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砂嵐から回復した航空機が対空砲火を黙らせるとヘリコプターと夜戦連隊がテヘラン南東地区に突入した。
「各分隊ごとに家を捜索、狙撃手等を討伐しろ。明朝には機甲部隊が突入する。それまでに南東地区を制圧するのが俺達の仕事だ。」
分隊に二基の赤外線ライトがあり、全員が暗視眼鏡をつけている。
「第三分隊は左の家を捜索、俺達第一分隊は右の家を捜索、残りは待機。」
第一分隊の先頭に立ち左手に赤外線ライト、右手に自動拳銃を握って高濱少尉は部下の中田一等兵が扉を開けると赤外線ライトを照射した。それを兵士たちの暗視眼鏡が捉える事によって暗闇での戦闘をスムーズに行えた。赤外線に照らしだされた敵はいなかった。その時表で銃声が聞こえた。
「二階も見るぞ。」
小声で部下に伝達すると赤外線ライトを階段に当てて部下を先行させた。そのあとゆっくりと階段を上がる。二階の廊下の突き当たりの部屋、表通りに面する部屋の扉を静かに開くと目の前にソ連製の57mm速射砲とその砲兵がいた。もしこれを発見できなければ明日の攻撃の先頭戦車は破壊されて表の対して広くない道路を塞いで味方の進軍を妨害するところだったろう。だが現実はそうは行かなかった。すぐさま砲兵を射殺すると窓から表通りを見た。全員が警戒態勢を敷いて第四分隊の松田二等兵が担架の上に横たわっていた。
「何があった?」
高濱少尉は窓から身を乗り出した。次の瞬間、銃弾が頭をかすめた。暗闇でも目が利く、もしかしたら暗視眼鏡だけもってこちらの持つ赤外線ライトを狙ったのかもしれない。
「狙撃手!狙撃手がいるぞ!」
無線に向かって怒鳴った。ヘリコプターは普段ロケットなどを吊るす兵装架に大型の赤外線ライトをつけ、全搭乗員が暗視眼鏡を付けることによって夜間の機銃掃射も行いやすかった。
「くそっ、なんでもかんでも俺たちだよりとはな。」
陸軍航空隊で襲撃機乗りを目指していたが空軍の設立によって多くの搭乗員が移動するなか陸軍に残ったベテランパイロット井口一飛曹は操縦桿を倒して狙撃手を探索する。今回は兵装架に赤外線ライトを装着したため兵装は機首の二〇ミリ機関砲が一門と左右のドアガンである二丁の汎用機関銃のみだった。
「あれみろ!90mm対戦車砲だ!」
「なっ……。」
ドアガン射手の松井一等兵は驚きの声を噛み殺した後汎用機関銃をその家の屋上目掛けて乱射した。
「で、狙撃手を排除しろとか言ってたが……。」
元々特殊部隊のヘリコプターパイロットをしていた井口にとって元上官である高濱少尉の頼みは断りづらい。
「探せ!」
赤外線暗視装置が全ての家の屋根を舐める様に捜索していく。報告のあった方向に飛んでいく。
「機長!右手の家を!」
それを見て井口は驚いた。そこには迫撃砲二ないし三門、対戦車砲二門、そして狙撃手かと思わしき歩兵が二名いる。今までの航空偵察は何をやっていたのかと歯ぎしりしたくなる思いを必死にこらえた。
「夜戦連隊へ、こちら垂直離着陸機、敵火力拠点を発見、支援砲撃を願います。」
「こちら夜戦連隊司令部、残念だが座標がわからないため砲撃は行えない。機銃掃射で潰すことは不可能か?」
「やってみます。」
無線を切ると二〇ミリ機関砲を敵陣地に向けた。
「行け!」
機体が反動で揺れる。ドアガンも撃っている。
「ふう、離脱するぞ。」
井口は燃料計を確認すると帰投した。夜が明けると第十九機甲師団の円筒陣にも綻びが生まれていた。だがそんなこと気にせずにテヘラン中央に向けてありったけの自走砲を掻き集めて砲撃を行うと同時に機甲部隊をテヘラン中央に向けて進撃させた。昨夜の戦闘に従事した第二夜戦連隊も同調して攻撃に参加した。時を同じくして残った牽引砲とインド機械化歩兵二個師団は第十九機甲師団を救出するために動いていた。
