十二話 再会
森を抜けると、月明りの中で草原にまたがる堅固な城壁が見える。
その光景にジンはため息をつき、ユノはあくびをしていた。
「はぁー……ようやく着いた」
「ふぁ……ちょっと眠くなってきました」
ジンたちは夜更けも近くなってきたころようやくネクスタルへ辿り着いていた。
「何でこんなに遅くなっちゃったんでしょうね」
「そりゃユノが素材探したりしてたからだろうな」
「ジンさんだってモンスター探してまで倒してましたよね?」
二人はお互いに責任を押し付け合う。
しかしどっちもどっちだ。ジンはドロップアイテムから換金できる金額に酔いしれ、ユノは普段自分一人では来れない森の素材に興奮していた。
ストッパーのいない二人はひたすら欲望のまま寄り道をしたのだから。
ジンは頭を指で押して眠気を覚まそうとしながら首を傾げる。
「にしてもずーっと真っ直ぐな道だったな。ガルレットと戦うこともなかったし」
ジンが最初にネクスタルへ行った時は、いつの間にか狭く荒い道に迷い込み、その先でガルレットと戦うことになった。
しかし今回は本当に真っ直ぐな道で迷うような要素はなかった。
「一回目のあれはそういう風になるってことか……?」
「……獣道ですか。それはまた珍しいものがありそうな」
「言っとくけど行けても行かないからな? 流石に不意打ちから守るような自信はない」
道中でユノを自由にさせていたのは魔物の出現がわかりやすかったからだ。
森の中、どこから敵がくるかもわからない場所へ行く気はジンにない。例えそっちの方が稼げたとしてもだ。
「うぅ……」
「それよりほら、市場が賑わってるんだろ? 珍しい素材あるかもよ」
「あっ、そうですね!」
しょぼくれていたユノはすぐに立ち直った。
ジンはもはやそんな態度にも慣れたもので共にネクスタルの門へと向かう。
■ ■ ■
夜にも関わらず市場は開いていた。
昼のような客引きの声は響いていない。
だがずらりと並んだ出店がランタンを店先にぶら下げて様々なアイテムを売っている様子は、昼と違った不思議な雰囲気がある。
NPCはあまり出歩いていないが、プレイヤーの数は相当に多い。
「お祭りみたいだ」
「凄いですね!」
ユノの目はランタンに照らされたように輝いている。
ジンも眠気は多少飛んでわくわくした気持ちが出てきていた。
「ここならブースト薬の素材も揃うんだっけ」
「ブースト……? あっ、はい! 恐らく!」
「本来の目的忘れてたよな?」
「そ、そんなことは。ほら色々見て回りましょう! もっと珍しいアイテムも作れるかもしれませんし!」
誤魔化すように駆け出すユノへジンは呆れながらついていく。
市場に入った瞬間ユノは近くにある店にいきなり飛びついた。
そこは鉱石をそのまま置いてある店だ。店員は男性のプレイヤーがやっていた。
「いらっしゃい」
「おお……これはまさか《アダマンタイト》⁉ それに《呪怨鉱石》……! こんなアイテムが出店で……⁉」
店員に構わずユノは手のひら大の鉱石に思い切り顔を近づけて眺め始めた。
その様子を店員はちょっと引いている。
「お、おお。そんなに興奮する?」
「すみません。こういう子なんです。迷惑はかけないようにするんで」
「あ、うん……」
店員に謝りながらジンも鉱石に目をやる。
《アダマンタイト》は黒々と輝く正方形で、《呪怨鉱石》は断面が恨めしげな人の顔に見える薄紫の鉱石だった。
「うわ不気味……そのアイテムってなにが凄いんだ?」
「私も本でしか見たことは無いんですが、《呪怨鉱石》は相手の命を削り続ける強力な呪いを付与するアイテムになります」
「強力か。ガルレットに使うとどうなるんだろ」
「一瞬で死ぬんじゃないでしょうか。ドラゴンすら殺すらしいので」
「ドラゴン死ぬの⁉ これで⁉」
「本にはそう書いてました。といっても他にいくつも素材や工程、器具が必要ですから私には作れませんけど……」
そう語るユノはふと言葉を止めた。
ここからさらに色々と語り始めるだろうと思っていたジンは疑問を抱く。
「ユノ? どうした」
「《呪怨鉱石》ってこの辺りだと取れないはずなんです。【怨霊鉱山】よりずっと北にある山脈……フォロウィンから行くような」
「フォロウィンってどこだ……?」
「普通に進むとだいぶ後半に行くことになる街だね」
心当たりのない名前に首を傾げるジンへ店員が捕捉を入れてくれる。
「あ、ありがとうございます。……あれ?」
後半に行くことになる街、そこで取れる素材を売っている。
