乙女ゲーマーならそういう解釈をする人間も多いよね」

「は? 私の作品……??」


 きょとんと瞬くユリアに、恵美は苦笑した。


「いやはや、どうも初めまして? これでも結構有名な某会社に勤めるシナリオキャラデザ等を担当しています、末永恵美です。『ドキドキ魔法学園 ~恋の始まりは魔法のきらめき~』ではストーリ、キャラクターを含め、様々裏設定も担当しています」


 まるでサーカスのピエロのように大仰な身振りでお辞儀をする恵美。その自己紹介に、ユリアはカッと目を見開いた。


 末永恵美。EMI SUENAGA。


 エンディングのスタッフロールを流れるその名前。


 ようやく思い出した。


 正直ユリアにとってエンディングは興味のないもの。ボタン一つで飛ばすもの。最初の一回以降はけして見ないもの。最初の一回だって曲が聞きたくて流すだけで、スタッフロールは気にしない。それよりも、流れるスチルに、自分が回収していないイベントを確認する。


「ど、どうして制作者が……」

「秘密。それより、逆ハーのエンディング、本当に君の言う通りだった?」


 問われ、目をつぶる。


 何回もクリアしたが、ユリアが空で言えるのは、攻略対象とのイベント会話。あのゲームは乙女ゲーにしては、地の文が多い。大概の乙女ゲーが、主人公の女の子の一人称もしくは、本人に口で言わせるのに対し、何故か「次の行動を決めてください」ではなく、無言でプレイヤーに勝手に行動させ、時間が経過する。確認の際は「はい、でよろしいでしょうか?」と無機質な機械のような確認。その日あったことを振り返るシーンでは「○○と街でデートをしたユリアは思いもかけず××のようなことがあった。それはマリアにとってどうどういう経験で、とても楽しい思い出となった。これにより、○○との親密度が□□ポイント上がった」と、やたらつまらない演出をする。イベントだって「ユリアは言うなり立ち上がる。そしてひらりと身をひるがえした」などと小説のような文章が出てくる。


 文章を読まなくても、会話だけ読めば大体何をしたかわかるようになっているので、あの文章はほぼスキップで読み飛ばしていた。


 エンディングの辺りは殆ど会話ではなく、文章が多かった気がする。読み飛ばしていたせいか、思い出そうとしても、微妙に歯抜けのような状態だった。しかし、よくよく思い出してみても、ロザリアが投獄されたという文章はなかった気がする。それどころか、断罪の途中からロザリアも兵士も周りの学生も空気だった。そして、攻略対象達とこれからは皆一緒ね、みたいなセリフをいちゃいちゃと自分達の世界的な会話を回して、攻略対象達に囲まれて微笑む主人公のスチルが一枚ばん、と出てFinとなっていたような気がする。


 え? と首を傾げた。


 どこにも『幸せになりました、めでたしめでたし』はなかったように思えたのだ。


「どういう、こと?」

「私の作品はね、ファンの間では結構有名な『エンディングに幸せになりました、めでたしめでたし』の文章が少ないものなんだよ」


 あはは、と笑いながら恵美が語る。


 そして、その内容にユリアは青ざめた。


 『ドキドキ魔法学園 ~恋の始まりは魔法のきらめき~』を含め、恵美の作品は世に沢山でいている。綺麗な男達、多彩な性格。――と言っても、幾つかソフトを集めれば同じような顔、同じような髪型、で前の作品とは違う性格、の組み合わせばかりだが、そこはそれ、乙女ゲーありがちな事なので割愛する――共通するのは身分差恋愛。


 身分差を乗り越え、一般人又は平民が、御曹司や社長又は貴族と恋愛するというのが基本の乙女ゲー。こう聞けばただの王道。しかし、面白いのはここから。身分差恋愛を成就した場合、絶対に『幸せになった』という表記はないのだ。これはファンブックのインタビューの内容を読んだことがある程のファンなら周知の事実。乙女ゲーと題打っていながら、何故だか恵美自身が身分差恋愛に批判的なのだ。