「撃て!俺を援護しろ。」
セミオートで銃弾が飛んでいく。小平の宮殿の入り口の門の哨所の屋根の上に登ると高濱少尉は旭日旗を掲げた。
「続け!」
中戦車が門を破壊して入っていく。報道官が写真をとった。高濱は哨所から飛び降りた。その日のうちにテヘランの残敵は殆ど降伏した。その夜小平は宮殿内の地下壕にて自決し、翌朝には摂政の小平を失ったシャー国王が無条件降伏を受諾して中東戦線は終わりを迎えることとなった。
台湾ではガランビの砲台も陥落し、北部に向けての進軍も四重の防衛線のうち二つを突破した。栗林は第一、第二の残兵と予備兵力を投入して半地下式の防衛線を第三、第四の間に造らせて高砂義勇隊と東部の山脈から撤退してきた砲兵に台北市街地外縁に沿って最終防衛線を築かせて新たに四重に防衛線を敷いた。街道を南下してきたアメリカ兵を待ち受けるのは機関銃と対戦車砲だった。同盟軍は戦歩分離から各個撃破という戦法を忠実に守っていた。
「テエ!」
128mmの対戦車砲から対戦車榴弾が放たれた。
「敵戦車撃破!」
「歩兵撃ち方始め!」
機関銃が火を吹いた。薬莢がすざましい勢いで排出された。敵兵がばたばたと薙ぎ倒されていく。台湾戦初期から繰り返されてきた光景だ。ナパーム弾などの爆撃や艦砲射撃、時には毒ガスすら用いて日本軍陣地を潰しにかかっていた。キルレシオは4:1位で日本軍が優位にたっていた。更に車輌等の物資の損害を入れると平均して日本兵百名を殺すか無力化する間に四百名近い兵士、戦車3両、重軽問わぬ野砲二門、その他の車両14両、砲弾約八十発、大小の爆弾二十一発を消費した。余りに採算に合わぬこの戦いに加えて夜間の高砂義勇部隊の襲撃も盛んに行われた。多い夜だと三方向から浸透戦術で陣地に侵入して物資を焼き払ったり時限爆弾を仕掛けたりしていた。夜な夜な行われる105mm榴弾砲による安眠妨害を狙った砲撃も米兵に心理的な負担をかけさせていた。米軍は南東飛行場を手に入れてそこから戦略爆撃機を沖縄、九州、中華民国へと渡洋爆撃させたがいずれの箇所でも激しい迎撃に晒せれた。さらに米軍は同盟軍の一大油田地帯のインドネシアに対する本格的な侵攻を予定していた。今までは潜水艦による封鎖と爆撃が主な攻撃手段だったが陸軍による本格的上陸に切り替えた。一方同盟諸国の首脳はテヘランにて会談を行った。参加者は俺、宮本、岡の同盟三大国の元首、イギリス地中海軍団司令のモントゴメリー元帥、ドイツアフリカ方面軍総司令官ロンメル元帥、ドイツ中東軍団総司令官アルニム元帥、同盟ヨーロッパ南西戦線最高司令官マンシュタイン元帥、同じく南東方面軍総司令官グデーリアン元帥、亜細亜西太平洋同盟第三方面軍総司令官今村元帥、北太平洋戦線司令官小沢治三郎元帥、南太平洋戦線最高司令官ロイル元帥、大西洋艦隊司令長官フレーザー元帥、日本陸軍参謀総長梅津元帥、ドイツ軍参謀総長ルンドシュテッド元帥、イギリス軍参謀総長ブルック元帥とそうそうたるメンバーによる今後の戦略作戦会議であった。会議の口火を切ったのはマンシュタイン元帥であった。
「我々南西戦線ではスペイン、ポルトガルへと攻め込みそこからモロッコへ上陸、エジプト方向のドイツ、イギリス両軍と敵を挟撃、チュニジアからシチリア島を経て南部よりイタリア半島を攻略したい。ついてはグデーリアン元帥の南東方面軍はオーストリアにて反撃を実施し、早急にイタリア北東部よりイタリア半島に攻め行って頂きたい。」
「待たれよマンシュタイン元帥。我南東方面軍は現在ウィーンにてパウルス大将率いる第十六軍が敵の包囲下にある。この包囲を解いて更なる反撃に転ずるため現在部隊を整備中である。さらに言えば簡単にモロッコ上陸というがそのようなことが可能なのか。」
