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十一話 ネクスタルへ

 ユノが仲間になった後、ジンたちは住宅街を通りユノの店へ戻っていた。

 辺りは夜になっていて人もほとんど出歩いていない。


「それで何を作りましょうか」


 そんな帰り道で唐突にユノはそう聞いてきた。


「え、何をって言われても……」

「100万ギル分も借りたわけですから、何でも言って貰っていいですよ!」


 ユノは目を輝かせて腕まくりをしている。

 単に自分が色々作りたいだけなのでは、という言葉は飲み込んでジンは思案する。


「といっても、《煙幕》とかは役に立つけど今はいらないし……《錬金術師》ってまず何ができるんだ?」

「そうですね、《錬金術師》に求められるのはやっぱり〈錬金〉というスキルによる素材の昇華や分解だと思います」


 ユノは下げていた鞄から手のひら大のギザギザした葉っぱを取り出す。


「例えばこの《高位薬草》ですね。これは《薬草》を五つ《昇華鍋》に入れて混ぜ合わせると《高位薬草》に変化します」

「……《薬草》がそのまま《高位薬草》に変化すんの? 溶け合って固まったとかじゃなく?」

「え? はい」

「へぇー……うん、便利だな。あ、でも安いアイテムから高いアイテム作れるってことか!」


 ジンは絵面の想像を放棄した。

 代わりに稼げそうという考えに思い至りテンションが上がる。


「その《薬草》と《高位薬草》って店で買うとどれぐらいなんだ⁉」

「《薬草》は5ギル、《高位薬草》は12ギルですね」

「……《薬草》五つ必要だから、25ギルで12ギルのアイテムしか作れないってこと?」


 いきなりテンションの下がったジンにユノは苦笑する。


「〈錬金〉は基本的にあまり変換効率が良くないんですよ。だからもうあるアイテムを作るのは必要なのに足りないっていう時ぐらいです」

「まあ……それで稼げるならそもそも借金だってもっと簡単に返せてるよな……」

「でも〈錬金〉でしか作れないアイテムもたくさんありますよ。例えばステータスを一時的に上昇させるブースト薬とか」

「あ、それいいな。俺STRとかAGIとか足りないし」


 《執着の短剣》によって攻撃力は確保できるがAGIは本当に足りない。

 そこらのモンスターならともかく、ボスのガルレットの攻撃をジンはほとんど避けられなかったのだ。

 当たっても大して効かないから問題はなかったが、速い相手への対抗手段は持っておいた方がいいだろう。


「ただそれはこの街だと作れなくて……」

「作れない、はともかくこの街だと? 場所が関係あるのか?」

「いえ単純に素材が無いんです」


 風水をイメージしたジンだが答えは単純なものだった。


「ブースト薬の素材は物によって違うんですが、ほとんどがネクスタルより向こうの街で取れるんです。昔はここらでも取れたようなんですけど……だから申し訳ありませんがベイギンにいるままでは、ちょっと」


