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イラン軍の退却を上回るスピードで同盟はイランの領土を占領していった。圧倒的な事前砲撃、そして機甲部隊が機械化歩兵を伴って前進、抵抗が激しければ海軍か空軍の六式陸攻が襲いかかって仕留める。それの繰り返しでイランの領土を確実に狭めていった。九月三日には第22軍はペルシャ湾へと到達し、ドイツ軍よ一週間後にはバグダッドを占領した。イラン軍は戦線を縮小して防衛を図ったが同盟軍機甲部隊が退却する部隊もろともその計画をぶち壊した。その頃英仏では世界各国のスパイが入り込み、熾烈な諜報戦が水面下で繰り広げられていた。日本はイギリス駐在武官の大町中佐、ドイツ駐在武官の新村少佐がスパイマスターとなって欧州各国にスパイ網を作り上げており、そのうちの一部は佐藤の個人秘書にまで及ぶほどの影響力を誇り、イギリスに送り込まれているフランス諜報員のリストとコードネームすら入手した。これは佐藤の無用心の結果でもあったがこの中の一部のスパイを意図的に消したリストをイギリス政府に渡した。リストのスパイは直ぐにMi5に捕らえられ、リストから削除したスパイは日本のスパイが拉致し、二重スパイにしたてあげた。更にノルマンディーへの上陸を悟らせないために大規模な欺瞞作戦を行った。欺瞞作戦としては別の上陸地点をフランス軍に思い込ませることが主目的であり、別の上陸地点候補としてはノルマンディーにほど近い港であるパ・ド・カレーとフランスの西海岸にあるサン=ナゼール、スペインのヒホンが候補に上がったがヒホンは現実的ではないという理由で却下された。パ・ド・カレーと正対するカンタベリーには英第二軍集団、ノルマンディーに正対するポーツマスには同盟大西洋方面軍、そしてプリマスに英第三軍集団が配備された。このうち第二軍集団は架空の部隊であり休養中のマウントバッテンを指揮官にすることで現実味を持たせた。ノルマンディーには日本機動部隊が空襲をかけ、パ・ド・カレーにはイギリス空軍が爆撃を徹底した。そしてサン=ナゼールには英海軍機動部隊が空襲を行った。又二重スパイも数多くのカレー上陸を促す文章を流し続けた。明け方にフランス北部を偵察したモスキートはノルマンディーからフランス軍が移動をしていたと報告してきた。同盟軍はノルマンディー上陸作戦を命じるとともにドイツ軍も同時にフランスへ大規模な反撃を加える計画が決定した。イラン戦線でも相当不利な戦をイラン軍は強いられていた。ドイツ軍とトルコ軍はダブリーズを通過してラシュトへ、第22軍と同盟の主力はそれぞれアフラーズ、バンダレアッバースを通ってシーラーズを包囲したと同時に北部ではサブゼバールを占領した。年が明けて一月四日にシーラーズに立てこもっていたイラン軍が降伏を決意するとその二日後、1948年の一月六日午前四時よりノルマンディーに上陸作戦が仕掛けられた。
「よし、発艦!」
武田の七式艦上戦闘機はカタパルトに押し出され背中を座席に押し付けられるような感覚と共に空に舞い上がった。中島のジェットエンジンが唸りを上げる。エンジンに異常は認められない。フランス空軍基地上空に辿りついた。フランス軍航空機が上陸部隊を攻撃するのを防ぐために近隣の飛行場に攻撃をかけた。武田はスロットルを開き降下すると照準環に敵の爆撃機が駐機しているのが映った。戦闘機には既にエンジンに火を入れ始めている物もあるがまだ上がっては来れないだろう。ロケットを発射した。八本のロケットが敵の爆撃機を爆発させる。直後ボフォースの40ミリ機関砲が追いかけて来たがロールを打ってそのまま離脱した。高度計がレシプロとは格段に違う針の振れ方をしてあっと言う間に高度2千に達した。そこで機体を水平にして飛行場を確認しようとすると燃え上がっていて煙のため観測不可能だった。そしてノルマンディーの付近の十字路にナパーム弾を投下した。ノルマンディーに駆けつけてくるであろうフランス軍の足止めだった。武田が戦闘機を纏めて帰投すると同盟艦隊の艦砲射撃が始まって地上の動くありとあらゆるものは彩雲から伝えられて艦砲射撃に吹き飛ばされた。