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鎌倉千一夜  作者: Kamakura Betty
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191/220

第192夜 コンコース・ストリーム

 水面にふわりと着水した落ち葉はすぐに流れに運ばれ始める。ざら瀬ではバンプしながら、とろ場ではゆったりと姿勢を変えることなく、堰堤で急流に呑まれると暫くして浮上し落ち込みから傾斜した開きへと向かう。流れを分かつ岩に直面すると意志など働かすことなく流れに任せ漂い行く。水は低き所、遮られることのない隙間、乾き切って充満を受け入れるところへと向かう。

 横須賀線のドアが開く。乗客は物言わずエスカレータへと列を成し、コンコースの人混みの中に紛れていく。私はと言えば、出来ることならこの分子衝突のような集団へ近づきたくない意思を捨てることもできず、毎朝敵陣に乗り込む気分に襲われる。日本随一のハブターミナル東京駅。駅なのかショッピングモールなのかフードコートなのか、はたまたスクランブル交差点なのか…、何しろこのコンコースが嫌なのだ。原因はわかっている、ハブゆえに多くの常識の坩堝(るつぼ)なのだ。関東と関西ですらエスカレータの乗り方が違うし、外国で車線の左右が違うように、人の流れの捉え方が玉石混淆しているわけだ。毎日通ればあるべき動線は身につくが観光客にはそれは備わることなく、サインボードなどないまま立ち止まらず動くことを課せたれた広場にどんな秩序が生まれると言うのか。かろうじて保たれた列を斜めに縫い進む者や手引きカートの急回旋への反射神経が求められ、タッチ改札をしくじった者へ追突し、挙げ句の果ては来る者と真っ向から対峙してボクシングのスリップやサッカーのフェイントばりの動きまでをも求められ、朝からの疲労はやるせない。

 人は移動に幸せを感じ、その距離が長いほど、そして多様性や新規性が高いほどその幸せが強くなるという。駅までのルートがいくつもあり、毎日それを入れ替えることに喜びを感じるということだが、いざその駅に到着するなりいきなりその幸せが奪われ列を強いられる。その束縛に対して欲望のままに別ルートを選ぶ行為、それがコンコースの分子衝突なのだろう。動線の多様性・新規性を求めるゆえ秩序は生まれない。そこでだ、運河の出番だ。少年期、棒で持って地面に線を引き水たまりを繋げたように、コンコースが人でいっぱいになる時間だけ運河が出現する。床下からせり上がるパーテーションでも、頭上から降下するサインボードでも、もっと簡単に線を引くならロープでも。何だそんなことかと思われるだろうが、目線の低い子供や足腰の弱いシニアには急務だ。

 落ち葉が滞ることなく河口まで運ばれるには規則正しい流れや渦が前提となるが、そんなことは千変万化する自然界において望むべくもない。せめても人間界においては美しく流れることを。

 




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