その事実にジンは店員を驚きの顔で見る。
「もしかして、店員さんって結構進んでる人?」
「まあね。そういう君は……特定しづらいな。あんまり見たことない装備だけど」
ジンの装備を眺めた店員は眉根を寄せた。
「あ、俺は初心者です。まだ始めて二日ぐらいで」
「おおー、それでもうネクスタル来てるんだ? やりこんでるねぇ」
「いやぁ、まあ」
笑顔で親指を立てられジンは曖昧に笑う。
色々と偶然が味方した結果で、やり込むつもりはあまりなかったのだ。
誤魔化すような笑みを浮かべていたジンは、次の店員の言葉に疑問を持つ。
「ということはイベントが目的なのかな」
「イベント?」
「あれ、知らない? ネクスタルで来週から大規模なイベントが開催されるんだよ。そのために急いで来たんだと思って」
「いや、知りませんでした」
Wikiを覗いたりもしたが、特定の情報を調べるためだけで他のことには目が行っていなかった。
「じゃあせっかくだから教えてあげ——」
「すみません、そこの方」
店員がイベントについて教えてくれようとしたその時、ジンは後ろから肩を叩かれる。
「え?」
反射的に振り返りながら、ジンはその声をどこかで聞いたような気がしていた。
そうして振り返った先にいたのは。
「お久しぶりです。ジンさん、でしたか?」
腰まで伸びるさらりとした銀髪に輝いて見える銀の瞳、出会った時は初心者のモノだった装備は、豪華な白金の鎧に変わっていた。
微笑んでいるその人物の名を、ジンは一度名乗られただけにも関わらずよく覚えていた。
「リング、さん?」
それは最初に荒野へ出た時、ゴブリンにボコられているジンを助けてくれた少女だった。
突然の出会いにジンは硬直する。
まさか再び会えるとは、しかも向こうから声をかけられるとは思っていなかったのだ。
ただそんなジンの様子など気にせずにリングは喋り始める。
「ちょうどよかったです。ジンさん、貴方に少し聞きたいことがあるのですが」
「り、リング? リングって〝全土の探索者〟の⁉
しかしその言葉は店員が上げた声により中断させられた。
夜市に響いた声は他のプレイヤーの注目を集め、その内容を理解するとざわつき始める。
「リング⁉ マジか!」
「ほんとだリング団長だ!」
「〝全土の探索者〟団長かよ! トップクランのリーダーがもう来てんのか!」
「今回のイベントも活躍楽しみにしてまーす!」
静かな雰囲気の夜市が一気に盛り上がり、リングへ応援の声をかける人まで現れた。
注目されるリングは小首を傾げる。
「うーん、こんなところでの質問はマナーが悪かったですね」
リングはジンに向き直る。
「ジンさん、どこか別の場所へ行きませんか? お聞きしたいことがあるんです」
「えっ、あ、はあ」
「よかった」
ジンは辺りの盛り上がりについていけず生返事を返す。
リングはそれを了承と取ったようだ。
そしてジンの隣にいるユノへも目を向ける。
「貴女もご一緒に」
「は、はい」
リングは人混みを急ぎ足で抜けていき、ジンたちも慌ててそれについていった。
■ ■ ■
人気のない路地でリングは足を止めて振り返る。
「申し訳ありません。イベントが迫ってプレイヤーが多い事を失念していました」
「はぁ……あの、色々聞きたいことがあるんですけど」
先に息を整えたジンが困惑した顔で挙手する。
「はい、なんでしょう。お詫びに何でも答えますよ」
「えーと、イベントって何なんでしょう」
なぜこんなところに連れてこられたのか、そっちが聞きたいこととは何なのか、と質問が浮かぶ中で、ジンはとりあえずそれを訊ねた。
店員に教えて貰えそうだったのが中断して気になっていたのだ。
訊ねられたリングは目を輝かせる。
「イベントについてですね? ふふふ、わかりました」
どこか不気味な笑みを浮かべながらリングは語り始める。
なんだかさっきとイメージが異なる様子にジンは困惑しながらもそれを聞く。
「……とはいえ、今回のイベントはまだ詳細は発表されていないんです」
リングは首を横に振った。
だがその後指を二本立てる。
「しかし二つ確定していることがあります」
「一つはイベントがこの街ネクスタルで開催されること」
「そしてもう一つは、この『ランド・オブ・リコンストラクション』がリリースされて二か月、二回目のイベントにして街一つを巻き込む程に大規模なものであること」
リングは指を握り込み拳を作る。
「その名を——【リコンストラクション・クエスト】」




