スライム取り込み
「あれぇ、ルルちゃん苦しそうだね」
「実は便秘が酷くってさぁ、今日で3日目だよ」
お腹を擦るルル、年に何回か襲ってくる便秘が発生したのだ。
「だったら良い薬があるよ、ハイこれ」
トロはポケットから小瓶を取り出した。中には薄い緑色をした液体が入っている。
「何これ?」
「ふふん、便秘に効く特効薬だよ~」
「これ飲んでも大丈夫か?成分は何?」
「飲めば分かるだよ~」
トロはニンマリ笑う
「変な奴、ゴクリ……」
とろみがある液体なのに喉越しが良い、だけど少ししょっぱい。不思議な感覚。
直後、腸の辺りを急激な激痛が襲う。
「うがぁ、なななんだこりゃあ!痛、いたたたたたっ!」
「あ、効いてきたね~」
「トロ、何飲ませやがったぁ!」
「これはねー、便秘薬にスライムの成分を混ぜたものだよ~」
「なんだとぉおおお!」
ぐぎゅるるるるるるる!!
「うばああぁあああ!トイレェーーーー!」
ルルは跳ねまわるお腹を抑えて必死にトイレまでたどり着くと、3日分の汚物を捻り出した。
「あ、戻ってきた。いっぱい出たでしょ~」
「ああ、すっきりだ。にしてもあの薬、どこで手に入れたんだ?」
「ふふ、自作です!」
「は?」
「私も便秘が酷くて悩んでてね、ルルちゃんとスライム刈りをしてる時思いついたんだ~。スライムさんのツルツルな体液は効くと思って~」
「にしても絶大な効果すぎだろ……ん?おいトロ、この薬売れるんじゃないか?」
「そうかな~」
「絶対売れるよ!ねぇ、一緒に作ろう!私の工房なら道具もスライムも揃ってるし」
「うん、いいよ~」
こうして二人は工房で便秘薬を作りまくった。
露店を開いて売り出したこの薬は、またたくまに街の評判を呼び、飛ぶように売れていった。
「いやー大盛況!笑いがとまんないねトロ!しかし案外便秘に困ってる人、いるんだな」
「便秘以外にも美肌効果があるみたい、隣の武器商人さんは肌がツルツルになった気がするって~」
「へー、今まで馬鹿にしてたけど、スライムって結構万能じゃん」
その後も二人は改良を加えながら便秘薬を売り続けた。
街の人々は万能薬として、飲む以外にも調味料や肥料など、あらゆるものに応用した。街人全員が、この薬の恩恵を授かった。薬の噂は更に広がり、辺境の地から買いに来る人まで出てきた。
しかし、ある時ルルは体の変化に気づく。
「なぁトロ、最近妙に皮膚が柔らかくなったような気がするんだけど」
「美肌効果絶大だね~。私もほらぁ、ぷにぷにだよぉ」
「でもこれ、何かおかしいぜ。皮膚だけじゃない、体の芯まで柔らかくなってるような……」
「気のせいだよぉ」
「そうかなぁ……」
翌日、朝起きたルルは驚愕する。
体中から透明な液が溢れ出していたのだ。というより、体そのものが液状化してきている。
「うわああああ!あああああ……」
(声が……しゃべれない!どうなってんだ、とととにかくトロに知らせないと)
ベットから這い出し、半透明の液体を撒き散らしながら玄関の扉を開ける。
と、そこには同じ状態のトロが号泣して立っていた。
「るあうぁあ、かららがぁぁぁ!うああしうああ!……ぐあんまぁ~」
声にならない声でトロは必死にルルへ何か言おうとしていた。
聞き取れないがルルには分かる。
”どうしよう”
”ごめんね”
(まったく、トロと関わるとろくな事ねぇなぁ……。泣くなトロ、私がついてる)
ルルは優しくトロを抱きしめた。
二人の体は溶け合い、一つになっていく。
刹那、ルルの頭の中にトロの記憶が流れ込んできた。
初めて倒したモンスター、家族との思い出、ルルと遊んだ毎日……ルルの笑顔。
おそらく、トロにもルルの記憶が伝わっているだろう。
二人は手を固く握り、黙ったまま、人間でいられる最期の時を惜しむように寄り添った。
(トロ……何だか私、今、とても幸せだ)
満ち足りた二人の顔は徐々に形を失い、地面へと流れていく。
活気ある街の朝は、いつもと違って人々の悲鳴や嗚咽、絶叫で溢れかえっていた。しかし、やがて喧騒は消え、街はゆっくりと眠りについたのだった。
◇◇◇◇◇◇
「うっ……」
机に突っ伏して寝ていたルルは顔を上げる。
どうやらいつの間にか寝てしまったようだ。
「なんだか変な夢を見てた気がする……あ、いててて腹が……」
「あれぇ、ルルちゃん苦しそうだね?」
「おめぇは星新一か!」




