表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
37/434

EP 7

女神ルチアナ、酔っ払って登場

 天使長ヴァルキュリアの降臨によって、聖教国の騎士団は完全に沈黙した。

 だが、信仰の拠り所を失いかけているボルジア枢機卿だけは、狂乱のふちで踏みとどまっていた。

「認めん……! 断じて認めんぞ!」

 彼は血走った目で叫んだ。

「天使長様が、あのような農婦の格好をして、異端者に味方するはずがない! これは悪魔が見せている幻術だ! そうだ、貴様らは集団催眠にかかっているのだ!」

 ボルジアは天を仰ぎ、最後の祈りを捧げた。

「お救いください、創造神ルチアナ様! この不届きな偽物たちに、真の裁きを! あなたの敬虔な信徒である私に、御力をお貸しください!」

 その悲痛な叫びが、農場の空気に波紋を広げた。

 そして――願いは聞き届けられた。

 ただし、彼が想像していた形とは、180度違う方向で。

 「――あ~もう、うるさぁぁぁぁいッ!!」

 屋台『龍神軒』の赤提灯が揺れた。

 のれんをバッと跳ね上げて出てきたのは、一人の女性だった。

 金色の髪はボサボサ。

 上はヨレヨレの芋ジャージ、下はスウェット。

 右手には飲みかけの生ビールジョッキ、左手には齧りかけの焼き鳥(豚バラ)を持っている。

 顔はほんのり赤く、足元は千鳥足だ。

「せっかくの休日なのに! デュークのラーメンと龍魔呂のカクテルで優勝してたのに! ギャーギャー喚いて、酒が不味くなるじゃないのよ!」

 彼女はゲップを漏らしながら、ボルジアを睨みつけた。

「な、なんだこの女は……?」

 ボルジアは呆気にとられた。

 神聖なる戦場に、場違いな酔っ払い女が現れた。

「ええい、下がれ下民げみん! 私は今、創造神ルチアナ様と交信しているのだ! 貴様のような薄汚い酔っ払いが……」

「あぁん?」

 女性がこめかみに青筋を浮かべた。

 その瞬間、彼女の全身から『神気』が爆発した。

 ズドオオオオオオオッ!!!!

 大地が悲鳴を上げ、空の色が七色に変わる。

 天使長ヴァルキュリアの時とは比較にならない、世界そのものを構成する根源的なプレッシャー。

 だが、その圧力には微かに「アルコールの匂い」が混じっていた。

「だ・れ・が、薄汚い酔っ払いよ?」

 彼女の背後に、光のヘイローが出現する。ただし、少し歪んでいる。

「ひっ……!?」

 ボルジアが息を呑む。

 この圧倒的な存在感。魂が本能的に平伏を強要されるこの感覚。

 まさか。嘘だろ。

 その時、空中に浮いていたヴァルキュリアが、慌てて地上に降りて跪いた。

「も、申し訳ありません! ルチアナ様! 私が処理に手間取ったばかりに、お手を煩わせてしまい……!」

「ル……ルチアナ……様……?」

 ボルジア、聖女アリア、勇者カイル、そして騎士団全員が石化した。

 ヴァルキュリア(本物の天使長)が、あのジャージ女を「ルチアナ様」と呼んだ。

「そ、そのお姿……まさか……」

 ボルジアは教典の挿絵を思い出した。

 純白のドレスを纏い、慈愛に満ちた微笑みを浮かべる女神ルチアナ。

 目の前にいるのは、ジャージを着て、焼き鳥のタレを口につけ、ビール片手に仁王立ちする女。

 【理想】 vs 【現実】

 パリンッ。

 ボルジアの中で、何かが砕け散った。

「う、嘘だぁぁぁぁッ!! 私の女神様が、こんな干物女ひものおんななわけがなぁぁぁいッ!!」

「誰が干物よ! 私はありのままの自分を愛してるの! 文句ある!?」

 ルチアナはジョッキを地面に叩きつけ(割れないように加減して)、指を鳴らした。

「いいわ、そんなに疑うなら証拠を見せてあげる。【世界改変ワールド・エディット】!」

 彼女が酔った勢いで世界に干渉した。

 一瞬にして、空から「おつまみのスルメやナッツ」が降り注ぎ、農場の近くの川が「ビール」に変わった。

 神のみぞ行える、理不尽な奇跡。

「見たか! これが神の力よ! ついでにアンタらの鎧、重そうだからジャージに変えてあげるわ!」

 シュンッ!

 騎士団500名の白銀の鎧が、一瞬で「学校指定の芋ジャージ(えんじ色)」に変わった。

 聖女アリアの法衣も、勇者カイルの装備も、全てジャージだ。

「い、いやぁぁぁ! ダサい! ダサいですわぁぁ!」

 スッピンのアリアが絶叫する。

 これで確定した。

 目の前の酔っ払いは、紛れもなく、この世界の創造主である。

「神よ……なぜ……なぜなのですか……」

 ボルジアはその場に崩れ落ちた。

 信仰していた神が、自分たちをジャージに変えてゲラゲラ笑っている。

 地獄の方がまだマシだった。

 ――そんなカオスな状況に、一人の男が割って入った。

「こらー! ルナちゃん(偽名)! また飲みすぎたのか!」

 カイトだ。

 彼はピザカッターを持ったまま、創造神に駆け寄った。

「お客さんに失礼だろ! それに、魔法で衣装を変えるイタズラはやめなさい!」

 カイトはルチアナの手からビールジョッキを取り上げ、代わりに「お冷(水)」を持たせた。

「ほら、水飲んで! 頭冷やすんだ!」

「むぅ……。だってカイトぉ、こいつらがうるさいんだもん……」

 ルチアナがむくれる。

 世界を創造した女神が、一人の農夫に叱られ、シュンとしている。

「うるさくても、お客さんは神様だろ? ……あ、ルナちゃんも自称女神様だったっけ。ややこしいな」

 カイトは呆れたように笑い、ルチアナの背中をさすった。

「ほら、向こうで座ってて。あとで味噌汁作ってあげるから」

「……ん。カイトの味噌汁なら許す」

 ルチアナは大人しく屋台の方へ戻っていった。

 †

 その光景を見ていたボルジア枢機卿は、今度こそ完全に理解(誤解)した。

(あ、あの男……。創造神ルチアナ様を『ルナちゃん』と呼び、酒を取り上げ、説教し、味噌汁で餌付けした……?)

 神を使役する男。

 いや、神すらも「手のかかる同居人」として扱う男。

 彼こそが、この世界の真の支配者フィクサー

「ひっ……ひぃぃぃ……!」

 ボルジアは失禁しながら後ずさった。

 勝てるわけがない。神に挑むどころか、神を飼っている男に喧嘩を売ってしまったのだ。

「に、逃げ……」

 ボルジアが逃亡を図ろうとした、その時。

 農場の影から、冷酷な声が響いた。

「……お会計はまだだぞ」

 次回、鬼神龍魔呂が動く。

 「閉店時間だ。帰れ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ルナちゃん(ルチアナ様)とルナちゃん(エルフ)の二人のルナちゃん居るんですね、そういえば…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