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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
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54 メルト外伝紅の墓標35 魔王軍襲来

メルトは拳を振り上げフォルダに叩き付ける。

フォルダは二人を背負っているせいで両手が使えない。

蹴り飛ばす等すればまだ方法があるが、フォルダはそれを避けることはしなかった。

構えもせず、ただ拳が迫るのを見ていた。

間違いなく当たる筈だった拳。

しかし、それが当たることはなかった。

当たる前に防がれたからだ。

まるで二人の力の差を表すように……。


拳がフォルダに当たる直前に、人影がフォルダとメルトの間に割り込んだ。

そしてその人影がメルトの拳を受け止める。


バシィ!!


その男が置き去りにして来た空気抵抗が、止まったことでソニックブームとして炸裂する。


ボウン!!


強風を呼び込んで顔を腕で守っているメルトに向かい、その男は言った。


「陛下の御前だ!!控えろ!!」


その男は人懐こいような顔を持ち、銀の髪を整髪料か何かで後ろに撫で付けたオールバックの髪型をしていた。

体型はシュッとしており、高そうな金色の鏡のような鎧の上に絹のようなサラサラとした高そうな布地でフード付きの羽織を着ていた。

そのフードには何か入っているようで、何故か膨らんでいる。

その羽織の背には幾つもの輪が重なるように描かれた七宝繋ぎと呼ばれる精緻な紋様が入っており、男の地位が窺われた。

到着後直ぐ様吠える男にフォルダは首を傾げる。


「おい犬!お前は城に居た筈だ。どうやってここに来た」


自らでさえPSを利用してかなりの時間を掛け来たのだ。

その自らと同等のスピードで来たということは裏を返せばそんな方法が存在するということになる。

国防上見過ごせる問題ではない。

目の前の男に犬と呼び掛けるが男は気にするどころかむしろ嬉しげに振り返ると片膝をついた。


「ハッ!このハウンド=グレイ。陛下を御守りする使命を果たす為!身を粉にして……」


尻尾すら幻視できるような態度で嬉しそうに要領を得ない説明をするハウンドにフォルダは苛ついたのかチッ、と舌打ちをする。


「耳に何か詰めているのか……。どうやって来たと聞いている……!」


怒りを抑えながら問うフォルダに返って来た答えが……。


「走って参りました!!!!」


笑顔で恐ろしいことを口走るハウンドにフォルダの口はひきつった。

空を飛んだ自分と同じ速度で地上を走って来たのだと言うのだから最早笑う他ない。


この男の名はハウンド=グレイ。

四天王直属下部組織である近衛隊。

その上位七名を七宝と呼び、その内の『銀』の名を冠する男である。

その速度は魔人中最速であり、フォルダすら凌駕する。


「……忠勤ご苦労」


皮肉も通じないハウンドにひきつった笑みで礼を絞り出すフォルダ。

如何に近衛隊の主たる任務が王の守護だからといってもこれはない。

ハウンドのせいで何か被害が出なかったかと、フォルダは心配で堪らなかった。

しかし、ハウンドはそんな表情の機敏を読めるような男ではなかった。

その笑みを単純に自らの忠勤に対する笑みだと勘違いし、心の奥底より沸き上がる歓喜の念を噛みしめていた。

その顔を一言で表すならくぅー、生きてて良かったのそれである。


「(陛下は上機嫌で居られた……。男子の本懐、これに優る喜びはない……ッ!)」


ハウンドが感激しているとハウンドの羽織のフードの中に入っていた何かがひょこっと“立ち上がった”。