 ある記者が恵美に尋ねた。末永さんの作品にはハッピーエンドがあまりありませんね、と。恵美はそれに対し、当然だと答えた。


 身分差恋愛ということは、それまでの常識が突然がらりと変わるという事。産まれたときから教育された者、その世界に入る為に覚悟を持ってチャンスを掴んだ者、ならば理解できることも、ただのぽっと出な庶民で、恋愛に流されたお嬢ちゃん程度が軽々越えられるはずもない。多大な苦労を要して、何度も挫折を味わい、辛酸をなめ、苦痛を乗り越え、心をへし折られて、といったように兎に角苦労をしないわけがない。魅力的な男が現れた途端、自らの目指すものを忘れ、あっさり恋愛に走る程度のお嬢さんに、恵美はなんの期待もしていないのだ、と笑った。


 自分で乙女ゲームを作っておきながら何たる言い草か。


 恵美の手がけた作品でハッピーエンド、いわゆる『幸せになりました、めでたしめでたし』と締めくくられるのは、全て身の丈に合ったエンディングを迎えた場合のみ。例えば、『ドキドキ魔法学園 ~恋の始まりは魔法のきらめき~』では、主人公のユリアはただの魔力持ちの一般庶民。素直で明るく優しいというテンプレのような性格だが、それは庶民なら長所となりうるが、貴族の社会では通用しない。貴族社会は表と裏の顔を使い分け、相手の言った言葉の裏の裏までの探り合い。そんなもの、素直で明るく優しいだけの一般庶民がこなせるわけがない。素直、な時点でアウトだ。つまり、この主人公のハッピーエンドは、無事卒業し、親元に帰る。もしくは、一度帰郷し、両親に顔を見せた後、王都へ舞い戻り、大好きなケーキ屋さんで働く。この二つだけがハッピーエンドとして締めくくられている。といっても、王都へ舞い戻る方は『沢山の苦難の果てに』とついているのがポイントだが。恵美にとっては、所詮田舎娘。魔力さえなければ王都に来る予定もなかった少女という設定なのだから、都会の波に揉まれた的な発想らしい。


 語られない恋愛エンドの果ては悲惨なものばかりらしい。


 例えば第一王子アレクサンダー攻略後、エンディングでは、ユリアは卒業後、アレクサンダーと結婚した、とあるが、最後の一文は『王子の身分を捨てたアレクサンダー。ユリアは彼の妻となり、慣れない庶民の生活になじもうとする彼を助けるため、沢山の苦労をします。しかしそれはまた別のお話』となっている。


 他の貴族2名だと、『こうして貴族の家の婚約者となったユリアは、これまでとは違った世界で生きていくことを決意しました。彼女の未来は沢山の苦難が待ち受けるでしょう。しかしそれはまた別のお話』となっている。


 教師のマッシュだと『こうして教師と生徒という禁断の愛を実らせた二人は、新たな地へと旅立ったのです』となる。何故2人が王都を離れることになったのかは、察していただきたいという事だ。


 枢機卿の息子ウィリアムだと『こうしてユリアは未来の枢機卿へと嫁ぐため、家族を捨て、教会の門を叩くこととなりました。彼女は枢機卿の妻となれる聖女の称号を得るため、これから沢山の試練を受けることとなりますが、それはまた別のお話』と締めくくられる。


 全て攻略対象と2人でいちゃいちゃしたスチルがばーんと画面いっぱいに表示されるせいで、この文章はファン以外には大体スルーされてしまうのだ。そして、それは、今目の前にいるユリアにも言える事だった。


「そんな……じゃ、じゃぁ、逆ハーエンドは……!?」

「ん? ああ、『異性への魅力にあふれたユリアは、沢山の男達から求愛を受けました。その後彼女が誰を選び、どうなったかは誰も知りません。願わくば、彼女が幸せでありますように』だよ? スチルは全攻略対象がヒロインにすり寄り、ヒロインが困っちゃうわぁ~みたいな顔して笑ってるやつだね」


 あっけらかんと言い放たれ、ユリアはその場に膝をついた。


 自分はただただ最後の『幸せでありますように』という言葉だけで、幸せになったと勘違いしていた。都合の良い夢を見ていたのだ。乙女ゲーとは総じて乙女のキラキラした願望を叶えるためのゲームであって、ユリアの感性の方が正しいのだが、何故だか恵美のこのねじ曲がった乙女ゲーはウケた。ストーリーよりも、設定でウケたと言っても過言ではない。


 この顔でこの性格が良かったーというユーザーの意見を取り入れ、似たような顔で別な性格にしたり、キャラクターボイスを選べる設定にしてあったのもウケた理由の一つかもしれない。


