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十三話 再会2

【リコンストラクション・クエスト】。

 拳を作って名を告げたリングは笑みを深める。


復興リコンストラクション……このゲームの根幹設定に触れてくるようなタイトル……ふふふふふ期待が膨らみますね」

「は、はあ」

「さらに、です」


 リングはカッと目を見開いた。


「今回のイベントについてもう一つわかっていることがあります」

「あれ? 確定してるのは二つじゃ」

「はい、これは公式からの確定情報ではありません。NPCたちから集めた情報による推測ですが……聞きたいですか?」

「え、聞いていいんですか?」

「聞きたいんですね。ではお教えしましょう」


 強引に言い切ってリングは再び語りだす。


「イベントの開催が予告されたのは二週間前。そしてその時から一部のNPCたちの行動が少し変わりました。頻繁にある言葉を口にするようになったんです」

「ある言葉?」

「『食料が足りない』『木材が足りない』『橋・船が壊れて物が運べない』『他の街と貿易ができない』……つまるところ『物資が無く、また他の所から持ってもこれない』という内容の言葉です」

「ああ、そういえばベイギンでも出店の店主がそんなこと言ってました」

「復興の英単語が入ったクエスト、NPCの嘆き、そして『ランコス』の根幹設定を合わせて考えるなら——」


 リングはびしっと指を立てる。


「今回のイベントは、『ネクスタルによる他の街への物資供給、あるいはインフラの復活』と見ました!」

「おお……!」


 熱の入った語りと決めポーズにジンは思わず拍手を送っていた。

 そこでリングはハッとしたように咳ばらいをする。


「んんっ、まあイベントについての情報はまだこんな所です」

「あ、ああ。いや色々とありがとうございます」

「ところでイベント、ジンさんは参加されるんですか?」


 リングの質問にジンは虚を突かれたような顔をする。


「俺ですか」

「昨日初めてすぐこの街に来ているので、そうなのかなと」


 それは店員にも訊かれたことだった。

 ジンは少し考えて聞く。


「……イベントって何か参加条件とかあります? レベルが足りないと無理だとか」

「まあネクスタルへ来れている事、ぐらいですね。それ以外は特に。ちなみにイベントの開催期間は一週間です」

「それなら参加します」


 知らなかっただけでイベント自体にはジンも心が躍る。参加しない手はなかった。

 ジンの答えにリングは満足そうに笑う。


「そうでなくては。ああ、ところで」


 そして微笑みながら目をきらりと光らせる。


「市場では聞けませんでしたが、私から一つお聞きしたいことがあるんです」

「はあ。俺に?」

「はい、貴方に」


 リングは辺りに人がいない事を再度確認して声を潜める。


「貴方が新しいジョブかスキルを発見したのでは、という噂を聞いたのですが」


 慎重に、探るようにリングは問うてくる。

 それに対してジンは——。


「あ、《金の亡者》のことですか?」

「え」


 あっさりとジンは答える。真面目だったリングの様子が呆気にとられたようなものへと変わった。

 そして言った後にジンは思わず口を押さえる。


「や、ヤバい!」

「え、ええ。あの、そういった情報はもう少し慎重に取り扱って」

「《金の亡者》に就いてるなんて普通に言っちゃった……! もうなんか自分が《金の亡者》なことに違和感を抱かなくなってる! いやあくまでジョブの話だけど!!」


 リングの言葉も聞かずジンは頭を抱えてうずくまった。

 たった一日、されど濃かったこの一日は《金の亡者》というジョブの人聞きの悪さをジンの中から取り去っていた。


「あのぅ……?」


 訳が分からないと言う顔でリングが声を掛けてきた。

 取り乱していたジンはそれで正気に戻る。


「おあぁすみません⁉」

「いえ、問題ありません。でもあんまり新しいジョブについては漏らさない方がいいと思いますよ」

「え、でもリングさんが聞いて来たから」

「まあ確かに私は興味が抑えきれず直接聞きに来ましたが」


 リングは胸を張った。その姿は誇らしげだ。何故だ。


「しかし言いたくないと断られた場合は引くつもりでしたし、何か企んでいると警戒されるとも思っていました」

「そこまで……?」

「もちろん」


 いまいちピンと来ていないジンにリングは力強く頷いた。


「オンラインでの未確認情報とは人へのアドバンテージになるんです。他に人がいるゲームなら差をつけたい、追い越したいと考えるのは当然の事。だから自分だけが抱える情報は大事にするんです。それに自分だけのジョブという特別感に浸りたい人もいるでしょうし」


 興奮気味にリングはまくしたてる。


「つまり人前で迂闊に新発見されたジョブについて聞くなど、機嫌を損ねて怒鳴られても文句は言えない行動ということです」

「……あれ、でもそれをリングさんはやろうとしてましたよね」


 リングは市場でジンのジョブについて聞こうとした

 そんなジンにリングは表情を曇らせて深く頭を下げた。


「はい。私はそれぐらいありえない事をやってしまいました。申し訳ありません」

「いやいやいやそんな気にしなくても⁉」

「それはよかったです!」

「あっさりだなぁ⁉」


 気にしてないとは言ったがまさか本当に気にしないとは。


「ですが調べればわかるイベントの情報と新ジョブの情報では釣り合いません。なので」


 頭を上げたリングはいきなりウィンドウを開き何か操作をし始める。

 するとジンの目の端にもウィンドウが現れた。


【プレイヤー リング からフレンド申請が来ました】

【申請を受けますか? はい/いいえ】


「おぇ⁉」


 ジンは思わずウィンドウとリングを見比べてしまう。


「もしも何か聞きたいこと・やりたいことがあれば声をおかけください。私、リングができる範囲でご協力いたします」


 リングはとびきりの微笑みを見せた。

 そしてすぐに踵を返す。


「それでは私は用事がありますのでこの辺で! どうかよいゲームライフを!」


 そう言ってリングは矢のような速度で去っていった。


「……えぇ」


 残されたジンはウィンドウの前で呆然と立ち尽くしていた。

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