「あいかわらずはやいなぁーはうんど。こまっちゃうなぁ〜」


その何かはそんなことを言いつつハウンドが片膝をついた姿勢から動かないのを良いことにぺちぺちとハウンドのオールバックのせいで露となっている額を叩く。

好きに弄られているハウンドの額にはビキリと青筋が立った。

その何かとは人であった。

それも4、5歳の女の子である。

茶褐色の髪と目の色をしたくりっとした目が特徴的な可愛らしい少女だ。

少女の名前はレウリ=アゲット

最年少の軍人であり、少女の着る羽織が示す通り七宝の一員でもある。

彼女の冠する宝石の名は『瑪瑙』。

こんな子供でも魔王軍の幹部の一人だ。

そんな幹部は小さく、ぷにぷにした手のひらをにぎにぎする。

どうやらハウンドの整髪料のせいで汚れてしまったのだろう。

自らのてかてかした手を見てレウリはくっ、と口を真一文字にした。


「ばっちぃー」


そう言うとレウリはその手をスッとハウンドの羽織で擦り付け、整髪料の油を落とす。


――プツンと何かが切れる音がした。


「陛下ぁ!!」


今まで眉間に皺を寄せまくっていたハウンドがいきなり叫ぶと濁流の如く喋りだした。


「陛下!魔王軍に於ける年齢制限を考えた方が宜しいかと思います!その方が軍に規律を求められますし、子供に戦争をさせるのは控えた方が宜しいかと思います!」


そして暫く喋ったハウンドは急に渋い顔をするとフォルダの返事を待たず全力で謝罪した。


「申し訳ありません陛下!嘘を吐いてしまいました!!コイツキライです!止めさせて下さい!!」


あまりにも大人気なく叫んだハウンドの言はレウリの耳にもしっかり聞こえていた。

そしてレウリは重要な部分は聞き逃しつつビッ、と人指し指を立たせると言った。


「うそついたらいけないんだよ。はうんど、めっ!」


みちっ。


何処からともなく何かがひしゃげるような音が響きハウンドの眉間にあった皺は更に深くなった。

陛下、と目で問うハウンド。

ハウンドのド直球な要望に今度渋い顔をしたのはフォルダだ。

彼としては能力の相性の関係からいつも割りを食うハウンドに申し訳なくなく思っているが、こればかりは容認することは出来ない。


「魔王軍は方針として完全能力主義だ。能力のある者を本人が望まぬ限り止めさせることは出来ない……。………………………すまんな」


フォルダが最後にボソッと謝るとハウンドは滅相もないと首を横に激しく振った。


「いえいえ、陛下!僕の方こそ無茶な提案をしてしまい申し訳ありませんでした!」


慌てて平伏するハウンドに何時もの調子を取り戻したフォルダは二人に向かって命令する。


「丁度良いところに来た。この役立たず共を連れて下がっていろ」


ドサドサと肩に背負った二人を下ろすとエドガルの方を顎で示す。

それに対しハウンドは一瞬フォルダの身を心配するがそれを忠誠心で叩き潰す。


「ハッ!」


小気味良い返事と共に行動を開始しようとした。

しかしそこに待ったが掛かる。


「待てよ……」


メルトだ。

メルトは目まぐるしく変わる状況に口を出せずに居たがフォルダのその一言だけは聞き逃せなかった。


「“役立たず”ってどういう意味だよ……」


自らの部下を捨て駒のように吐き捨てるフォルダに対しメルトは義憤に燃えた。

メルト達に死に物狂いで挑んで来た彼らの想いがその一言に踏みにじられたような気がしたからだ。


「あいつらはッ!お前の為にって……俺達と戦って!!お前の為ならって死んでった!!お前が嘘でもよくやったって、ありがとうって、言ってやらきゃあいつらの想いは無かったことになるんだぞッ!!仲間はお前の道具じゃない!!」


