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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
55/107

55 メルト外伝紅の墓標36 天使

ズーン、といったような擬音さえ聞こえてきそうな様子で地面にめり込まんとするハッシュを他所にキースとガルシアはフォルダへとぶつかる。

まずガルシアが最大の攻撃を仕掛けた。

すなわち神の使役である。


「アクトゥラ!ニラス!ゲヘナ!」


通常は莫大な魔力や何らかの代償と引き換えに行使される神の力。

しかしガルシアが呼べば3柱の女神達は全ての願いを悉く、快く、無償で彼の期待に応えてくれた。

むしろそれに喜びさえ覚えながら。

それは全て愛故にである。

彼女達はまるで好いた男に何か小さなお願い事をされたような顔で応えた。


『分かったわ、愛しい人』


『何で私の名前が最後なの?最初に喚ばれたのは私なのに……私のどこがダメなの?ねぇ……』


『……後で貪るから』


個々の反応を返したものの命令の意図には従ったようで、フォルダに向かい3柱の女神達は一斉に攻撃した。

1柱は太陽のミニチュアを創り出して飛ばし、1柱は毒々しい色の弾を連続で発射し、1柱はフォルダを水の中に閉じ込めた。

それに対してフォルダは特に慌てる様子も見せずにただ一言。


フンッ!!」


その一言と共に柏手のように両の手を打ち付け辺りに漂う魔力ごと女神達の攻撃を霧散させる。


「まぁ、退いてろ。『黒猫天穿爪』!!」


キースが左手の後ろに憑く大きな一本の爪を頼りにして左手を突き出すがフォルダに籠手で巧くいなされてしまう。


「「チッ!!」」


二人は舌打ちしながらも果敢にフォルダに力を合わせて撃ち掛かり……。


「やっば勝負の邪魔だ!!先にテメェを殺してやる!!」


「冗談が下手だな!!僕達が戦ったら先に死ぬのは貴様の方だろう!!」


そして早々に協力関係が破綻し、三つ巴の戦いへと発展する。


ガキキ!!ボコォン!!


