EP 3
【謁見】魔王討伐と、王国への「経済テロ」
「おお! よくぞ参った、勇者(農民)とその一行よ!」
はじまりの村を(経済的に)壊滅させたカイトたちは、ルチアナのチートによる瞬間移動で、あっという間に王都の城へとやってきた。
玉座の間には、立派な王冠を被ったテンプレ通りの王様が、ふんぞり返って座っている。
「ワシはこのグランバニア王国の王じゃ! 実は、憎き魔王によって、愛しの姫がさらわれてしまったのだ!」
王様が悲痛な面持ちで語りかける。
王道RPGお馴染みの、イベント導入ムービーといったところだ。
「どうか魔王を討ち倒し、姫を助け出してくれい! 頼んだぞ、勇者……いや、そこの農民よ!」
「はいっ! 任せてください! 僕、頑張ります!」
カイト(農民・Lv1)は、麦わら帽子を胸に当てて深くお辞儀をした。
(よかった……! 村人の保険を解約した時はどうなるかと思ったけど、やっとまともなRPGの展開になったぞ!)
カイトが感動で涙ぐんでいると、横にいた飲んだくれ(ルチアナ)が、あくびをしながら虚空にホログラムのウィンドウ(魔導情報端末)を呼び出した。
「ふぁ~あ。魔王討伐ねぇ。まあいいけど、さっき村から巻き上げた1000万Gじゃ、ちょっと『軍資金』が心許ないわね」
ルチアナが高速で空中のキーボードを叩き始める。
「軍資金? もう十分すぎるくらいあるだろ!? これ以上何を……」
「フフフ。これよ、これ」
ルチアナの指先が、王国のネットワークの最深部――【王家専用・中央銀行システム】へとハッキング(管理者権限で強行突破)を仕掛けた。
「な、なんじゃ!? ワシの玉座の横に、国の財政状況のグラフが……!?」
王様がギョッとして立ち上がる。
「王様、魔王を倒すには圧倒的な『資本』が必要なのよ。だから……この国の『国債』を、無制限に刷りまくって市場に流すわ!」
ターンッ!!
ルチアナがエンターキーを叩いた瞬間。
玉座の間に浮かび上がった巨大なグラフの【国債発行残高】が、天文学的な数字へと跳ね上がった。
ピロロロロロン!!
『警告:グランバニア王国の通貨供給量が限界を突破しました。ハイパーインフレが発生します』
無慈悲なシステム音声が玉座の間に響き渡る。
「ヒィィィッ!? ワ、ワシの国の通貨価値が、紙くずのように暴落していくぞい!?」
王様が泡を吹いて倒れそうになる。
「ちょっとルチアナ!? 何してんの! 国が滅んじゃうよ!!」
カイトがルチアナの肩を揺さぶるが、彼女の邪悪なタイピングは止まらない。
「うるさいわね! これぞ究極の錬金術(金融緩和)よ! 刷りまくった資金を元手に、今度は魔王領の通貨を全力で空売り(ショート)してやるわ!」
「あ、空売り……!?」
魔法使いのルナが、感心したように手をポンと打った。
「なるほど。魔王領の通貨を借りて市場で売り払い、後で価値が暴落した時に買い戻して返すのね。差額で莫大な利益が出るわ」
「ルナさんまで! なんでエルフがそんなエグい金融知識持ってるの!?」
カイトのツッコミが追いつかない。
「いけえええええ!! 機関投資家の恐ろしさを思い知れ、魔王ォォォ!!」
ルチアナが狂ったように笑いながら、魔王領の通貨に凄まじい売り浴びせを行った。
グラフ上で、魔王領の通貨価値がナイアガラの滝のように真っ逆さまに落ちていく。
「ひゃはははは! 儲かる儲かるゥ! これで魔王軍の資金繰りは完全にショートよ! ゴーレムの維持費も、オークの給料も払えなくなるわ!」
「……」
料理人の龍魔呂は、無言で錆びた中華包丁を眺めながら「早く夕飯の仕込みに戻りたい……」と呟いていた。
「ああっ……! ルチアナ様、私のお財布のマイナスが、さっきのインフレのせいでさらに倍増してますぅぅ!」
貧乏神のリーザが、所持金【-1,000,000 G】の表示を見て白目を剥いている。
そして、玉座では……。
『報告します! 我が国のインフレ率が5000%を突破! パン1個買うのに、金貨がリアカー1台分必要です!』
伝令の兵士が涙ながらに王様に報告していた。
「終わった……。ワシの国は、勇者が旅立つ前に経済破綻じゃ……」
王様は真っ白に燃え尽き、玉座からズルズルと滑り落ちた。
「…………」
カイトは、王冠が転がる玉座の間で、手にした『ひのきのクワ』を強く握りしめた。
そして、腹の底から咆哮した。
「だから、お前が魔王だろォォォォォ!!!!」
物理攻撃力ゼロの勇者(農民)パーティーは、剣を一度も振るうことなく、王国の経済を焼け野原にして魔王城へと旅立った。