メルトは縁も所縁もない先程会ったようなばかりの者達の為に怒る。

自分の仲間をまるで道具か何かのように使い捨てる魔王は仲間を何よりも信頼するメルトにとって心底許せなかったからだ。


「この者!!陛下に対しなんたる無礼だ!!道具で在れればどれだけ良かったことか……ッ!陛下!この者の討伐許可を!」


そんなメルトの言葉を聞いたハウンドは怒りにうち震え、フォルダに殺害許可を求める。

無知なる者の不粋な一言程神経を逆撫ですることもない。

聞くに耐えないといった感じだ。

しかしフォルダは何とも思ってないかのようにいつもの如く人を見下したような顔を崩さない。


「2度も言わせるな、役立たずが」


フォルダはメルトに言われた言葉遣いを一切直すことなくそのまま使う。


「お前らは後ろに引っ込んで木偶の坊らしく帰り道でも創っていろ。直ぐに終わらせる」


その言葉にハウンドは犬並みの忠誠心でグッと怒りを抑え込み3人を連れ、レウリと一緒に後ろに下がった。

そうしてレウリが両手を広げ大きな声で言った。


「ぐるぐるどあぁ!」


レウリが言った途端、大きな円が空間を切り取ると青色の異次元空間が表れて魔王の城に繋げる。

そうレウリの技であるぐるぐるどあぁは今居る空間と予め登録していた空間とを繋げることができるのだ。

因みに小さいあまでが正式な技名である。

そしてこの空間魔法こそが少女にして七宝の地位を許されている理由だ。

彼女は魔人国で唯一空間魔法を使用出来る。

これは世界的にも珍しく、空間魔法が使用出来るのは現在世界で二人しか存在しない。

そして開いた空間を繋げる穴からぞろぞろと魔人達がこちら側に侵入してくる。

その内情を見てみれば四天王、副官、他の七宝、近衛と実に豪華な面々だ。

どうやら穴が開くのを今か今かと待っていたらしい。


そのぞろぞろと出てきた面々を見ながらハッシュとイグマは震えていた。


「アレは絶対ヤバいね……」


誰にともなく呟いたイグマの言葉をハッシュは耳聡く捉え質問する。


「そんなにか?確かに数はちっとヤバいけど親衛隊とかいう奴らは倒したじゃん。どちらかと言えばそこで戦ってる神様とか魔王とかの方がヤバいだろ」


いつもなら騒ぎ倒すだろうハッシュはいつになく冷静沈着である。

というのも先に神様だとか魔王だとかいう常軌を逸した奴らが登場したせいで一時的にキャパティシーが崩壊しているのだ。

そのせいで穴から出てきた面々があまり強そうにも思えなかったのである。

そんなハッシュに対してイグマはあくまで暗部で聞いた話だけど、と前置きしてから話始めた。


「確かに親衛隊もヤバかったけど、それは戦闘能力とかの話じゃなくて人体実験とか頭が飛んでるって意味だ。正直戦闘能力だけみたら大したことなかっただろ?」


イグマはさも簡単だったとでも言うような気軽さで聞いてきたがハッシュとしては冗談ではない。

あんなのが簡単であって堪るか、と強く抗議したかった。


「いや、俺死にそうだったんだけど……」


主に精神的に、と心の中で続ける。

女装だのフレンドリーファイヤなどろくなことがなかった。

本っ当に世の中腐ってる。

しかしイグマはハッシュの言葉を思いっきり無視して話を続けた。


「彼らは人体実験する前は本来上位魔人ですらなかった。流石に雑兵よりは強かっただろうけどそれだけだ。幾ら後付けで力を貰っても使いこなせなければ“本物”には劣る。

まぁ、軍事的にはそっちのが正しいけどね。実際驚異だし。

副官側の派閥は軍事的に全体の能力を底上げしようとしてたから親衛隊がああいう特色になったけど、四天王側の派閥はさっきの話で言えば“本物”思考だ。謂わば近衛隊は化け物達の巣だね。上位魔人どころかそれを越えた奴らがゴロゴロ居るよ。2代の魔王様に及ぶ完全能力主義も後押しして個人戦闘能力は異常と言って良いレベルだね。