上空をヘリコプターと戦闘機に護衛された上陸用舟艇はノルマンディーの浜辺にたどり着いた。最初に降りてきた海兵隊は直ぐに手に持っていた八ミリの厚さの鉄製の盾を地面に立ててそれを簡易的な掩体とした。小銃弾なら防ぐことができるこの盾を用意して兵員の損失を防ごうとした。特六式内火艇と第二波上陸部隊、更にはイギリスからの技術供与で作られた戦車揚陸艦である五式戦車揚陸艦がビーチングしてそこから五式中戦車が展開してきた。105mm戦車砲を次々と撃ちながら浜辺の同盟軍を支援する。ヘリコプターも上空からロケット攻撃、機関砲の掃射で同盟軍の上陸部隊を援護した。但し仏軍もアホではない。次々と臨戦態勢に入った部隊から攻撃してくるが何と言っても厄介なのが旧ソ連の120mm迫撃砲を元にしたオチキスの重迫撃砲だった。海岸付近に次々と撃ち込まれ、上陸用舟艇を破壊していた。
「早く進め!もっと早くしろ!」
峰尾少尉は操舵していた一等兵に怒鳴った。その声をかき消すかのように近くに重迫撃砲弾が降り注ぎ水柱を立てた。
「直撃くらったら全員靖国だぞ!早くしろ!」
「これでも全速力です!これ以上は出せません。」
速射砲にも狙われ始めたのか近くに次々と水柱が起こる。
「狙われとるぞ!浜辺まで急げ!」
「もう少しで浜辺です!」
その時至近に重迫撃砲が着弾した
「右舷被弾!浸水!」
「頑張れ!浜辺までたどり着け!」
叱咤ではなくもはや天への祈りの言葉だった。
「無理です!機関に浸水しました!機関停止!」
「次は命中だぞ!全員飛び込め!浜辺なんてあと二十m位だ!」
そう言うとランプを開けさせ次々と海の中に入っていく。深さは太腿のあたりである。操舵手も短機関銃を手にとって海に入った。米国製のブローニング重機関銃が火を吹いて海水を跳ねる。全員が飛び込んだ直後に45ミリ速射砲によって峰尾少尉の小隊が乗ってきた上陸用舟艇は木っ端微塵になった。なんとか浜辺にたどり着くと小隊の兵士を纏めた。四〇人いた小隊も合流できたのは二十三人のみだった。現在同盟軍の最大の脅威は左側面から浜辺を掃射する機関銃が据え付けられたトーチカとそれに付随する3インチ対戦車砲だった。破壊しにいったヘリコプターも一機が機関銃の餌食になった。彼等はもともと海軍特別陸戦隊の隊員から海兵隊になったいわば元特殊部隊である。すぐに弾薬補給に海岸に来たヘリコプター部隊に告げる、ヘリコプター部隊から艦隊に伝わり少尉が立てた奇襲計画にゴーサインが出た。ヘリコプター四機に分乗するとその丘の後ろに降り立った。後ろからトーチカに爆薬を仕掛けて爆破させる作戦だ。対戦車砲陣地には擲弾筒が狙いを定めた。足音を殺してトーチカのほぼ真後ろまで行き着けた。軍刀を振り下ろすと擲弾筒が発射された。直後トーチカの後ろ側の扉をこじ開けて中に手榴弾を投げ込んだ。トーチカの扉を閉鎖すると少し離れた。爆発した後に扉をあけてみると密閉空間に閉じ込められた爆風で兵士達の遺体は原型をとどめていなかった。
「同盟軍ノルマンディーに上陸!」
と言ったニュースは直ぐにパリのフランス政府に届けられた。但し二重スパイは次々とカレーに本上陸があり、ノルマンディーは陽動であると報告を重ねていた。これによりカレーへの本上陸の可能性を捨て切れなかったフランス軍は対応が遅れてしまい同盟は完全に橋頭堡を確保した。海兵隊は重戦車を持ってはいなかったがそのかわり四式八輪装甲車を保持していた。南アフリカのルーイカット装甲車をモデルに17ポンド砲を搭載した。装甲は一番厚いところでも25mmしかなかったが14tの軽量さと整地であれば最高時速75キロという快速性と1000キロの航続距離を持つため地上部隊の目として活躍していた。更にフランス軍主力中戦車のM4シャーマンの正面すら貫通できる能力を持っているため今回のノルマンディー上陸作戦では戦車が揚陸される前は橋頭堡の防衛に当たった。各歩兵大隊に一個小隊四両が配属されて舗装されたフランスの道路を走り回った。