戦闘音が鳴り響き、やはり地力に優るフォルダが圧倒的優勢に勝負を進めていく。

近くに居たメルトはその戦いの余波に巻き込まれ転がって行く。

そしてその戦いが佳境へと差し掛かり始めた頃、更に新たな乱入者が戦いへと参入する。


「オイオイ……もうパーティが始まっちまってんじゃねぇか……。お前らがチンタラしてるからだぞ。合流なんてせずに俺だけ先に行きゃあ良かったぜ」


そう丘の上から現状を見下ろしながら言うのはラタである。

彼は先にこの辺りに着いていたのだが、孤児院から“本部”へと連絡し、増援の到着までニティと一緒に待機していたのだ。

そして到着した増援は僅か2名、全員合わせても5名でしかない。

魔王の大軍勢を見れば心許ないことこの上無い。

しかし、5名のどの顔を見ても敗北感とは無縁であった。

彼らとしては撃たない銃を恐れる必要などないのだ。


「そう言うな。此方もボスが2週間前から行方不明なせいで現在指揮系統にだぶつきが生じてる。これでも随分急いだ方だよ」


そう言うのは茶色の癖っ毛を持つがっしりとした青年。

しかし、背が高いせいかそれほど骨太のような印象は受けない。

その青年は言いながら癖っ毛を指で弄り、何とか真っ直ぐにしようと苦心するが、指を離すと即座にくるんと丸まってしまう為、最早処置なしとその作業を放り出した。

いつも繰り返す彼の癖だ。


「あー、何で大天才たるこの俺様がわざわざこんな王都くんだりまで足を運ばなきゃいけねぇんだよ。世界の損失だぞ?お前の方で何とかしとけよ」


そう言いながら男は片手で頭を掻きながらもう片方の手の小指で耳をかっぽじると掻き出した耳くそをフッ、と息で吹き飛ばす。

面倒臭そうに傲岸不遜なことを言い放った男はさらりと金色の髪を掻き上げた。

そんな一団の中、所在無さげな少女が一人焦った表情でラタの服を引っ張った。


「おねぇちゃんが死んじゃうでしょ!!早くしないと」


それに気付きラタが振り返るが、生来気の強い少女は譲ることなく強い意志を込めた目でラタを見返した。


「分かった。ユージン?」


ラタに問われた癖っ毛の男は短く頷くと息を胸いっぱいに吸い込み叫んだ。


「私の名前くらいは知っているだろう!!両軍戦線を停止しろ!!これよりこれを拒否する者は『エンジェル』に対する宣戦布告とみなす!!」


その澄んだ声は一瞬にして戦場へと染み渡った。

戦場に居る誰しもがエンジェルという組織、或いはユージンと呼ばれた男に何らかの反応を示した。

たった一人を除いて……。


「誰だ!?そんな有名なのかあいつら」


メルトである。

それに対してイグマは冷たい目線を浴びせかけ、ハッシュに至っても落ち込みから復活してメルトを呆れた目で見ていた。

それほどエンジェル、ユージンの二つの名はこの世界に於いて知名度を持っていたのだ。


「“あいつら”じゃない。有名なのは今叫んだ奴だけ。ホントに知らないの?説明2回目だよ?」


イグマの口振りでは以前に教えたことがあったようだ。

それでも忘れていたというのだからメルトの忘れ癖は筋金入りである。


「奴の名前はユージン・オルファウス。伯爵の妾子だけど他に男子が居ないから多分奴が継ぐだろうね。つまりは次期伯爵様って訳。刀技大会でもバレインを破って優勝してる。その時メルトも見てると思うけど……」


「ああ、アイツか」


イグマの言葉に漸く思い至ったようで手を叩くメルト。

しかしそのイグマの言葉を耳聡く聞き付けたキースが声を張り上げる。


「バレインの時に負けただけだ!今なら勝つ!!」


遠くから弾丸のように飛んで来た言葉にイグマは肩を竦めると続けた。


「とまぁ、ここまでは普通だけどユージンが普通じゃないとしたらここからだね。

ユージンは自分がある組織のボスだって公表してる」


「それがエンジェルって訳か……」


メルトが先程聞いた単語を繋げるとそれを聞いたイグマが嬉しそうに頷く。


「正解♪」


イグマは子供っぽくメルトを指差して微笑むと続けた。


「近年に出来た組織だけど成長が著しい組織でもある。何せ構成員にSS級が幾人も居るって言うんだから笑っちゃうよ。情報管理が余程しっかりしてたのか正直加入方法や活動レベルとか全く分かんなかったね。俺じゃなくてクライシュテスの暗部が、だよ」