グデーリアン元帥が反論する。
「先のビスケー湾海戦にて同盟艦隊は敵艦隊に多大なる損害を与えて欧州沿岸の制空海権は保持しておる。スペイン陸海軍はビスケー湾海戦及びこれまでのヨーロッパ戦線にて大きく損耗している。現在、フランコ将軍率いる部隊がマドリードより北東地域を放棄してマドリード近郊に防衛線を敷いている。爆撃で兵力を削り、その間にリスボンへ上陸、セビーリャと南部の拠点を潰しマドリードを孤立させれば良い。非公式ルートだがポルトガルは講和を求めてきている。ならばその講和を受諾してスペインを攻略すべきである。」
マンシュタイン元帥の爆弾発言に全員が息を呑んだ。
「それでポルトガルの講和条件は?」
俺が質問する。
「はっ!領土変更、同盟側としての参戦義務、賠償金が無ければ良いと。」
「では我軍のポルトガル領内の通過は許可したのだな。」
「はっ!そのようであります。」
俺は岡と宮本を見た。
「ポルトガル講和は高度に政治的な問題でもある。一旦ポルトガル講和の話は保留だ。で、マンシュタイン元帥の作戦は実行可能なのか?大西洋艦隊司令長官のフレーザー元帥。」
「はっ!大西洋艦隊は現在アフリカ方面に戦艦四、正規空母四、軽空母二とその他補助艦艇三十余りが派遣可能ですがそれ以外は米国の攻撃にも備えないといけないので廻せません。」
「ふむ、マンシュタイン元帥はスペイン侵攻後スペインで待機すべきだ。ルンドシュテッド元帥、ドイツ軍をはじめとして現在ヨーロッパにおける連合軍の予備兵力のうち南西に割けるものはないかね。」
「はっ!フィンランド軍とデンマーク軍が南西方面軍に増援として派遣された他にドイツのss二個軍も派遣されました。」
「グデーリアン元帥、南西戦線での反撃は可能であるか。」
「兵力は不足していませんが練度と指揮系統の混乱がありまして今しばらくは時間が欲しいところです。」
ここで岡が話に割って入った。
「ところで太平洋戦線はどうなっている?欧州で勝っても太平洋で負けたら意味が無い。」
小沢治三郎が答える。
「はい、北太平洋に置きましては現在マリアナとマーシャルを放棄、台湾で防衛に入っています。」
縦4m、横6mの世界地図を指しながら続ける。
「台湾では飛行場を奪われており空襲が各地に行われていますが空軍の迎撃により損害は軽微です。小笠原に第八潜水戦隊、硫黄島に戦闘機連隊を送り迎撃にあたらせているため当分は小笠原への侵攻は考えにくいと思われます。」
小沢が一息に話すとロイル元帥が後を引き継いだ。
「南部太平洋ではニューギニア、ソロモン諸島にて戦闘が繰り広げられており我軍は劣勢です。オーストリア海軍潜水艦がマリアナ、マーシャルからフィリピン方向へと艦隊が向かうのを確認しました。おそらくはインドネシアへと差し向けるのだと思われます。」
地図上で実際に米軍を表す赤い駒をインドネシア方向に向けた。その先には同盟の主要海路であるマラッカ海峡があった。もしここが機雷で封鎖されたらインド洋派遣艦隊を太平洋に呼び戻すのが遅れ戦争継続に支障がでる。そのため主に機雷施設を担う航空機、潜水艦を迎撃し、万一機雷施設が行われた場合に備えてスマトラ島、ボルネオ島、シンガポールには戦闘機隊、対戦哨戒機隊、掃海艇隊、海防隊が駐屯して日々警戒に当たっていた。
「そうか、で梅津君、インド洋派遣艦隊はいつ太平洋へと戻せる。」
俺は聞いた。
「マラッカ海峡の封鎖がなければ1ヶ月後には戻せると思います。」
「すぐに取り掛かってくれ。」
「はっ!」
「では今後の大まかな流れを確認しておこう。まずヨーロッパとアフリカは英独主導で連合軍を叩く、その間に太平洋にて日本主導で米海軍を疲弊させる。それが終わり次第に米国を東西から挟撃する。これで間違いないな。」
