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EP 10

新たな訪問者と、宴の夜

 聖教国の騎士団が、芋ジャージ姿で帰っていった夕暮れ時。

 カイト農場には、戦い(接客)を終えた心地よい疲労感と、達成感が漂っていた。

「ふぅ……。みんな、お疲れ様! ピザ、喜んでもらえてよかったね!」

 カイトが汗を拭いながら言うと、神々や魔王たちは顔を見合わせて苦笑した。

 喜んだどころの話ではない。信仰そのものを書き換え、魂まで骨抜きにしたのだから。

「まあ、貴様のピザなら国の一つや二つ、傾いても不思議ではないな」

 竜神デュークが葉巻をふかしながら笑う。

 その時だった。

 西の空から、一羽の白フクロウが飛んできた。その足には、立派な封蝋ふうろうがされた手紙が握られている。

「ん? 郵便屋さんかな?」

 カイトが腕を差し出すと、フクロウは手紙を落とし、「ホーッ(返事は待つ)」と鳴いて木の枝に止まった。

 手紙の差出人を見て、魔族宰相ルーベンスが眼鏡を光らせた。

「……ほう。この紋章は、大陸随一のエリート校『王立魔法学園』ですね」

「えっ、学校?」

 カイトは手紙を開いた。

 『拝啓、アナステシア・ファーム代表 カイト殿。

 貴殿の農場が作り出す「奇跡の野菜」の噂は、当学園にも届いております。

 つきましては、ぜひ一度学園にお越しいただき、その栽培技術についての講演と、学食への食材提供についてご相談したく――』

「すごい!」

 カイトが声を上げた。

「王立の学校からオファーが来たよ! 俺の野菜を給食に使いたいって!」

「講演……ですか。貴様を研究材料にしたいという魂胆が見え隠れしますが」

 ルーベンスが警戒するが、カイトはポジティブ全開だ。

「これはチャンスだよ! 若い学生さんたちに、美味しい野菜を食べてもらえるんだ。断る理由はないよ!」

 カイトはキラキラした目で周囲を見渡した。

「ねえみんな、一緒に行かない? たまには農場を出て、遠足みたいで楽しそうだし!」

 その言葉に、最強の面々が反応した。

「遠足……? ふむ、学園都市には美味いラーメン屋があると聞く。視察も悪くない」

 デュークがニヤリとする。

「私も行くわ! カイトに変な虫(女子生徒)がつかないように監視しなきゃ!」

 魔王ラスティアが鼻息を荒くする。

「学園……。あそこは私の母校でもありますわ。久しぶりに『お礼参り(破壊)』に行きましょうか」

 ルナが物騒なことを言いながら微笑む。

「……俺も行こう。カイトの護衛が必要だ」

 龍魔呂が静かにグラスを拭きながら言った。

「決まりだね! 出発は数日後にして……今日は前祝いだ!」

 カイトが高らかに宣言した。

「残ったピザと、デュークさんのラーメン、それに龍魔呂さんの料理で、今日は朝まで宴会だーッ!!」

 †

 日が落ち、農場に魔法の明かりが灯された。

 昼間の殺伐とした空気が嘘のように、今は笑い声と食器の音が響き渡っている。

「かんぱーい!!」

 ジョッキがぶつかり合う。

 今日のメニューは豪華絢爛だ。

 カイト特製「冷めても美味いピザ」。

 デューク入魂の「〆のミニラーメン」。

 そして、龍魔呂が腕を振るった「鶏の唐揚げ」と「採れたて野菜の煮浸し」。

「ん~っ! 龍魔呂の唐揚げ、最高! ビールが進むわぁ!」

 ジャージ姿の創造神ルチアナが、唐揚げを頬張りながらご満悦だ。

「……隠し味に、カイトのニンニク醤油を使っている。合うだろう」

 龍魔呂は少し照れくさそうに、追加のハイボールを作っている。

「ブヒィッ! 俺たちの作ったチーズも最高だブヒ!」

 オークたちがピザを囲んで踊っている。

「あら、お花が足りませんわね。咲かせましょう!」

 ルナが杖を振ると、宴会場の周りに季節外れの桜が満開になった。

「風流ですな……。これで月見酒といきますか」

 竜王ドラグラスが、天使長ヴァルキュリアにお酌をしている。かつての敵対種族同士が、今は同じ酒を酌み交わしている。

 そして、その中心には――。

 『ガツガツッ! ムシャムシャ!』

 山盛りの唐揚げとピザを吸い込むように食べているポチ(始祖竜)の姿があった。

 その横で、狼王フェンリルも負けじと肉にかぶりついている。

「きゅぅ~(うまい!)」

「ワンッ!(最高だぜ!)」

 カイトは、そんな賑やかな光景を、縁側に座って眺めていた。

 手には、龍魔呂が作ってくれた「カルーア・ミルク(角砂糖入り)」がある。

「……平和だなぁ」

 異世界に来て、最初は不安だった。

 でも今は、こんなにも頼もしい仲間たちがいる。

 神様も、魔王も、鬼神も、みんなここでは「ただの食いしん坊」だ。

「カイト」

 隣に、龍魔呂が座った。

 彼もまた、穏やかな目で宴を眺めている。

「……お前が作った場所だ。悪くない」

「えへへ。そうでしょ?」

 カイトは夜空を見上げた。

 満天の星が輝いている。

 次の舞台は「学園」。きっとまた、大騒ぎになるだろう。

 でも、このメンバーなら大丈夫だ。どんなトラブルも、きっと笑い話(と美味しいご飯)に変えられる。

「さあ、明日は収穫だ! みんな、飲みすぎないようにね!」

 カイトの声に、全員が笑顔で応えた。

 最強の農夫と、規格外の居候たちの夜は、まだまだ終わらない。

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