その任務は偵察、後方攪乱、輸送車両の護衛、パトロール、歩兵支援と多岐にわたり不整地では使えないがその機動力と火力から主力として運用されていた。けれど装甲の不足は仕方がなく旧来の37mm速射砲にすら貫通された。それもその筈、この装甲はもともと二〇ミリ機関砲を防げればいいといった判断だったのだ。ノルマンディーを完全に占領し、近くのカーンを同盟軍は攻め始めた、カーンにはノルマンディーの橋頭堡に攻撃をかけるためのシャーマン戦車20両余りとほぼ同数のチャーフィー軽戦車とイタリア製で連合国で使われているAB41装甲車が四両、歩兵二個連隊が展開していた。対する最初に送り込まれたのは四式八輪装甲車が16両、同数の六式中戦車、4両の九三式突撃砲と海兵隊一個旅団だった。制空権を掌握している同盟の空爆の下カーンに偵察にでたのは第一装甲車中隊の第二小隊の四両だった。
「おい、見てみろ、やっこさんのんびりと朝飯食ってやがるぜ。」
双眼鏡を目から離すと偵察隊隊長であり、第二小隊の小隊長でもある須賀少尉は無線に向かって呟いた。
「一発驚かせるか。」
小隊副官の杉山准尉だった。下士官学校の同期であり、たまたま前のソ連戦で軽戦車を率いて須賀がソ連軍補給部隊を奇襲してその戦功で准尉から少尉に先に進級したが今でもタメで話す間柄だ。
「やめておけ。」
笑いながら言い返す。
「対戦車砲座を探すのが任務のはずだ。」
杉山に言われる。
「ああ、街の入口に二門あるがそれ以外は確認できんな、それより戦車が約40両もいる。旅団司令部に報告するべきだ。」
「それもそうだな。これより味方陣地に帰還する。楔型陣形を保てよ。」
少しバックすると味方陣地に向かって前進した。
「報告します!須賀小隊は敵陣への偵察任務を終えて帰還しました。」
「ご苦労、で、成果は。」
「はっ!二門の対戦車砲座がこことここにあります。ですがそれより気になったのは戦車の数ですが確認しただけで30を超えています。」
「そうか、我々への逆襲を考えているかもしれん。よし、先手必勝だ。カーンの街を強襲する!ヘリコプター部隊に支援を依頼しろ!」
「了解!」
旅団長の副官が走っていく。
「貴様らも補給したら前線に行ってくれ。」
「わかりました。」
小隊に戻ると給油して出発した。この攻撃でも足の早い装甲車は先鋒を担った。
「左敵装甲車!」
イタリア製のAB41だ。主砲に二〇ミリ機関砲を有する軽装甲車だった。
「俺がやる!」
須賀は車長用の12・7ミリ重機関銃を掴むと発砲した。ダダダダダ!敵の車体を貫いてすぐにAB41は動きを止めた。
「よし、前進!」
まさに不意打ちだった。不意打ちをくらって慌てて街からばらばらに飛び出してきたチャーフィーは17ポンド砲によって撃ち抜かれた。更にヘリコプターが上空から飛来した。
「なんだこれは?既に地上軍はフランスを圧倒してるじゃないか。」
「機長、落ち着いてくださいな。早く攻撃しますよ。」
「ああ。」
機体をシャーマンに向けて正対させる。照準環に収まると発射レバーを引く。三〇ミリリボルバーカノンがシャーマンのエンジンベットを捉えて爆発させた。
「福井、高島!歩兵を掃射しろ!」
ヘリコプターは操縦手が機長を兼ねて、その後ろに航法士、左右のドアガンを操つる射手が二人の合計四人の兵士が運用した。ドアガンは汎用機関銃ですぐに弾薬が地上に撃ち込まれた。薬莢が排出されてフランス歩兵をバタバタとなぎ倒す。結局フランス軍は大した反撃も行えずに退却した。これに業を煮やしたフランス政府は戦艦クレマンソーを旗艦として正規空母パリ(エンタープライズ)、軽空母マルセイユ、軽巡ド・グラース、米国から供与されたフレッチャー級駆逐艦4隻にル・アルディ級駆逐艦12隻の計16隻の駆逐艦をノルマンディーに向かわせて海上輸送路の遮断を命じた。ロリアン軍港を出港した艦隊は英仏海峡入口で日本海軍空母白龍所属の彩雲二二型に発見された。すぐに同盟の白龍、黒龍、旅順、北京から攻撃隊が編成されて出撃した。艦上戦闘機には対艦兵装を施さなかった。フランス海軍もこの動きを掴みパリ、マルセイユからF8F戦闘機を発進させた。同盟の艦攻は五式航空魚雷を搭載した。ジェット機の速度から投下されても壊れず、爆発せず、直進する、といった諸条件をなんとかクリアした1200kgの航空魚雷だ。艦攻、艦爆を護衛する艦戦によってフランスのF8Fが発見されて戦闘に入った。