念を押したところ全員が沈黙で肯定してくれた。
会議の翌朝、インドネシアのボルネオ島沿岸部を航行していたのは日本海軍海防艦の波104だった。海防艦と言う名だが波級海防艦は連装魚雷発射管一基を艦首と単装対艦誘導噴進弾一基を艦尾に備えた対艦兵装、ヘッジホッグ一基、両舷に七式対潜魚雷落射機を一基ずつと艦尾に五式爆雷投下軌条が一基からなる対潜兵装、20mm機関砲単装一基からなる対空兵装、そして九三式中戦車から流用した5cm砲を浮上時の潜水艦攻撃用として、そして磁気探知機、対空電探、対艦電探、ソナーからなる探査機器を備えた五〇〇トンの水雷艇と対潜哨戒艦の性格を併せ持った船であった。七式対潜魚雷は新たな同盟軍の対潜兵装の主力となりつつあり落射器を搭載すれば旧式の艦からも投下でき、又航空機でも使用できた300kgの魚雷である。実際に峯風に搭載された本魚雷はアメリカ海軍のガトー級を仕留めており、台湾、沖縄間に出現した米潜水艦四隻の撃沈も報告されている。
「二式大艇より入電!我浮上中ノ潜水艦発見セリ!位置ハマカッサル海峡バリクパパンヨリ東へ200km地点、至急対潜艇ノ支援ヲ求ム。以上です。」
「ここからすぐではないか。よし、総員戦闘配置につけ!機関全速!」
波を蹴散らして前進する。
「このあたりです!」
しばらくたった後航法士が報告してくる。
「水測士!ソナーに引っかかったら教えろ。よく聞けよ。」
「潜望鏡らしきもの視認!五時の方向距離七百!潜望鏡消えました!潜航した模様。」
「面舵いっぱい!水測士!一回だけピンガーを打て。」
コーンとアクティブソナーの音が海底に響きわたる。
「距離四百、深度六十程かと!」
続いてパッシブソナーに切り替えて音源を探る。
「推進軸二基、速度三ノット!」
「対潜魚雷発射用意!」
落射器に対潜魚雷が装着される。敵潜水艦がいると思われる方向に艦首を向けると艦長の小野島中尉は命令を下した。
「対潜魚雷発射!」
海に投げ落とされた魚雷が潜っていく。
「前方爆雷投射用意!」
「後方爆雷投下用意!」
部下が二つの命令を復唱する。
「前方用意よし!」
「後方用意よし!」
「水測士、当たったか。」
「いえ、外れたようです。」
「もう一回ピンガーを打て。」
カーン!直ぐに音が返ってきた。
「距離百!深度四十!」
「前方爆雷投射機投射!」
復唱と共にヘッジホッグから爆雷が放たれる。
「後方爆雷深度四十!艦回頭180!」
「爆雷深度設定よし!」
「前方爆雷命中なし!」
「回頭よし!」
「爆雷投射!水測士は耳を保護しろ。現在潜水艦がいると思われる座標を中心に旋回しろ!」
続いて盛大な水柱が立ち上がる。だが残骸は浮かんでこない。
「水流が収まり次第ピンガーを打て。」
カン!すぐに返ってきた。
「二時方向深度二十!」
「魚雷発射!」
左舷側の魚雷が放たれた。
「敵艦浮上中!」
「対艦兵装を左舷に向けろ。」
「敵艦浮上!魚雷敵艦艇をロスト!」
「拿捕しよう。」
小野島中尉は鹵獲する決断をくだした。
「敵艦に告ぐ、我々は海防艦波104である貴殿らはさでに魚雷、砲、噴進弾が向けられている。速やかに投降せよ。」
「こちら米海軍潜水艦バッドフィッシュである。貴殿らの御申し出を受けて速やかに投降する。捕虜としての扱いを期待する。」
「こちら波104、駆逐艦が到着するまで浮上して操艦に必要な兵士以外甲板にて待機せよ。」
「了解した。」
もう一隻の海防艦が到着すると二隻でサンドしてバリクパパンに連れていった。その翌日大艦隊が電探に捉えられたのであった。
まだ急がしい日が続きますがほそぼそと書いていきます。ネット小説大賞に応募しています!感想、ブクマ、ポイント評価よろしくお願いします。