クライシュテスの暗部が何も掴めなかった。

あの情報だけで生きているような国が、である。

これはどの道どの組織が探っても同じだったと言えるだろう。


「彼らの最終目的としては世界平和。現実的には全ての戦線を停止させることだってさ。国際的な組織としてもこれはないよねぇ……」


はぁ、と溜め息を吐くイグマに何処からともなく声が届いた。


『成る程……フリーメイソンみたいなものか』


頭に響くような不思議な声が皆に届いた瞬間キースの怒鳴り声が続いた。


「余所見すんなアラヤ!!此方に集中しろ!!」


『……いや、主よ。この姿で余所見と言われても困るのだが……』


ぶつくさ言いながらも従ったようでそれから先に声が聞こえることはなかった。


「じゃあ兎も角良い奴らなんだな」


メルトはそんな言葉で総括する。

恐らく次に同じことを話しても覚えてはいないだろう。

そんな確信を抱いたイグマははぁ、とまた一つ溜め息を漏らす。

イグマは思った。

だから俺がしっかりしなければならないのだと。


「それは見方によるかな……」


イグマは警戒は怠らない。

誰が何時裏切るかも分からないから。

そしてその警戒は現実のものとなる。


「ガルシア!バレイン!二人ともいい加減喧嘩を止めろ!!」


メルトがそう言った瞬間、辺りに響いていた戦闘音がピタリと止む。

というのも、フォルダはユージンの宣言の時点で既に戦闘を止めていたからだ。

そこから先は二人で戦っていただけに過ぎない。

全ての戦線が停止したことを確認するとラタは深く頷いた。


「すまねぇな、魔王さんよォ!!」


ラタがフォルダに向かって礼を言えば既にフォルダは後ろを向いていた。


「フンッ、お前の能力は知っている。むざむざ敵を増やす必要もない」


鼻で笑い背中越しに告げた後、レウリ達に向かって続けた。


「帰るぞ」


「うん!」


フォルダに言われ笑顔で頷くレウリ。

しかしメルトはそんなこと納得行くわけがなかった。


「待て!!」


メルトの待ったに対しフォルダは空間に開いた穴の境目に立ち後ろを振り返った。

その顔には翠の瞳が一段と鋭く光っていた。


「運に救われたな。2度と会わないことを祈ることだ」


それだけ言うと何の未練もなく穴へと消えていった……。

その後レウリが一番最初に魔王に続いて空間に開いた穴に入る。

それを切っ掛けに穴に続々と魔王軍は吸い込まれて行った……。

兵どもの夢の跡とはよく言ったもの。

ただっ広い平原には彼らが居たという証拠は崩れた城の瓦礫の山のみとなっていた。

魔王軍が居なくなったことで夕碧の全員が乱入者の方へと向き直る。


「うしっ!!次はテメェだユージン!この姿なら負けはない!!」


キースが一切の躊躇なく肩を回しながらユージンに向かって歩き出す。

無論、喧嘩を売っているのだ。

しかし、そんな横暴ハッシュが許す筈もなく真っ青な顔をしながら羽交い締めにして妨害する。


「折角魔王様が行ったんだぞ!!また喧嘩売ってどうすんだばかぁ!!」


「うるせぇ、向かって来る奴全員ブッた斬ってやりゃあいいんだろ?」


そう言いながらキースはハッシュを振りほどこうと力を込める。


「良い訳あるかぁーーー!!」


ハッシュは絶叫する。

全く油断も隙もない。

危ない所だったと胸を撫で下ろすハッシュ。

しかし、そう思うのは早計だったと後に後悔することになる。


「で、君達は何者?僕達に何の用かな?」


全ての始まりはこのガルシアの一言。

この一言が更なる混沌を招く呼び水となる。


「……そっちが聞くならしゅあねぇな。教えといてやるよ」


ラタはしょうがないなと肩を竦めて首を振る。


「ハァ!?俺様の名前を知らねぇって!?お前頭大丈夫か?」


男は頭をトントンと叩きガルシアの頭の具合を心配する。

そしてその後男は自らを示すために右腕を天高く掲げた。


「この俺様はこの世に生まれ落ちた時から既に天才!!

神に全てを与えられ天上天下唯我独尊を地で行く男!!

宇宙の全てが俺様を中心に回り、宇宙の全てが俺様に平伏す!!

学術院に行けば軽〜く歴代一位!!

魔法を使えば6属性全持ちのパーフェクトウィザード!!

剣を持てば剣聖すらも下に敷く!!

この年で精霊魔法をマスターし!!

対戦成績全戦全勝!!

まさに世界の大天才!!

そんな俺様の名は!!

エンジェル四番隊『天才(仮)』隊長ジーン=アイアスだ!!」


ジーンは高らかに名を宣言すると腕を目一杯広げて自らを大きく見せる。

その大袈裟な仕草に――学術院歴代二位だった――ガルシアはピクリと眉を動かした。

そしてそのジーンの隣でラタは自らの拳を胸の前で受け止め割とノリノリで自己紹介をした。


「天が、地が、海が、人が呼ぶ。

皆が助けてくれと俺を呼ぶ!

皆の笑顔を護る為!!

大きな悪から小さな悪まで、俺が等しく撃滅するぜ!

通りすがりの正義の味方!!

エンジェル二番隊『STARDUST 』隊長!

『天使の尖兵』ラタ!

推参!!」


ビシッ!!という幻聴が聞こえてきそうな程見事にポーズを決めるラタ。

そんな二人の姿にユージンは癖っ毛を弄り(顔を隠し)ながら言った。


「誰が場所を変わってくれないか……。コイツらの知り合いに思われたくないんだが……」


ユージンのその声は喉から絞り出すような声であり、とても切実そうだった……。

しかしその声は誰にも届くことはなく、忘れ去られたように混沌の中に紛れていってしまう。

そしてそんなことが何もなかったかのようにメルトが核心的な質問をする。


「で、結局何の用だ?」


メルトの頭では現在何が起こったのか分からなかっただけだが、現状実に会話の修正に適した質問である。

そのメルトの質問にラタはコホン、と一つ咳払いをすると答えた。


「その前に一つ質問に答えろ」


そう切り出したラタの顔は先程とは打って変わって真面目な顔だ。


「何だ?」


ラタの神妙な雰囲気を感じ取ったのかメルトも真面目に返す。

そしてラタの口から場を凍らせる一言が飛び出す。

「トルダはどうした?」


「ッ!」


メルトは言葉に詰まり、一瞬チラリと瓦礫の方を見る。

その一瞬の動作が全てを物語っていた。

トルダは未だあの中であると


「嘘……おねぇちゃん……」


ニティもその意味に気付き愕然とする。

ヨタヨタと瓦礫の方に歩み寄り2、3個瓦礫を退かすが、その大きさに絶望し、声を上げて泣き始めた。


「やっぱりな……ったくチンタラしてるから……クソッ!」


ラタはその姿を見て苦虫を噛み潰したような顔をすると続けた。


「最初はトルダを助けるつもりで来たが作戦変更だ」


ラタはメルトの質問に答えを提示する。

メルトをビシッ、と指差して言った。


「メルトと言ったな。俺はお前を悪と断じ、断罪する。悪党退治は正義の味方の仕事の一つだろ?」


ラタはメルトを弾劾した。

そしてそれは新たなる衝突の始まりだった……。



ジーン=アイアスとラタの口上めっちゃ時間掛かった。

何て面倒臭い奴ら……。


うん、後関係ないけど友人との空気感が最悪になった。

今年のクリスマスはこの空気を和らげる何かが欲しい。


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