 その他にも、後で発売されるファンブックに載るインタビューで、裏設定共呼ばれるその後、について恵美が語る内容と、自分の想像が同じだったか、どう違ったかを話し合うのもファンたちの間で盛り上がりを見せていたというのもあった。


「まぁそんなわけで、私の作品なら身の丈に合った内容にするか、ゲームとは違う身の丈に合ったモブを攻略する以外幸せにはなれないんだよ」

「ねぇ……ここは何なの……? 現実なの?」

「君にとっては現実だよ。ま、確かに私が産み出した世界だけどね」

「どういうこと……? まさか自分は神だとでも言うの?」


 まさか、と恵美は笑った。そして同時に何故だろう、と首を傾げる。ユリアのような、何故かやってくるイレギュラー達は、恵美に会い、これが現実だと話すと必ず、貴女は神なの? と問う。そんなわけはない。至って普通かどうかは別として、とりあえず恵美はただの人間だ。両親もちゃんといる。ただ単に、自分が産み出した世界に入ることができるという、使いどころのない超能力のようなものを持っているだけで。


「ここは現実だよ。あくまでも、君にとっての、ね」

「どうして……? 私が何をしたって言うの……?」


 嘆きに、思わず笑う。それはとても小バカにしたような、嫌な笑いだった。


「何をしたって? かなりやらかしてるじゃない。欲望のまま、婚約者のいる男を横取りし、本来すべき学業を疎かにして、他人の気持ちをないがしろにしていたじゃない」

「だってこれはゲームで、私はヒロインでしょう!?」


 まさか、と恵美は笑った。


「確かに誰もが自分の人生のヒーローで、ヒロインだろうけど、そこで生きている限り、その場所はゲームの世界じゃない。君が生きる世界だよ? 何でもして良いわけがない。自分で選んで、その責任を負う。それが人生でしょう?」


 そんな、とユリアが絶望に呟いた。


 ゲームだと安易に信じた自分が悪いのか、ゲームだからと他者を踏みにじったからこのような結末に至ったのか? ならば何故あんなゲームを出した、と理不尽な怒りがわいてくる。あのゲームがなければ、自分はここがゲームの世界だと思い込むこともなかったはずなのに。全ての元凶はお前ではないかという怒りがわいてくる。


 怒りが気力を取り戻し、立ち上がるなり鉄格子に体当たりをかけた。


 ガシャンと大きな音をたてた。


「ここから出して! 出しなさい! 出せよ!!! この悪魔!! ク〇野郎!!」


 ふざけるな、そう怒鳴りながら鉄格子に蹴りを入れる。当然固い鉄の柵は、ユリアの足の裏に固い感触と、不動の気配を与え、その身体を押し返した。よろめいてもめげることなく繰り返し、繰り返し。


 ガシャガシャと音をたてる鉄格子に、恵美は笑った。


「やっぱり気の触れたゴリラだね」

「ふざけんな!! ク〇野郎!! お前のせいだ!! 全部お前のせいだ!!」

「そうかな?」

「当たり前だろう?! お前がいなけりゃこんな事にはならなかったんだよ!!」

「そうかな?」

「ふざけんなよ!! このブス!!!」

「君は面白いね。どこまでも他人のせい。選んだのは自分なのに。その結果を責任を受け止められない程幼稚な精神。狡猾で幼稚。まるで子供のまま大人になった典型のようだね」

「はぁ?! うっせぇんだよ!! 出せよ!! この化け物!! とっとと私を解放しろ!!」

「ま、どうでもいっか。じゃ、元気でね? もう一度だけ言っとくよ。ここは君には現実だから。自分で選んだ人生、残りも頑張って生きてね。バイバーイ」

「ふざっけんなぁああああっ!!!!」


 ガシャンガシャンと響き続ける音。


 怒号。


 それらを気にすることなく踵を返す。


 ひらりと後ろ手に手を振り、恵美は歩き去った。


 後には気が触れたように鉄格子に体当たりを続けるユリアと、彼女の怒声と、鉄格子があげる音。そして、地下牢が初めから持っている暗闇と静寂だった。


うっかりノリで殴り書いた。

前話を見直さなかったから矛盾があるかも。

末永さんが突然のキャラすぎて自分でも驚く。

変だな? メイドが転生者のつもりで本編は書き始めたのに……。

誰よ、この人……。

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