手紙
それを見つけたのは日が落ちかけて薄暗くなった頃だった。薄桃色の封筒が、雨で濡れた玄関に直接落とされて、裏面が滲んで色が濃くなっている。これじゃあ文字が滲んで読めないかもしれない。
封筒には、私の名前も、住所も、差出人も、何も書かれていなかった。鼻を近づけるとクッキーと紅茶のような良い匂いがする。クッキーを焼いている間に、紅茶を飲みながら手紙を書いていたのだろうか。私は誰から届いたのかも分からない手紙を読むことにした。
濡れた傘を開いて玄関に置き、長靴を脱ぎ、濡れたスカートを脱ぎ捨てて机に向かう。薄手のニットを捲り上げて、60デニールのタイツだけになった脚を組んだ。酷い雨音。私は封筒を開いた。特に糊付けされている訳ではなく、シールも貼られていない。中の紙を取り出すと、さっきよりも濃く紅茶の匂いがした。
封筒よりもずっと薄い桃色の便箋。文字は、紅茶を思わせる色だった。
「何度もお手紙を出しているのですけど、ちゃんと読んでいただけましたか。300枚、いや、400枚? もう、最初にお誘いした日から一年以上が経っています。その間私は毎日紅茶とクッキーを用意して待っていましたが、あなたが来たことは一度もありませんでした。それどころか、お返事が来たことすらありません。私を気味悪がっているのでしょう。ご心配されなくても、私の家はあなたの友人やクラスメイトが噂する程妙な場所ではありません。至って普通の家です。あなたは、あなたを取り巻く人々の心無い噂を恐れるばかりで、一度も私の家を悪く言ったことはありませんでしたね。私はそれがとても嬉しかったのです。ですから、お茶会にお誘いしました。迷惑でしたか? でも、あなたからお返事をもらったことはありません。一度も『もうやめてくれ』と言われたことがないのですから、手紙を送るという行為自体は黙認されているかと思いました。それで、私は希望を持ったのです。もしかしたらあなたは、手紙を読むことだけはしてくれているのかもしれない……と。それから私、毎日手紙に香り付けをしているのです。手紙から甘い匂いがしたことがあったでしょう。それは、クッキーや紅茶、アップルパイの日です。香ばしいような匂いの日は、お肉を焼いた日。あなたが家に来てくださらないから、匂いだけでも届けようと思いました。一度我が家に来てみてください。本当に素敵な場所なんです。二階建ての古い家で、御伽噺に出てきそうな見た目をしています。他の方には汚い家にしか見えないのでしょう。でもあなたになら、とても綺麗に見えるはずです。場所は」
文字は滲んで読めなくなっていた。