参考程度に言えば驚異度は七宝がS、四天王がS+副官のロレックさんがSS位かなぁ。まぁ、同じ階級でもピンからキリまであるからあんまり参考にはならないけど。其処で戦ってる神様達と四天王が1対1で戦ったら四天王が勝つだろうし」


イグマの口から紡がれる衝撃的な事実の数々にハッシュは口をあんぐりと開ける。

今更ながらハッシュの背中に冷や汗が流れる。

慌ててメルトを止めようと駆け出すが、それは1歩も2歩も遅かった。


「オメガ、コイツを倒す。力貸せ」


「分かった私の力を上手く使えよ」


メルトとオメガの二人は短い会話を交わすと、目映い光と共に再び一つになった。

そのままメルトは豪魔の巨腕を使いつつ飛び掛かるがフォルダにあっさり受け止められてしまう。

そしてそのまま右手を振り上げ、メルトに狙いを定める。

フォルダのそのなんでもない一撃は今のメルトにとっては致死の一撃だ。

それほどの力の差が二人にはある。

そしてその致死の拳が振り下ろされようとしたその時。


バシィ!!


「おい、何のつもりだテメェ。潰すぞ」


「僕に喧嘩を売るからにはそれなりの報復を覚悟してるんだろうね」


二人の男が割って入る。

キースは振り下ろされた拳を受け止め、ガルシアはメルトの拳を受け止めたフォルダの腕を握り潰す。

先程まで殺し合いをしていたとは思えない息の合ったコンビネーションだ。


「おい、ちょっと詰めろ、狭いだろうが」


「僕に命令するとはいい度胸だ。そのバカなことしか言わない口を縫い付けてやろう」


「上等だ。コイツより先にテメェを真っ二つにしてやる」


二人の中の悪さはそのままのようだったが。


「喧嘩売っとる……。間に合わなかったか……」


間に合わなかったと土下座の形で落ち込むハッシュ。

しかしふとあることに気付いたハッシュは疑問の声を上げる。


「あれ?人数減ってない?」


より正確に言えば柱数か。

ガルシアが召喚したのは計5柱の筈だが、ここに居るのは3柱だけである。

迷彩柄の自衛隊が着るような軍服を着た金髪幼女と車柄の夢見帽を被ったパジャマ姿のデキる秘書のような女性の2柱が居ない。

ハッシュがそのことを伝えるとキースはああ、と何でもないことのように言った。


「ああ、軍神は俺が戦う資格がないだとかふざけたこと抜かしやがったから真っ二つにしてやったら蒸発した。眠神は無力化してどっかその辺に転がした」


キースが指差した方を見ればパジャマ姿の女が麻痺しているのか白目を剥いて昏倒していた。

その姿に真っ青になったハッシュはキースに掴み掛かる。


「てめぇぇぇえええ!!只でさえ魔王に目をつけられてんだぞ!!その上何神様にまで喧嘩売ってんだよ!」


「売られた喧嘩を買っただけだ」


済ました顔でしれっと言ったキースにハッシュの怒りは更に募る。


「状況考えろばかぁ!!祟られたりしたらどうすんだ!!」


「俺の目指すは因果、や運命を個人で引っくり返すような最強。そんときは呪いごとブッた斬ってやるよ」


「全然安心できねーーーーっ!!」


ハッシュは天に向かって叫ぶ。

それでエネルギーを使ったのか今度は地面に突っ伏した。


「あー、もう魔王に狙われるし神には祟られるしお先真っ暗だぁ」


ハッシュの嘆きは止まらない。

友達と会話中、廊下を通った先輩が摩擦力についてや回転のサムシングについて話合っていた。

その友達と今のは普通の一般人の話じゃねぇなと笑い合った。

そして私達はメルトがこのまま帰ったらクエストクリアになるかどうかというごく一般人の会話を餓鬼一人の命なんてどうだっていいだろとかの普通の語句を使って会話した。

極普通の会話だった。

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