 『ランコス』は根本的な設定として物資や人材が足りていない。それが明確に影響しているらしい。


「そうか、じゃあしょうがないか……」

「あ、ですがネクスタルまで行ければ《スピード・ブースト》は作れますよ! ネクスタルの市場は今とても賑わっていて、いろんなアイテムが集まっているそうなので!」

「おっ、じゃあ後で俺が行って」

「いやー、素材にも品質があるので! 品質によって効果も変わるので! 目利きできる人がついていったほうがいいかと! わざわざベイギンまで戻るのも手間でしょうし!」

「……」


 わざとらしい叫び声をユノは上げる。ジンもさすがに何が言いたいのかはわかった。


「……行きたいのか」

「はい!!!!」

「声でか……」


 辺りへの配慮など吹っ飛んでいるユノの声にジンは耳を押さえる。


「いやでもお父さんまだ本調子じゃないんだろ」

「お父さんがいいって言ったらいいんですね⁉ 約束ですよ⁉」

「いや待っ……足速っ!」


 ユノは止める間もなく全力で店に戻っていった。

 住宅街に取り残されたジンは止めようと上げた手をそっと下ろして呟く。


「仲間になるNPCってみんなこんな感じなのか……?」


 今後のハーレム計画にひびが入った気がした。





 ジンはそれから数分ほど歩いてユノの店へとたどり着く。


「待ってました! さあ行きましょう!!」


 そのドアの前ではユノが動きやすい服へ着替えパンパンのリュックを背負って待っていた。


「はえーよ準備が! お父さんどうしたんだよ⁉」

「お父さんは快諾してくれました!!」

「本当だろうな⁉」

「はい、本当です」

「あ、お父さん」


 ジンの声に応え店の中からユノ父が顔を出した。


「こんばんはジンさん。この度は娘ともどもお世話になりました」

「あ、はい、こんばんは。こちらこそ娘さんにはお世話になって」


 丁寧に頭を下げてくるユノ父へジンも勢いを失う。


「あの、大丈夫なんですか? ユノがネクスタルへ行くって」

「問題ありません。僕もほとんど治っていますし、店は近所の人に手伝って貰うこともできます。それに……」


 ユノ父は苦笑してユノを見る。


「この子は言い出したら止まりませんから」

「ああ、はい」


 ユノの暴走は父親にすら諦められているようだ。

 それを言われたユノは何故か胸を張っているが。

 ユノ父は再び頭を下げてくる。


「どうか娘をよろしくお願いします」

「……わかりました。必ず無事にお返しします」

「じゃあ行きましょうか!」

「君はもうちょっと遠慮とかして?」


 こうしてジンはユノと共にネクスタルへ行くことになった。






■  ■  ■

NAME:ジン

ジョブ:《金の亡者》Lv1


▽ステータス

HP:300/300

MP:50/50

SP:100/100


STR:10

END:30

AGI:10

DEX:5

LUC:0


〈スキル〉

:〈収益〉Lv10(Max)

:〈亡者の換金〉Lv10(Max)


『所持金 45600ギル』

■  ■  ■



「うーん、レベルはやっぱ1まで戻ってるか」


 ユノと共に広場まで来たジンは現在ステータスを確認していた。

 100万ギルを支払ったことで《金の亡者》のステータスは完全に初期値へ戻ってしまっている。


「《執着の短剣》は今の所持金を参照するから攻撃力落ちてないのは幸いだな。とはいえ、レベル1でユノを守りながら森を抜けるのは……」

「一応アイテムはたくさん持ってきてますよ」


 心配されていると感じたらしいユノがリュックから《煙幕》などのアイテムを出した。


「そうだな。まあそれだけあれば……そういえば徒歩以外に移動手段ってないのか?」


 ふと気になったことをユノに質問する。

 ジンは徒歩でネクスタルまで行くつもりだったが、もうネクスタルまで一度は行ったのだ。何かショートカットの手段があれば使ってもいいかもしれない。


「え、えーと。ない、ですね。き、基本は歩いて森を抜けるのが、その、普通です」

「ユノって嘘つくの苦手だよな」

「うう嘘なんてつい、ついてませんよ?」


 いきなりしどろもどろになって目を泳がせるユノへジンは声を上げる。


「白状しろ! 他にあるんだな⁉ 馬車とか魔法の箒とか!」

「ううーっだって馬車使ったら森歩けないじゃないですか! 素材の宝庫なんですよ⁉」

「それが本音かてめーっ!! 命と素材どっちが大事なんだ!」

「素材命です!」

「上手い事言ったみたいな顔やめてくれる⁉」

「お願いします! 森に行かせてください! 森に行きたいんです!」

「千と〇尋みたいに言うなーーーっ!!!」




三十分後。




「見てくださいジンさん! あそこにあるの《煙乾草》ですよ!」

「今それどころじゃないんだけど⁉」


 ジンは森の中でオークと戦っていた。

 結局ジンがお願いを断り切れず徒歩でネクスタルまで行くことになったのだ。


「フゴォォ!」

「うるっせぇ!」


 オークが棍棒を振るう前にジンは短剣でその首筋をめった刺しにして倒す。


「ふー……あ、ドロップ」


 落ちた《棍棒》を握り砕くと、前より遥かに多いギルが溢れ出した。


「おお、流石スキルレベルマックス……さて今所持金いくらだ」



■  ■  ■

NAME:ジン

ジョブ:《金の亡者》Lv9


▽ステータス

HP:250/810

MP:50/50

SP:100/100


STR:10

END:78

AGI:10

DEX:5

LUC:0


〈スキル〉

:〈収益〉Lv10(Max)

:〈亡者の換金〉Lv10(Max)


『所持金 87200ギル』

■  ■  ■



「もう軽く8万越えてるな。レベルも9だし」


 レベルがマックスになった〈亡者の換金〉によって、草原から森まででどんどん所持金は増えて行っていた。

 レベル2で三倍、レベル3で四倍と換金額が増えていった〈亡者の換金〉だが、現在の倍率は。


「十五倍……レベル10で一気に増えたな」


 20ギルで換金できる《棍棒》は300ギルになる。

 最初より遥かに早いレベルアップと金稼ぎにジンはにやにやする。


「わーすごい! こんなに珍しいのも! あっ、あっちにも!」


 その後ろで危険が無くなったと判断したユノは森のアイテムを集めまくる。


「よーしもっと出て来いモンスター!」

「素材がたくさんー!」


 欲望に塗れた二人は楽しそうに森を抜けて行った。


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