「堕ちろ!」
二〇ミリ機関砲を喰らわせたF8Fは翼を折られて海面へと叩きつけられた。フランス海軍のF8Fに後ろを取られた武田はスロットルを最大にしてすかさず安全な空域まで離脱した。空中戦では必死に爆撃機、攻撃機に突っ込もうとするフランス海軍機がジェット戦闘機を有する同盟海軍機により次々と堕とされていた。その時、味方がいない空域からF8Fが二機舞い降りてきた。
「危ない!」
通じる訳ではないがとっさに武田はそう叫んだ。叫ぶが早いかスロットルを入れて機体を攻撃機との間に滑り込ませる。カンカンと金属がぶつかり合う嫌な音がした。敵の機銃は左翼の日の丸の部分と操縦席背面に命中していたが操縦席背面の防弾板が食い止めてくれて発動機、燃料系統には異常は無かった。そのF8Fも二番機が撃墜した。結局二十余のF8Fは全て撃墜されて攻撃隊の損害は戦闘機一と攻撃機一のみだった。フランス艦隊上空に突入した同盟軍を待ち受けていたのは対空砲火の嵐だった。軽巡ド・グラースが艦隊の先頭に立ち、そこからぐるりと円を描くように駆逐艦が位置し、その円の中に前からパリ、マルセイユ、クレマンソーが進んだ。輪形陣の外を守る駆逐艦に対して同盟軍は攻撃を仕掛けた。
「よし、一発ぶちかます!」
武田の戦闘機は素早く海面を滑るように飛行すると駆逐艦に機関砲を撃ち込んだ。艦上を駆け抜けると旋回してもう一度その艦を射撃した。駆け抜けては引き返して機関砲を叩き込む。これによって甲板の機銃員は多数がやられ徐々に対空砲火が衰えていった。
「よし!行け!」
見ると五式艦爆彗星が対空砲火の衰えた駆逐艦に急降下して爆弾を投下した。彗星は今回1t爆弾三発を投下した。二本の水柱のあと一発は不発かと思ったが遅延信管が作動してその船体を真っ二つに折った。轟沈した駆逐艦が守っていた部分に防衛の穴があきそこから六式艦攻天山が侵入した。魚雷を抱いた艦攻はクレマンソーへと接近、爆弾を抱いた反跳爆撃を行う艦攻は軽空母に殺到した。パリ上空には二十余りの彗星がたかって爆弾を投下していた。既に1t爆弾一発を被弾し、飛行甲板はめくれ上がっていた。戦闘機隊は駆逐艦を狙い繰り返し銃撃した。これによって対空砲火の的を攻撃隊に向けさせないためだ。
「ちょい右、進路そのまま進めヨウソロウ、ヨウソロウ、ッテ!」
ふわっと機体が浮き上がり魚雷が水中に投下される。
「電信員、しっかり見とけよ!」
田丸准尉の機体が放った魚雷はクレマンソーの土手っ腹に突っ込んだ。大きな水柱が立ち、命中を意味していた。
「命中!戦艦クレマンソーに命中!」
機関部を捉えた魚雷は機関部浸水を引き起こし、まもなくクレマンソーは機関停止になった。その時六式七機が扇形の雷撃陣形から雷撃し、四本を命中、更に1t爆弾三発の命中も重なり、クレマンソーは業火に包まれた。反跳爆撃は軽空母マルセイユも撃沈、唯一残る大型艦パリには艦爆と魚雷を投下できなかった艦攻が一斉に突入した。至近弾が大きな水柱を作り、それが滝の如く落下して機関銃員を海へと拉致する。更に攻撃機が右舷後方から扇形を保って突入、雷撃した。
「右舷後方より雷撃機四接近!」
「面舵いっぱい、全速前進!」
32000tの船体が唸りを上げて波を切る。
「敵急降下爆撃機三、十二時方向より急降下!」
「くっ!」
「命中します!」
「総員、ショック対応姿勢!」
身を震わせるような轟音と共に焔が上がった。密閉式格納庫が祟って格納庫内部の航空機が燃え上がり鎮火は到底無理だった。
「格納庫にて火災発生!鎮火は困難です。」
「クソ、総員最上甲板!」
パリが燃え上がる中軽巡に移動した艦隊司令部はパリの雷撃処分と撤退を決めた。パリは雷撃により処分され他の艦艇は命からがら逃げ帰った。同盟側の損失は艦戦一、艦爆七、艦攻五に過ぎなかった。ノルマンディー上陸作戦の成功はアメリカ軍にも大いなる成果をもたらしたがそれは又先のお話




